【20】この猫かぶりが!
「あら、いらっしゃい」
「女将、邪魔するぞ」
カルバンさんが座ったテーブルの向かい側に、ヒトミと並んで腰かけた。
注文はすべてカルバンさんにお任せした。
「リンガンブールに来た時は、いつもここで飲んでるんだ」
女将だけでなく、周りの客達とも笑いながら話をしている。
ここの常連らしい。
しばらくすると、酒と料理が運ばれてきた。
串に刺さった肉と、野菜の炒め物、小さな樽と酒の入ったコップが2つ。
小さな樽はもちろんカルバンさんの物だ。
酒を飲み、料理に舌鼓をうちながらいろいろ話をしていると、ヒトミはあっという間に馴染んでしまった。
ヒトミに人見知りという言葉は無いのか、、、
「するとお嬢ちゃんも冒険者なのか?」
「はい、そうです」
「こんな可憐なお嬢ちゃんがなぁ」
「そ、そんな可憐だなんて、、、」
ヒトミは少し俯きながら頬を抑えている。
この猫かぶりが!
酒が進むにつれて、他の客とも楽しそうに話していたヒトミは、少し前からテーブルに突っ伏している。
昨日と全く同じ光景だ。
周囲の楽しそうな空気に当てられて、最初は俺も結構飲んでいたが、昨日の事を思い出して、途中から飲むペースを落としておいた。
良い判断だったようだ。
俺まで潰れる訳にはいかない。
パラパラと客が帰りだした頃、「俺らもそろそろ帰ります」とカルバンさんに伝えた。
カルバンさんはもう少しここで飲んでいくらしい。
タフな人だ。
「今日は楽しかったです」
「ああ、俺もだ」
「ところで、2人は何の武器を使ってるんだ?」
「俺は片手剣でこいつが細剣です」
「わしらは明日帰る。そろそろ帰らないと次の商隊が出発してしまうんでな。もしアルベーリに来る事があったら、鍛冶の工房に来てくれ。俺が武器を作ってやる」
「本当ですか!?」
「ああ、無料という訳にはいかんが、安くしてやる」
ヒトミに肩を貸して立ち上がり、カルバンさんに別れを告げ、俺達の分の支払いを済ませて店を出た。
外は涼しい風が吹いていて気持ちがいい。
「おい、歩けるか?」
「・・・・・おんぶして~」
「・・・・・」
「早くおんぶして~」
俺が返事をする前に背中に回り込み、肩に腕を乗せてもたれかかってきた。
仕方ないので少ししゃがんで、そのまま足を持ち上げる。
「落ちるなよ」
「・・・・・はーい」
ヒトミが腕を首に回して力を込めた。
—————より体が密着する
背中が幸せだ。
昨日はレイアの細身だがムチムチで張りの良いふともも、今日はヒトミの柔らかで雄大な双峰。
クッ、、、
夜遊びに行きたい、、、
こんな温泉街ならあるに違いないのに、、、
火照った体を夜風で冷ましながら宿に帰った。
「ただいま」
「ご主人様~、おかえりなさい~」
「おかえりなさい」
宿の部屋では、レイアとリワンがアルギュロスと遊んでいた。
出掛ける前は眠っていたのに、起きてしまったのか、起こされたのか、、、
おぶっているヒトミをベッドに寝かせ、布団を掛けた。
ヒトミはスヤスヤと気持ち良さそうに眠っている。
「ヒトミお姉ちゃんはキスしませんでしたね~」
「!?」
それを聞いて、レイアの顔が真っ赤になった。
昨日のキスの事は聞いていたようだ。
「きょ、今日も飲んでいたのですか?」
「ドワーフのおじさんと温泉で知り合って、その人も一緒にな」
「ドワーフ、、、ですか?」
「・・・・・あー、もしかしてエルフとドワーフって仲が悪いのか?」
「良くも悪くもありません。大昔は仲が悪かったみたいですが、、、」
「それって首飾りか何かが原因なのか?」
「さぁ、そこまでは、、、。何か知っているのですか?」
「いや、何でも無いよ」
エルフとドワーフの先入観は捨ててしまった方が良さそうだ。
◇
「う~、頭が痛い、、、」
「ヒトミお姉ちゃん、大丈夫ですか~?」
「レイア、昨日のお薬は無いの?」
「すいません、全部飲んでしまいました」
3人は今日も出掛ける予定だったらしいが、ヒトミがこの調子なのでアルギュロスの世話をしてくれる事になった。
リワンがヒトミとアルギュロスの世話をして、レイアはクラリーの家に薬をもらいに行くらしい。
俺は部屋を出て、ギルドに向かった。
カルバンさんのいるアルベーリという町がどこにあるか調べてみたが、俺達の帰る方向とは逆の方角だった。
いきなり行くのもなんだし、いつか近くに来た時に寄る事にしよう。
転移ゲートの場所を確認してからギルドを出て、町をぶらついた。
食べ物を中心にお土産をたくさん買って宿に戻ると、ヒトミは完全に回復していた。
あの薬、メチャメチャ効くんだな。
昼からは3人で買い物に出掛けるみたいだ。
アルギュロスに留守番をさせて、みんなで昼食に向かう。
昼食後、3人は早々に買い物に行ってしまった。
こんな温泉街で何を買うんだ?
お土産くらいしか売ってないんじゃないのか?
俺は宿に戻って、アルギュロスといちゃつく事にした。