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異世界ナラティブ  作者: SW
第三章
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【07】—————溢れ出る涙が止まらなかった


部屋に入ると、2人が並んでベッドに腰掛けていた。

弱めの光魔法で、部屋がぼんやりと照らされている。


「ご主人様~、おかえりなさい~」

「ど、どうしたんだ?」

「リワンちゃんがご主人様の帰りがいつもより遅いって騒ぐのよ」

「心配だったんです~」

「いつもみたいに散歩してただけだぞ」

「ほらね、大丈夫だったでしょ?」

「はい~、よかったです~」


リワンは俺に抱きついて、頭をぐりぐり(こす)り付けている。

その頭をポンポンと軽く叩いて、そのままベッドに向かおうとした。


「ご主人様の服からいい匂いがします~」

「・・・・・へっ?」

「甘いお花みたいな匂いです~」


それを聞いたヒトミが俺に近付き、俺の胸の辺りで鼻をクンクン鳴らしている。

そのまま俺を見上げ、キッと睨み付けた後、リワンを部屋の隅に引っ張って行った。

そこで2人は小声で話をしている。


話し終えると、リワンが目を吊り上げ、頬を膨らませながら俺に近付いてくる。

あまりの迫力に少し後ずさってしまった。

俺の腕を捕まえて、そのままベッドに引きずり込んでいく。


「ご主人様~、もう寝ますよ~」

「お、おい!?」

「明日からは私も一緒に散歩します~」

「・・・・・・・」

「ご主人様~、聞いてますか~?」

「・・・・・・・はい」

「おやすみなさい~」

「・・・・・・・おやすみなさい」


リワンは俺の腕をしっかりロックしている。

俺は(うつ)ろな目で天井を見上げた後、ゆっくりその目を閉じた。


—————溢れ出る涙が止まらなかった





朝早く目が覚める。2人はまだ眠っていた。

起きて顔を洗おうと思ったが、抱き付かれている腕がなかなか外れない。

少し力を入れて腕を引き抜くと、リワンがパチッと目を開けた。


「ご主人様~、おはようございます~」

「お、おはよう」


起き上がって顔を洗いに行こうとベッドから出た。


「どこに行くんですか~?」

「顔を洗って来る」

「私も行きます~」


俺の腕をつかんで付いてくる。

顔を洗って部屋に戻っても離してくれない。


「先に食堂に行ってるから、ヒトミを起こしてくれ」

「は~い」


リワンがヒトミを起こしている間に、着替えて食堂に向かった。

2人が来てから3人分の朝食を頼む。


「・・・・・」

「・・・・・」


沈黙が辛い。

チラチラ見てくる2人の視線が冷たく感じる。

針の(むしろ)に座っている気分というのはこう言う事なのだろう。


何故だ!

何故こんな目に合わないといけないんだ!

何も悪い事はしていないぞ!

嫁も恋人もいない俺は自由なはずだ!




「じゃあ、先に行くわね」

「は~い、いってらっしゃい~」


朝食を食べ終わると、そのままヒトミは出掛けて行った。


「俺達もそろそろ出掛けようか?」

「は~い」


今日は全力でリワンの機嫌を取ろう。

ヒトミは次の機会だ。

まずは何か買ってあげて、それから美味しい物を食べよう。

肉だ!肉をたらふく食わせよう!


「何か買いたい物はあるか?」

「・・・・・う~ん」

「リワンの装備を買いに行こうか?」

「行きたいです~」


昨日と同じ黄色い屋根の馬車に乗って武器屋に向かう。


「ここから順番に中を見ていくか」

「は~い」


馬車乗り場に一番近い武器屋から順番に入って見て回った。

全部の店を軽く見て回ったが、どこの店もたくさんの種類の武器が並べられていた。


リワンの為に格闘用の武器を多く扱っていた店に入る。

そこでリワンはグローブをはめて、首をかしげたり、頷いたりして真剣に武器を選んでいる。


「これにします~」

「わかった、買って来るからちょっと待っててくれ」

「ご主人様が買ってくれるんですか~?」

「ああ、プレゼントするよ」

「えへへ~、ありがとうございます~」


よしっ!リワンは喜んでいる!

このまま誤魔化し続けて、昨日の夜の事を忘れさせていこう!


リワンから渡された武器は、5cm程の金属製の鉤爪(かぎづめ)が3本付いているグローブだった。


「リワン、買ってきたぞ」

「ありがとうございます~」

「このまま俺が持っておくからな」

「は~い」


次に俺の武器を買いに行こうと思ったが、いろいろ店を見ている間に腹が減ってきたので、先に昼食を食べる事にした。

飲食店のある所まで移動し、見た目からして高そうな店に入る。


「リワンは肉料理でいいか?」

「は~い」

「2つ食べるか?」

「いいんですか~?」

「ああ、いいよ」

「ありがとうございます~」


一番大きなステーキを3つ注文する。

リワンは運ばれて来たステーキを満面の笑みで口に運んでいる。


うん、いい感じだ!

本当に嬉しそうだ!

この調子で誤魔化していこう。




店を出て、さっきの場所に戻り、今度は自分の武器を買いに店に入った。

今使っている鉄の剣よりも性能の良さそうな鋼の剣を手に取って、長さや重さを確かめる。

鉄の剣を売って、すこし長めの鋼の剣を購入した。


「明日アイテムボックスを買った帰りに防具を買いに行くぞ」

「は~い」

「後はジュースでも飲みながら時間を潰そう」


宿の近くの店に入り、ジュースを飲みながら2人で話をした。

もちろんここでもリワンのご機嫌取りは忘れない。


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