【12】—————か、可愛い
次の日、3人は朝から出掛けて行った。
特にレイアは全身から気合がみなぎっていた。
今度こそはアイテムボックスを買うんだという決意の表れだろう。
俺は今日1日、ゴロゴロすると決めている。
だがテレビなどが無いこの世界では、本当に文字通りゴロゴロするしかない。
さて、どうしよう?
家に居てもやる事が思いつかなかったので、散歩に出掛けた。
すっかり秋の気候になり、毎日が過ごしやすくなっている。
そろそろリンガンブールに旅行かな?
食材や雑貨などはよく買いに行っているので、この町で少し知り合いが出来た。
一緒に出掛けたりした事は無いが、会えば挨拶くらいはしている。
よく話すのは宿屋の主人かな?
馬車を預かってもらっているし、乗馬や馬車の操縦を教えてもらったりした。
宿屋の食堂にもたまに行く。
昼前に少し早めの昼飯を食べて、家に帰った。
家に帰ったところで特にやる事も無いので、庭で風呂の準備をしていた。
魔法で樽に水をためて、炎で温めるだけだ。
—————ん?
風呂を沸かしていると3人娘の騒がしい声が聞こえてきた。
やけに帰りが早い。
まだ昼過ぎだ。
声の方に視線を向けると、リワンが黒っぽい何かを両手で抱えて歩いている。
ヒトミとレイアは横からそれを覗き込んでいた。
「ご主人様~、この子を飼ってもいいですか~?」
「森で拾ったのよ」
「・・・・・可愛いです」
リワンは茄子とか巨峰みたいな濃い紫色の小さな生き物を抱えている。
「これ狼か?」
「犬じゃないの?」
「どれどれ、、、」
俺は《看破スキル》でこの子の情報を確認した。
【 アルギュロスウルフ Lv.1 魔物 】【 気配感知 】
ウルフって事は狼だな—————って魔物!?
「・・・・・逃がしてきた方がいいかもな」
「え~!何でですか~?」
「魔物だからだ」
「魔物でもいいじゃない!」
「・・・・・良くないだろ」
「こんなに可愛いのに、、、」
「寝ている間に噛まれたくない」
「酷い!」
「可哀想です~!」
「鬼ですね!」
何て言い草だ!
大きくなった時にガブっと噛まれても知らんぞ!
「あんた、この子の目を見てもそんな事が言えるの?」
ヒトミに言われてこの子の目を見てみると、小さな舌を出しながらつぶらな瞳で真っ直ぐ俺を見つめていた。
—————か、可愛い
「・・・・・」
「ほら、可愛いって思ってるでしょ!」
「ご主人様~、お願いします~!」
「この子にご慈悲を!」
「・・・・・わかった」
「やった!」
「わ~い!」
「やりました!」
「悪さをしたら放り出すからな」
「大丈夫よ、ちゃんと躾けるから」
家に入って床に降ろすと、パタパタと走りだした。
座り込んでこの子を眺めているみんなの周りを、尻尾をブンブン振りながら走り回っている。
コロコロ転がったり、ぴょぴょこ飛び跳ねたりと落ち着きがない。
俺の方に向かって走って来たと思ったら、そのままジャンプして足の上に飛び乗った。
軽く撫でてやると、気持ちよさそうな声を出して目を瞑っている。
—————クソッ!
なんて可愛いんだ!
「この子の名前は決めたのか?」
「まだです~」
「何て名前の魔物なの?」
「アルギュロスウルフだな」
「カッコイイ名前ね」
「ではそのままアルギュロスでよくないですか?」
「そうね、雄か雌かもわかんないし」
「そもそも魔物に雄とか雌ってあるのか?」
「知らない」
「じゃあ、アルギュロスでいいか?」
「「「は~い」」」
名前が決まると、3人はアルギュロスを抱えて出掛けて行った。
必要な物を買って来るらしい。
みんなで夕飯までアルギュロスを可愛がった。
アルギュロスの首には高そうな赤い革の首輪が付けられている。
付ける時も特に抵抗せず、大人しいものだった。
このまま悪さをせずに育ってほしい。
可愛すぎて、もう放り出せない、、、
夕飯は外でバーベキューをした。
アルギュロスが何を食べるか分からないから、ミルクと肉の両方を与えてみたが、どちらも美味しそうに口にしている。
以外に野菜も気に入っているみたいだ。
薄くスライスしたキャベツの芯をパリパリ食べている。
リワンも見習ってほしい、、、
夕食後は3人がアルギュロスを風呂に連れて行った。
—————おい!
まさか一緒に入るのか!?
俺ですらまだみんなと一緒に入った事が無いというのに、、、
生意気な新入りだ!
風呂から出た後も元気にパタパタ走り回っていたが、急に電池が切れたように大人しくなり、そのまま丸くなって寝てしまった。
魔物も寝るらしい。
そのまま薄いマットを敷いた箱の中に入れて、タオルを掛けておく。
いっぱい寝てくれ。
◇
次の日から3人はアルギュロスを連れて出掛けて行くようになった。
一緒に狩りに連れて行く事にしたみたいだ。
今日はフォルミナさんの所に、魔物避けの薬草を作りに行く。
約束の時間に間に合うように家を出た。