【14】・・・・・眠い
—————ん?
顔がくすぐったい。
目を開けるとアルギュロスが俺の頬を舐めていた。
その横にはリワンが座っている。
「ご主人様~、おはようございます~」
「・・・・・おはよう」
「朝ごはんですよ~」
そう言ってリワンはアルギュロスを箱の中に戻しに行った。
みんなはもうテーブルについている。
急いで顔を洗い、俺もテーブルについた。
朝食を食べて着替えをし、忘れ物が無いか確認した。
ヒトミが肩からたすき掛けにした袋に、アルギュロスを入れている。
昨日作っていた物だろう。
アルギュロスは袋の部分から頭と前足を出している。
「これなら両手も使えるし、いいでしょ?」
「ヒトミお姉ちゃん、私もやりたいです~」
「レイアとリワンちゃんの分も作ったから後で渡すね」
「私のもあるんですか?」
「ありがとうございます~」
4人と1匹で家を出て、馬車を取りに行った。
「じゃあ、出発するぞ」
馬車を走らせ、町を出る。
アルギュロスはリードで御者台に繋いである。
長いリードだから、動き回るのに邪魔にはならないだろう。
馬車から落ちないようにする為のものだ。
「リワンちゃん、何かいる?」
「大丈夫です~、人も魔物もいません~」
「じゃあ、飛ぶわよ!」
町から少し離れた場所で、周りに誰もいない事を確認し、ヒトミが転移魔法を使う。
一瞬でフェンの町近くにある転移ゲートに着いた。
そのままフェンに向かい、3人を馬車に残しギルドに向かった。
リンガンブールまでの地図を見せてもらった後で、動物も一緒に泊まれる宿がないか尋ねたが、ここには無いと言われた。
「ここにはアルギュロスが一緒に泊まれる宿は無いみたいだ」
「馬車の中にアルちゃんだけ置いて行く事は出来ません!」
「可哀想です~」
「このまま進むわよ!」
全員一致でこのままリンガンブールに向かう事になった。
今まで馬車に乗っている時は特にやる事も無く、話をしているだけで少し退屈だったが、今はアルギュロスと遊んでいる。
アルギュロスは最初から馬車の揺れなども気にせず、元気に走り回っていた。
転移魔法を使った時も大人しかった。
物怖じしない奴だ。
◇
馬車で1泊し、次の日も順調に旅を進めていたが、昼過ぎから雨が降り始めた。
どんどん雨脚が強くなってきている。
馬車を閉めるように指示を出し、少し道から外れた所で馬車を止めて中に入った。
「今日はここで休もう」
「わかったわ」
「じゃあ、馬の世話をしてくる」
「ご主人様~、私も行きます~」
雨に濡れながら、リワンと一緒に馬を近くの木に繋いで世話をする。
馬に餌と水を与え、馬車の中に戻ろうとした時に、リワンが岩の方を指さした。
「ご主人様~、魔物が来ます~」
「何体だ?」
「3つです~」
リワンが指さした方に目を向けると、蛙の魔物が飛び跳ねながら近づいて来ている。
【 グラタナストード Lv.21 魔物 】【 毒攻撃 牙攻撃 水耐性 】
—————でかい!?
軽自動車サイズの牙を持った茶色い蛙だ。
何で蛙に牙があるんだよ!
しかも毒持ちか、、、
「リワン、2人を呼んで来てくれ」
「わかりました~」
魔法で牽制しながら馬から離れる。
毒が怖いから距離を取りたいが、でかいくせに結構素早い。
こっちは地面がぬかるんでいて動きにくいのに、、、
伸ばしてきた舌を斬り飛ばし、怯んでいる隙に接近し1体を斬り倒す。
応援に来た3人に魔物の情報を伝え、リワンには馬を守らせた。
1体はヒトミに任せて、俺とレイアでもう1体を攻撃する。
後ろに飛んで距離を取り、魔法を撃ち込んでいく。
魔物はこっちに近づけず全身に魔法を浴びている。
いくら動きが素早くても、この数は避けきれないのだろう。
少しずつ動きが鈍くなってきた蛙を、最後は数の暴力で押し切った。
馬車に戻り、着替えを済ませる。
夏なら別に問題なかったのだが、今の時期は濡れると少し寒い。
「夕食はどうする?」
「火は使えないよね」
「手持ちのパンとジュースで済ませるしかないな」
「飲み物だけでも温かいのが飲みたかった」
簡単に夕食を済まし、寝るまでゆっくりしようと思っていたのだが、今日はお客さんが多い。
寝るまでに2回襲撃があった。
「寝てる時にも来るかな?」
「来そうです~」
「魔物避けの薬草は使えないしな、、、」
「ダメよ、アルちゃんがいるんだから!」
「そうです!」
「使うとは言ってないだろ」
「取り敢えず寝ましょう。リワンちゃん、魔物が来たら起こしてね」
「はい~」
◇
・・・・・眠い
結局、朝になるまで4回の襲撃を受けた。
服は濡れるわ、眠れないわの最悪な夜だった。
「眠いです~」
「私もです」
「元気なのはアルちゃんだけね、、、」
フラフラな俺達と違って、アルギュロスは今日も元気に走り回っている。
外の様子を見てみると、雨は小雨になっているが、昨日からの雨で道はぬかるんでいる。
「道はまだドロドロね」
「取り敢えず進んでみるか?」
出発してはみたものの、道が悪くなかなか思うように進まない。
蛙もピョコピョコ襲って来る。
半日進んだ所で今日は諦めて、休む事にした。
昨日あまり眠れなかったから丁度いい。
「今日はここまでにしよう」
「はい~」
「昨日あまり寝てないから、眠れる時に寝ておきましょう」
空はまだ曇ってはいるが、少し前に雨は止んだ。
雨が止むと、蛙の魔物は姿を見せなくなった。
このまま大人しくしていて欲しい。
暖かい昼食を食べて体を温める。
食後はみんな泥のように眠っていた。