【07】—————!?
次の日、ルザーラを出発してフェンに向かった。
もう覚える事は無いのだが、ギルド長から話に付き合えと言われて、ヒトミと2人で向こうの馬車に乗っている。
ギルド長からは愚痴を聞かされるだけだった。
若い冒険者はすぐに町を出て行くだの、他の町のギルドに行きたいだの、俺達が聞いてもいいのかと思ってしまうような内容だった。
まだ昨日の酒が残ってるんだろうか?
昼を少し過ぎた頃、思っていたよりも早い時間にフェンに到着した。
ルザーラよりは大きな町だが、メラゾニアに比べたらはるかに小さい。
馬車を預け、レイアとリワンの宿を探しに行く。
俺達の宿から少し離れた所にある宿に部屋を取った後、まだ夕飯までは時間があったので町中を散策した。
「2人は明日どうするんだ?」
「私もご主人様と一緒に行きたいです~」
「それはちょっと無理だな」
「お見送りがしたいんです~」
「お屋敷の前まで行くだけなら大丈夫じゃないの?」
「わかった、ギルド長に聞いてみるよ」
「はい~、ありがとうございます~」
「レイアはどうする?」
「ご一緒できるなら私も行ってみたいです」
「わかった」
夕飯を食べて宿に戻ってから、ギルド長に明日2人を屋敷の前まで連れて行ってもいいか聞いてみた。
屋敷の前までなら構わないと言うので、みんなでギルドの馬車に乗って行く事にした。
飯も食べ夜も更けたとなったら、この後は男の散歩だ。
今日も宿を抜け出して、夜の町へと繰り出した。
「今日も散歩か?君も好きだな」
店を探して町中を歩いていると、バッタリ会ってしまったギルド長に声を掛けられた。
今日は外で飲んでいたんだろう。
「まったく、3人も傍に女性が居ると言うのに、、、」
俺を見て呆れるよう呟いている。
「あの3人は嫁でも恋人でもありませんよ」
「そうなのか?」
「ええ」
「まぁ、明日は大事な日だからあまり無茶はしないようにな」
「はい、大丈夫ですよ」
ギルド長と別れ、再び店を探して歩き回った。
程なくして店が見つかり、中に入る。
2日連続の夜遊びだ。
メラゾニアに行った時より夜遊びが充実している。
謁見の為とはいえ、やりたくもない勉強までしてここまで来たんだ
これくらいのご褒美はあってもいいだろう。
旅の疲れと勉強のストレスを綺麗サッパリ洗い流した。
—————来てよかった!
さすがは子爵の住む町!素晴らしい!
フラフラしながら宿に戻り、そのままベッドに寝転がった。
明日が本番か、、、
顔を見るだけだからすぐに終わるだろう。
◇
—————コンコンッ
ノックする音が聞こえたので、ドアを開けると礼儀作法の先生が立っていた。
準備が終わり次第、衣装に着替えるから来て欲しいとの事だ。
部屋を片付けてから言われた部屋に行き、そこで衣装に着替えて部屋を出た。
丁度、ヒトミも着替えが終わったようだ。
着付けを手伝ってもらったであろう女性と一緒に、隣の部屋から出て来た。
いつもはポニーテールにしている髪を後ろで纏め、薄くメイクをして赤いドレスを着ている。
胸元の露出は少ないが、ドレスが体にピッタリとフィットしているので、大きな胸が余計に目立っている。
綺麗なアクセサリーを身に着け、少し低めのヒールを履いている。
あまりの変わりように驚いて、少しボーっとしてしまった。
「今、私に見とれてたでしょ?」
ヒトミがドヤ顔で俺の顔を覗き込んでいる。
「馬子にも衣—————」
「うるさい!」
すべて言い終わる前に食い気味で怒鳴られた。
予想していた言葉だったんだろう。
宿を出て、2人で馬車に乗り込んだ。
俺達よりも先に、レイアとリワンは中で待っていたようだ。
「ご主人様~、カッコイイです~」
「ヒトミさんも凄く綺麗です」
「はい~、ヒトミお姉ちゃんも凄く綺麗です~」
「そうかな?ありがとー」
3人が騒いでいるのを見ながら、ギルド長が来るのを待った。
最後に馬車に乗り込んで来たギルド長は、ドレスではなく制服を着ていた。
派手な制服だ。
きっとギルド関係者はこの制服が正装なんだろう。
ギルド長が合図を出すと、馬車が屋敷に向かって出発した。
「そのドレス、良く似合っているではないか」
「あ、ありがとうございます」
「こんな綺麗な女性が3人も近くにいるというのにこの男は、、、」
「何のお話ですか?」
「ん?この男の夜遊びの話だ」
「ギ、ギルド長!」
ギルド長が落とした爆弾を合図に、3人が一斉に俺を睨みつける。
「ん?マズイ事を言ってしまったか?」
「大丈夫です。詳しく教えて下さい」
「昨日、一昨日と2日連続で夜遊びをしていただけだぞ」
「「「・・・・・」」」
「どこに行っていたのかまでは知らんがな」
「「「・・・・・」」」
「まぁ、本人は散歩だと言っていたが、、、」
「「「・・・・・」」」
3人はゴミを見るような目で俺を見ている。
—————やめてくれ!
そんな目で見られて喜ぶ趣味は持ち合わせていない。
「最初は君達が奥さんだと思っていたのだが違うのだろう?」
「・・・・・そ、そうですが、、、」
「なら多少の夜遊びくらいで目くじらを立てるものではないぞ」
—————!?
味方だ!
初めての俺の味方だ!
よし!
そこだ!!
言いくるめろ!!!
俺は全力でギルド長を応援した。
もちろん心の中でだ!
さすがにギルド長には何も言えないのか、3人は大人しくしている。
そのまましばらく馬車に揺られていると、御者が屋敷に着いた事を教えてくれた。
「では終わるまで待っていてくれ」
3人で馬車を降り、屋敷に向かって歩いて行った。