【16】聞く気も無いくせに、、、
今日の夕飯はオムレツだった。
今回もご丁寧に全員の名前がケチャップで書かれていた。
3姉妹は初めて食べるオムレツに驚いている。
たぶんヒトミはこの驚いた顔を見たくてオムレツにしたんだろう。
得意げな顔でニコニコしながら、お代わりを渡している。
3姉妹はアルギュロスにも夢中だ。
黄色い声を上げながら、交代で抱き上げて可愛がっている。
寝る時はアイテムボックスから壊れた馬車を取り出して、彼女達にはそっちで寝てもらった。
別に7人でも寝れなくはないが、男の俺がいると寝付けないかもしれない。
「ヒトミ、彼女達にリンガンブールの事を聞いてみてくれ」
「何が知りたいの?」
「温泉に決まってるだろ!」
「それは重要ね」
「後は有名な場所とか、飯が美味い店とか、お勧めの宿とかかな?」
「エッチなお店の場所は聞かなくてもいいの?」
「聞かなくてもいいです~!」
「聞く必要ありません!」
「・・・・・」
「—————ププッ」
俺達の返事を聞いて、ヒトミは笑いをこらえている。
聞く気も無いくせに、、、
俺の腕に抱き付いているリワンの力が少し強くなった。
◇
朝起きて馬車から出ると、3姉妹が隣の馬車の中で着替えをしていた。
クラリーが緑、ミルンが青、ステーシアが白か、、、
ヤバイと思いつつも、この絶景から目を逸らす事が出来ない。
俺の邪な視線に気が付いたのか、彼女達が俺の方に振り向いた。
「「「キャーーー!!」」」
3姉妹が大きな悲鳴を上げ、その悲鳴を聞いてみんなが馬車から飛び出して来た。
ヒトミ達は周囲を見渡し、一瞬で状況を理解して俺を睨みつける。
「ま、待て!これは不可抗りょ—————」
俺の言葉を聞く前に、足元の石を拾って投げつけてきた。
レイアとリワンが投げた石は避けれたが、ヒトミの投げた石は俺の足元に穴を開けていた。
これが当たったら、どてっ腹に風穴が開くぞ、、、
ラッキースケベなんかで死にたくない!
「うちの変態が本当にごめんなさい!」
「・・・・・すみません」
「いえ、こっちが不用心だったんです」
「そうです」
「気にしないで下さい」
どれだけ言い訳しても、ヒトミ達は俺を無視しやがる。
俺の席には具の無いスープしか置かれていなかったから、パンは自分のアイテムボックスから出した。
俺が自分から覗きに行ったんなら、この罰もわかる。
あんな不可抗力で、何故こんな仕打ちを受けなければならないんだ!
朝食後、昨日と同じように俺が馬に乗り、リワンが馬車の操縦で出発した。
道中の馬車からは楽しそうな声が聞こえてくる。
昨日頼んだ事をちゃんと聞いていてくれればいいんだが、、、
昼食の為に馬車を止め、みんなが準備に取り掛かっている。
俺は嫌な予感がしたので、少し離れた所でもう1つかまどを作り、昼食を作る事にした。
そこで1人寂しく昼食を食べていると、クラリー達がやって来た。
昼食の皿を持ったまま、俺の隣に座って食べ始めた。
「ごめんなさい、私達の不注意のせいで、、、」
「いえ、俺もジッと見てしまったので」
「ヒトミさん達には、後できちんと説明しておきますので」
「大丈夫ですよ、いつもこんな感じなんで」
3姉妹はばつが悪そうな顔をして、俺の横で静かに食べている。
「姉さん、今日はみんな家に泊まってもらおうよ」
「うん、それいい!」
「こんなにお世話になってるんだよ」
「・・・・・そうね、そうしましょうか?」
「うん!」
「私、ヒトミさん達に教えて来る!」
ミルンとステーシアはヒトミ達の方へ走って行った。
「本当にいいんですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。あの子達も嬉しそうですし」
「・・・・・そうですか」
「なのでご遠慮なさらずに、泊まって行って下さい」
「ちょっとあいつらと相談してみます」
立ち上がって話をしに行こうとしたが、すでに話を聞いたんだろう、向こうはもう大騒ぎだった。
「すいません、お世話になる事になりそうです」
「フフフ、構いませんよ」
そのままクラリーの隣に座って食事を続けた。
「あれがリンガンブールにあるプタ火山の煙です」
馬車の中からミルンが指をさしたその方向に、もくもくと立ち昇る白い噴煙が見えた。
しばらく馬車を走らせると、赤黒い外壁が見えてきた。
その町の遥か後方に黒煙を上げているプタ火山が見える。
町に入った後は、ミルンの案内に従って馬車を預けに行く。
馬車を預ける時に壊れた馬車をどうするか聞いてみた。
修理したいという事なので、ここでアイテムボックスから取り出しておいた。
そんなに大きな町ではないが、様々な種族の人達がたくさん歩いている。
人族が多いのは変わらないが、犬耳や猫耳、ウロコの付いた尻尾や小さな羽のある種族もいる。
エルフはまだ見ていない。
「着いたよ!」
「ここが私達のお家なの」
平屋の一軒家、木が立っている小さな庭の中で、色鮮やかな花や野菜が作られている。
玄関まで敷かれている石畳の上を歩いて行った。