【24】手抜きにも程がある!
ヴァルアに帰って来てしばらくは今まで通り暮らしていたが、最近冷え込みが厳しくなってきた。
特に朝と夜がつらい。
暖房やこたつなどがある訳もなく、小さな暖炉を使って暖を取っている。
クエストに行くのも億劫になってきた。
そう考えるのは俺だけじゃないらしく、冬はクエストの報酬が増えるらしい。
こんな好機を逃してはならない!
マイホームの為、俺は冷えた体に鞭打って、クエストをこなしていった。
休みの日は錬金術などをしている。
この前の旅で蛙の魔物が毒攻撃を持っていたからだ。
・・・・・うん、俺は毒消しを持っていない。
レイアが解毒の魔法を使えると言っているが、そのレイアが居なかったら大変だ。
これはマズイと思って、フォルミナさんに教えてもらったのだ。
今は自分で材料を取って来て毒消しを作り、みんなにも持たせた。
余った分はギルドに売っている。
ヒトミとリワンはあまり外に出ない。
家の中でアルギュロスと遊びながら、暖炉の前でぬくぬく過ごしている。
最初はクエストをやっていたレイアも、俺に金を返した後は、2人と同じようにゴロゴロし始めた。
一番元気なのはやはりアルギュロスだ。
冬毛なのかどうかわからないが、前よりモフモフしている気がする。
そもそも魔物に冬毛なんかあるんだろうか?
寒い日も元気に庭を走り回っている。
◇
「今日はご馳走だからね」
「何かあったっけ?」
「たぶん今日あたりがクリスマスよ」
「この世界にもクリスマスがあるのか?」
「無いわよ。だからたぶんって言ったでしょ?」
「・・・・・」
「クリスマスって何ですか~?」
「家族とか仲のいい人達と一緒に楽しく過ごす日の事よ」
今日は美女3人と楽しく過ごそう。
「爆発しろ!」って言われそうだな。
ヒトミに買い出しを頼まれたので、アルギュロスを連れて出掛けた。
3人は台所で忙しそうに料理を作っている。
頼まれた大量の肉と果物を買って家に帰った。
酒も買っておこうかと思ったが、碌な事にならないだろうから止めておいた。
家に帰り、暖かい部屋の中でアルギュロスと遊んでいると、次々と料理が運ばれてきた。
さっきからずっといい匂いがしていたので、腹が減って仕方なかった。
ローストチキンにサラダ、スープにフルーツ。
クリスマス定番の料理がテーブルに並べられていく。
「おい、ちょっと酒の量が多くないか?」
「今日ぐらいいいじゃない!」
「・・・・・」
「大丈夫だから!」
「・・・・・もう看病しないからな」
「わかってるって!」
リワンとアルギュロスは肉にかぶりつき、ヒトミとレイアは酒に舌鼓をうっている。
リンガンブールから帰って来た辺りから、こいつらの酒の量が増えている気がする、、、
「次はこれよ!」
「ケーキ、、、じゃないな」
「フレンチトーストの上に果物を乗せてみたの」
「う~ん!甘くて美味しいですね~」
「これは凄いです!作り方を教えて下さい!」
「いいわよ」
出来れば生クリームのケーキが良かったが、生クリームってどう作るんだっけ?
「みんなこの帽子をかぶってね」
「これは何ですか~?」
「クリスマスの時の衣装よ」
ヒトミが白いフワフワのボールがついた赤い帽子を2人に渡している。
アルギュロスにも帽子をかぶせているが、すぐにあのボンボンは食い千切られるんじゃないか?
まぁ、それはいいとしておこう。
—————何で俺がトナカイなんだ?
茶色い帽子に紙で作られた角が、雑に取り付けられている。
手抜きにも程がある!
「ヒトミ、俺の帽子は何なんだ?」
「わかんないの?トナカイよ」
「トナカイならアルギュロスだろ?」
「最初はそのつもりだったんだけど、上手く作れなかったのよ」
「・・・・・」
飾りつけもプレゼントも無いシンプルなクリスマスだが、レイアとリワンも楽しんでいるようだ。
ニコニコしながらフレンチトーストを頬張っている。
美味い物が食えればそれでいいんだろう。
「このパンは凄く美味しいれふね」
「ヒトミお姉ひゃんはお料理が上手れふ~」
「リワンちゃん、ありがとー」
「・・・・・おい、レイアとリワンはもう酒を飲むな」
「どうしてれふか?」
「酔ってるからだ」
「私はまららいじょうぶれふ~」
「ダメだ!」
2人が持っている酒を取り上げると、レイアとリワンは頬を膨らませながら、フラフラと俺の所に歩いてきた。
「ごひゅりん様~!」
「お酒を返してくらはい!」
2人は俺にしなだれかかって、頬にチュッチュッとキスをし始めた。
「—————お、おい!」
「ちょ、ちょっと2人共何してんのよ!」
俺はリワンを、ヒトミがレイアを引き離した。
バタバタ暴れるレイアを、ヒトミが羽交い締めにしたまま、隣の部屋に引きずって行った。
リワンはまだ俺にキスしようと、「ん~ん~」言いながら唇を尖らせている。
戻って来たヒトミが、今度はリワンを捕まえて、隣の部屋に連れて行った。
しばらくしてから帰ってきたヒトミが、ため息をつきながらテーブルについた。
「2人は?」
「ベッドに寝かせてきたわ」
それにしてもあの2人はキス魔なのか?
それならたまに飲ませるのは有りかもしれないな。
2人きりの時に、、、
「変な事考えてるでしょ!」
「・・・・・考えてねぇよ」
「ふん!鼻の下伸ばしちゃって!」
「・・・・・誤解だ」
「何を考えてるかは何となくわかるけどね!」
ヒトミはブツブツ言いながら、コップに酒を入れて一気にあおりだした。
「待て待て、お前まで潰れる気か!」
「お前はやめてって言ったでしょ!」
あっという間に目が座り始めたヒトミに、夜中まで付き合わされた。
そこで愚痴というより、悪口を延々と聞かされた。
もちろん俺の悪口だ。
スケベだとか変態だとか、言いたい放題言っていた。
何回も同じ話を繰り返している。
典型的な酔っぱらいだ。
一頻り捲し立てた後で、急に大人しくなり、そのままテーブルに突っ伏してしまった。
ヒトミの部屋のベッドはレイアとリワンに占領されているから、リビングにマットを敷いてその上にヒトミを寝かせた。
テーブルを片付けてから、俺もヒトミの隣で横になった。
散々なクリスマスの夜だった、、、