【08】・・・・・俺の旅は終わりを告げた
「子爵様、お連れ致しました」
「入れ」
屋敷に入り、案内された部屋の扉を開けてもらうと、中には髭を生やしたダンディーなおじさんが立っていた。
この人がハイゼルン子爵か—————
目の前に歩いて来た、これぞ貴族という感じのハイゼルン子爵が、俺達に労いの言葉をかけてくれている。
見た目だけではなく、声も渋い。
教えられた動作、教えられたセリフを言って無事に謁見は終わった。
呆気ない、、、
ものの数分で終わってしまった。
屋敷を出る時に使用人の方から、俺とヒトミに箱が手渡された。
感謝の印に受け取って欲しいという事なので、ありがたく頂戴する。
そのまま馬車に戻り、2人でほっと一息ついた。
「無難にこなしたではないか?」
「いえ、ずっと緊張してましたよ」
「そうは見えなかったがな」
「これで一安心です」
「我々はこれからヴァルアに帰るが、君達はどうする?」
「もう帰られるんですか?」
「今から出れば今日中にルザーラまで行けるだろう。あまりギルドを空ける訳にはいかんからな」
「せっかくなので今日はここに泊まります」
「そうかわかった、では宿に戻ろう」
宿に戻り衣装から普段着に着替えた。
着替え終わった衣装を積み込んだ後、馬車はすぐに出発するようだ。
「ではお気を付けて」
「ああ、ヴァルアに戻ったら一度ギルドに顔を出してくれ」
「わかりました」
「君達も気を付けてな」
慌ただしいな、そんなに忙しいのか?
「まずは今日の宿を取ってから昼飯にしようか」
「みんなで寝れるお部屋がいいです~」
「そうね」
「そうしましょう」
・・・・・俺の旅は終わりを告げた
3人は近くの宿に入り4人部屋を取っている。
まぁ、いいさ。
2回も行けたんだ、、、
悔いは、、、、、無い、、、
町を散策し、夕食を食べて宿に戻るとすぐにヒトミが話を切り出した。
「明日、もう1泊しましょう」
「それはいいですね」
このままなし崩しに宿泊が増えていきそうな気がする。
メラゾニアの時みたいに、、、
「ねぇ、聞いてる?」
「1泊だけなんだろうな?」
「明日1日、買い物したいの」
「それはいいですね」
「私も行きます~」
「あんたはいろいろ楽しんだみたいだけど、私達はほとんど遊んでないのよ!」
「・・・・・わかった」
「やった!」
「明日は買い物三昧ですね!」
「楽しみです~!」
◇
次の日、3人は朝早くから出掛けて行った。
夕方に戻って来るから、それまでは自由行動だ。
こんな時間に自由をもらってもどうしようもない。
食材を売っている店に入り、何か珍しい物は無いか探してみたが、特に目新しい物は無かった。
ヴァルアより安かった食材だけ買い込んだ。
あっという間にやる事が無くなった俺は宿に戻り、謁見の帰りにもらった箱を開けてみた。
中には短剣とお金が入っている。
短剣の鞘と柄の部分には紋章が刻まれていた。
これはハイゼルン子爵の紋章かな?
中身を確認し、箱に戻してアイテムボックスに大事に入れておいた。
夕方になると3人がニコニコしながら帰って来た。
買い物を満喫してきたようだ。
「今日はずっと買い物してたのか?」
「そうよ」
「たくさん買ってしまいました」
「私もたくさんお洋服を買いました~」
「ここには転移ゲートは無かったのか?」
「あっ、、、転移ゲートの事なんて頭に無かった」
「・・・・・」
「何よ!」
「何にも言ってないだろ?」
「呆れた顔をしてるじゃない!」
「子爵が住んでいるような町だから、たぶんあると思うけどな」
「・・・・・あんたがギルドで聞いてきて」
「何で俺なんだ?」
「いいから!」
こんな見事な逆ギレは見た事が無い。
俺は転移魔法を使う事は出来ないから、変に勘繰られても誤魔化せるだろう。
夕食後、その足でギルドに向かった。
何故か3人は俺の後を付いて来ている。
いや、理由は判っている。
夜は俺に自由を与えないつもりだ。
ならお前が行けばいいじゃないかと思ったのは当然の事だと思う。
口には出せないが、、、
やはりここには転移ゲートがあった。
宿に戻って、帰りの進路を相談した。
ルザーラへの帰り道から少し外れた場所に設置されているから、遠回りにはなるが転移ゲートに寄ってからルザーラに向かう事になった。
朝早く出れば、明日中にはルザーラに着くだろう。
そこからは往路と同じようにヴァルアに帰る。
◇
次の日、昨日決めた通りに馬車を走らせた。
転移ゲートに寄ってからルザーラに向かい、ルザーラで1泊して、そこから2日程でヴァルアに着いた。
「ギルドに行くのは明日にするか?」
「そうしましょう」
馬車を預けて家に帰り、そのまま横になった。
変に疲れた旅だった。