【07】—————溢れ出る涙が止まらなかった
部屋に入ると、2人が並んでベッドに腰掛けていた。
弱めの光魔法で、部屋がぼんやりと照らされている。
「ご主人様~、おかえりなさい~」
「ど、どうしたんだ?」
「リワンちゃんがご主人様の帰りがいつもより遅いって騒ぐのよ」
「心配だったんです~」
「いつもみたいに散歩してただけだぞ」
「ほらね、大丈夫だったでしょ?」
「はい~、よかったです~」
リワンは俺に抱きついて、頭をぐりぐり擦り付けている。
その頭をポンポンと軽く叩いて、そのままベッドに向かおうとした。
「ご主人様の服からいい匂いがします~」
「・・・・・へっ?」
「甘いお花みたいな匂いです~」
それを聞いたヒトミが俺に近付き、俺の胸の辺りで鼻をクンクン鳴らしている。
そのまま俺を見上げ、キッと睨み付けた後、リワンを部屋の隅に引っ張って行った。
そこで2人は小声で話をしている。
話し終えると、リワンが目を吊り上げ、頬を膨らませながら俺に近付いてくる。
あまりの迫力に少し後ずさってしまった。
俺の腕を捕まえて、そのままベッドに引きずり込んでいく。
「ご主人様~、もう寝ますよ~」
「お、おい!?」
「明日からは私も一緒に散歩します~」
「・・・・・・・」
「ご主人様~、聞いてますか~?」
「・・・・・・・はい」
「おやすみなさい~」
「・・・・・・・おやすみなさい」
リワンは俺の腕をしっかりロックしている。
俺は虚ろな目で天井を見上げた後、ゆっくりその目を閉じた。
—————溢れ出る涙が止まらなかった
◇
朝早く目が覚める。2人はまだ眠っていた。
起きて顔を洗おうと思ったが、抱き付かれている腕がなかなか外れない。
少し力を入れて腕を引き抜くと、リワンがパチッと目を開けた。
「ご主人様~、おはようございます~」
「お、おはよう」
起き上がって顔を洗いに行こうとベッドから出た。
「どこに行くんですか~?」
「顔を洗って来る」
「私も行きます~」
俺の腕をつかんで付いてくる。
顔を洗って部屋に戻っても離してくれない。
「先に食堂に行ってるから、ヒトミを起こしてくれ」
「は~い」
リワンがヒトミを起こしている間に、着替えて食堂に向かった。
2人が来てから3人分の朝食を頼む。
「・・・・・」
「・・・・・」
沈黙が辛い。
チラチラ見てくる2人の視線が冷たく感じる。
針の筵に座っている気分というのはこう言う事なのだろう。
何故だ!
何故こんな目に合わないといけないんだ!
何も悪い事はしていないぞ!
嫁も恋人もいない俺は自由なはずだ!
「じゃあ、先に行くわね」
「は~い、いってらっしゃい~」
朝食を食べ終わると、そのままヒトミは出掛けて行った。
「俺達もそろそろ出掛けようか?」
「は~い」
今日は全力でリワンの機嫌を取ろう。
ヒトミは次の機会だ。
まずは何か買ってあげて、それから美味しい物を食べよう。
肉だ!肉をたらふく食わせよう!
「何か買いたい物はあるか?」
「・・・・・う~ん」
「リワンの装備を買いに行こうか?」
「行きたいです~」
昨日と同じ黄色い屋根の馬車に乗って武器屋に向かう。
「ここから順番に中を見ていくか」
「は~い」
馬車乗り場に一番近い武器屋から順番に入って見て回った。
全部の店を軽く見て回ったが、どこの店もたくさんの種類の武器が並べられていた。
リワンの為に格闘用の武器を多く扱っていた店に入る。
そこでリワンはグローブをはめて、首をかしげたり、頷いたりして真剣に武器を選んでいる。
「これにします~」
「わかった、買って来るからちょっと待っててくれ」
「ご主人様が買ってくれるんですか~?」
「ああ、プレゼントするよ」
「えへへ~、ありがとうございます~」
よしっ!リワンは喜んでいる!
このまま誤魔化し続けて、昨日の夜の事を忘れさせていこう!
リワンから渡された武器は、5cm程の金属製の鉤爪が3本付いているグローブだった。
「リワン、買ってきたぞ」
「ありがとうございます~」
「このまま俺が持っておくからな」
「は~い」
次に俺の武器を買いに行こうと思ったが、いろいろ店を見ている間に腹が減ってきたので、先に昼食を食べる事にした。
飲食店のある所まで移動し、見た目からして高そうな店に入る。
「リワンは肉料理でいいか?」
「は~い」
「2つ食べるか?」
「いいんですか~?」
「ああ、いいよ」
「ありがとうございます~」
一番大きなステーキを3つ注文する。
リワンは運ばれて来たステーキを満面の笑みで口に運んでいる。
うん、いい感じだ!
本当に嬉しそうだ!
この調子で誤魔化していこう。
店を出て、さっきの場所に戻り、今度は自分の武器を買いに店に入った。
今使っている鉄の剣よりも性能の良さそうな鋼の剣を手に取って、長さや重さを確かめる。
鉄の剣を売って、すこし長めの鋼の剣を購入した。
「明日アイテムボックスを買った帰りに防具を買いに行くぞ」
「は~い」
「後はジュースでも飲みながら時間を潰そう」
宿の近くの店に入り、ジュースを飲みながら2人で話をした。
もちろんここでもリワンのご機嫌取りは忘れない。