【17】長い旅だった、、、
準備を終わらせ馬車に乗り、出発しようとした所でヒトミがみんなを呼び出した。
俺とリワンは御者台から振り返って、馬車の中にいるヒトミ達を見ている。
「リワンちゃん、近くに何もいない?」
「はい~、いませんよ~」
「人もいない?」
「はい~、大丈夫ですよ~」
「じゃあ、ちょっとこれを見て」
ヒトミはアイテムボックスから掌サイズの赤い球を取り出してみんなに見せた。
「昨日の夜に話そうと思ってたんだけど、風呂の事とかがあって忘れてたの」
「なんだそれ?」
「魔族の魔石・・・・・だと思う」
「マジか!?」
「普通の魔石と色が全然違うから魔石かどうかわからないけど、魔族を倒した時にアイテムボックスに入ってきた物よ」
「魔石かドロップアイテムって事か?」
「うん、レイアは見た事ある?」
「いいえ、ありません」
「他人に見せるのがちょっと怖かったから、あんたが魔石を集めた時には出さなかったの」
「気になるのか?」
「う~ん、ちょっとね、、、」
「エルフの森で聞いてみますか?」
「わかるの?」
「可能性はあると思います」
「・・・そうね、機会があったら見てもらおうかな?」
「わかりました、その時は声を掛けて下さい」
「と言う訳だからこれはあんたが持っててよ」
「はぁ?何でだよ?」
「こんなの持っていたくないもん!」
「俺だって持ちたくねぇよ!」
嫌だと言ってるにもかかわらず、ヒトミは俺のポケットに赤い球をねじ込んでくる。
俺はため息をつきながらそれをアイテムボックスに入れておいた。
「あー、スッキリした!さぁ、行きましょう!」
ヒトミは憑き物が落ちたような清々しい顔をしている。
こっちは爆弾を持たされた気分だ、、、
このままアイテムボックスの肥やしにしてやろう。
◇
2日目、メラゾニアに行く時にも立ち寄った町に着いた。
まだ昼過ぎだったが、今日はここで宿を取る。
宿に泊まる方がキャンプをするよりは気が楽だ。
ここで1泊して、次の日は朝早く出発した。
ここから数日はキャンプになる。
この日も順調に旅は進んで行った。
「リワンちゃん、今日は一緒にお風呂に入ろう」
「はい~、わかりました~」
「レイアはこいつを見張ってて!」
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ」
「まだそんな事を言ってるの?」
「今日まで何もされていませんから」
「何かされてからじゃ遅いのよ!」
まったく俺を何だと思ってるんだ!
自分はいきなりキスしてきたくせに、、、
「お風呂貸して」
「貸して下さいじゃないのか?」
「居候のくせにそんな事言うんだ?」
「・・・・・どうぞ」
俺から風呂を取り上げて、リワンと一緒に歩いて行った。
家だ!
次は家を買うぞ!
家があればヒトミにギャーギャー言われる事は無いはずだ!
「楽しいですね」
「そうか?」
「ええ、こんなに楽しく旅をするのは初めてです」
「そういえばレイアは何で一緒にヴァルアに行こうと思ったんだ?ヒトミに無理やり誘われたのか?」
「誘われましたが、無理やりではありません。楽しそうだったからです」
「楽しそう?」
「はい、エルフの森での生活は刺激が少ないのです」
「そうなのか?」
「ええ、私以外の若いエルフもよく森を出て旅をしています」
「レイア以外は見た事ないな」
「大きな町に行けば会えますよ。メラゾニアでも何人か見かけました」
「俺は見なかったな」
「しばらくは外の生活を楽しもうと思ってます」
「エルフ以外は森に入れないのか?」
「いいえ、そんな事はありません。でも森に来る人は少ないですね」
「レイアみたいな美人がいっぱい住んでるなら、俺は行ってみたいけどな」
「そんな事を言ってると、またヒトミさんに怒られますよ」
今までレイアと2人きりで話をする事は無かった。
年の功と言うのか、落ち着いた雰囲気の人だ。
こんな事を言ったら怒るかもしれないけど、、、
「あー、サッパリしたわ!」
「気持ち良かったです~」
2人がホクホク顔で帰って来た。
いつ見ても湯上りの女性って素晴らしいな。
「じゃあ、次はレイアね」
「はい、わかりました。では一緒に入りましょうか?」
そう言って、レイアが俺の腕を捕まえる。
「—————ぶっ!?」
「レイア!」
「ごめんなさい、冗談ですよ」
レイアはフフフと笑いながら風呂に歩いて行った。
真面目な人だと思っていたが、意外と茶目っ気があるんだな。
「「・・・・・」」
レイアの背中を見送った後、視線を前に向けると2人が無言で俺を睨んでいた。
—————何故だ!
最後に1人で風呂に向かう。
1人だったのでもちろん素っ裸だ!
この解放感は癖になる!
ゆっくり風呂を楽しんで馬車に戻ると、3人はもう眠っているようだ。
小さな寝息が聞こえてくる。
俺も横になって、天井を見上げた。
数日後にはヴァルアに着くだろう。
出発してから、もう1ヶ月くらいになる。
長い旅だった、、、