【16】—————至福!
「レイアも一緒にヴァルアに行く事になったから」
「は?」
夕飯を食べている時、急にヒトミが俺にそう告げた。
レイアの方に視線を向けると、よろしくお願いしますと頭を下げている。
「レイアは帰らなくてもいいのか?」
「大丈夫です」
「家の人は心配しないのか?」
「私達エルフは数年家を空けても、特に心配される事はありませんから」
時間の感覚が俺達とは違うみたいだ。
「とにかくそう言う事だから。居候のあんたに発言権は無いのよ!」
得意げな顔でそう言い放ち、飯を頬張っている。
こんな美人と旅行できるんだから反対などする訳が無い!
◇
次の日、宿を出て食料や飼い葉を少し買い足し、馬車に乗ってメラゾニアを後にした。
レイアも自分の馬を売って、俺達と一緒の馬車に乗る事になった。
馬車を走らせながら、メラゾニアでの事を振り返る。
アイテムボックスを買って、娼館で遊んで、レイアに会って、魔族に遭遇した。
長い滞在だった割に、思い出が少ない気がする。
「ちょっと寂しいです~」
「そうね」
「また来ればいいだろ?」
「はい~、また連れて来て下さい~」
「ヒトミならすぐに連れて来てくれるぞ」
「ご主人様も一緒がいいです~」
「気が向いたらな」
夕暮れが近づいてきた頃、馬車を止めてキャンプの準備を始めた。
夕食を食べ、馬車の中でみんなくつろいでいる時、俺は風呂に入ろうと馬車の外に出た。
「どこ行くの?」
「ああ、ちょっとな、、、」
「・・・・・リワンちゃん!」
「了解しました~!」
勢いよく立ち上がったリワンが俺の腕を捕まえた。
リワンに俺の監視をさせようとしているらしい。
こんな草原のど真ん中で何が出来ると言うんだ?
リワンと一緒に馬車から少し離れ、そこで昨日準備した風呂を取り出して地面に置いた。
素っ裸で入るつもりだったが、リワンがいるので腰にタオルを巻いた状態に早着替えする。
踏み台を取り出し、かけ湯をして風呂に入った。
「かぁーーーー!たまらん!」
草原のど真ん中で風呂に入るこの解放感!
天上には満天の星空!
—————至福!
これはいい!
ヴァルアでも毎日使おう!
俺は久し振りの風呂を堪能していた。
「私も入ります~!」
「—————!?」
その声に驚き振り返ると、リワンが体にタオルを巻き付けた状態で立っていた。
裸を見せるなとヒトミに言われているんだろう。
「ちょっ、狭いから無理だ!」
「大丈夫です~」
俺の制止を振り切り、ニコニコしながら風呂に入ってくる。
タオル1枚の状態で向き合っていては危険だと感じた俺は、風呂の中で短パンに早着替えして風呂から出た。
「もう出るんですか~?」
「・・・・・体を洗うだけだ」
「私が洗います~」
リワンも風呂から出てタオルを取り出し、俺の背中をゴシゴシ洗い出した。
草原で風呂に入っている解放感がそうさせたのか、俺の中で何かが吹っ切れた気がした。
「リ、リワンの体も洗ってやろう」
「わ~い、ありがとうございます~」
「・・・・・この事はヒトミ達には内緒だからな」
「はい~、わかりました~」
もうどうにでもなれと開き直った俺は、タオルを外したリワンの背中を優しく流してやった。
風呂とスベスベの背中を堪能して馬車に戻り、マットの上に横になった。
リワンも俺の隣に寝転がっている。
「どこ行ってたの?」
「・・・・・星が綺麗だったからちょっと散歩してた」
「こんなすぐバレる嘘、初めて聞いたわ」
「・・・・・」
「リワンちゃん、本当は何してたの?」
「えっと~、えっと~、、、」
「リワンちゃん、どうしたの?」
「ごめんなさい~、ご主人様に内緒って命令されたから言えないんです~」
「ちょっとあんた!命令を取り消しなさい!」
「・・・・・」
「聞こえたでしょ!」
「・・・・・リワン、言ってもいいぞ」
「ご主人様とお風呂に入ってました~」
—————あっさり口を割りやがった!
嫌な予感がした俺は、みんなに背を向けて目をつむった。
「それだけ?」
「ご主人様と体を洗い合いっこしました~」
「—————なっ!?」
「—————えっ!?」
ヒトミとレイアが小さな悲鳴を上げる。
「お風呂貸して!」
「・・・・・」
「私達にもお風呂貸して!」
そう言ってヒトミは寝たふりを決め込んで目をつむっている俺の頬をつねった。
観念した俺は、寝転がったまま馬車の外に風呂を出した。
「リワンちゃん、そいつが覗きに来ないように見張ってて!」
「はい~、お任せ下さい~」
リワンが俺の腕をガッチリ捕まえる。
それを見たヒトミは風呂をアイテムボックスに入れて、レイアと一緒に歩いて行った。
ここは草原のど真ん中、風呂を囲うような邪魔な物も無い、衛兵が見張っている訳でも無い。
すぐ近くで、ナイスバディのヒトミと超絶美人のレイアが入浴している。
今行かねばいつ行くと言うのだ!
「・・・・・リワン、腕を放してくれ」
「ダメですよ~」
「ご主人様の言う事が聞けないのか?」
「・・・・・」
「リワン」
「・・・・・グスッ」
リワンは俺の命令に従って腕を緩めたが、その目には涙が溢れていた。
「な、泣くんじゃない!」
「—————む~」
「わ、わかった!離さなくていいから!」
「はい~!」
パァっと笑顔になったリワンが、また俺の腕を捕まえる。
「ご主人様~、意地悪な事を言ったらダメですよ~」
「わ、わかった」
—————チュッ
「ご主人様~、おやすみなさい~」
俺の頬に軽くキスをしてリワンは目を閉じた。
今度はリワンか—————
ヒトミにキスされた事を思い出し、リワンの唇の感触が残る頬に指を当てた。