【03】剣と魔法
「ただいま」
「おかえりなさい」
少し甘めの薄い紅茶の様な飲み物を飲み、白いパンを食べながら窓の外を眺めていると彼女が帰って来た。そのまま隣の部屋に入って行く。
しばらく待っていると、ラフな服に着替えた彼女が紙袋を持って出て来た。
「はい、これ」
そう言って彼女は手に持った紙袋を俺に差し出した。
「これ何ですか?」
「服よ。とりあえず着替えたら」
向かいの椅子に座り、ニヤニヤしながらこっちを見ている。そんな彼女の視線に耐えながら、紙袋から服とズボンを取り出して着替える。
「で、これからどうするか決めた?」
「まだ何も決めてませんよ」
どうするもこうするもないだろ?まだ何もわからないのに、、、
着替えて椅子に座り、お茶を飲みながら返事をする。
「どりあえず私が知ってる事を教えてあげるから、それでどうするか決めてみたら?」
「はい、お願いします」
「う~ん、なんか他人行儀ね。もうちょっと楽な感じで話しなよ」
「・・・・・わかった」
「じゃあ最初に私の名前はヒトミ、16歳よ。あなたの名前は?」
「俺の名前はケイ、27歳」
「27!?嘘っ、絶対27じゃないわよ!」
「えっ、何でだ?」
「見た目よ、見た目」
そう言うとヒトミは立ち上がりドアを開けて隣の部屋に入っていった。持ち帰ってきた丸い板を俺の目の前に突き出す。
鏡だ。あまり映りが良くない、、、
「うぉっ!若い!」
鏡に映る自分は27歳には見えなかった。
「でしょ?絶対に27歳じゃないわよ」
「———確かに」
「ふ~ん、まぁ、いいわ。年齢の事は置いときましょう」
「・・・はぁ」
「じゃあ次!ここはあなたのいた世界ではありません!」
「それはなんとなく、、、」
「元の世界に帰る方法はわかりませんっていうより帰れるかどうかもわかりません」
「・・・・・はぁ」
わからない事だらけだ、大丈夫か?
「俺らみたいな人は他にもいるのか?」
「あなた以外は知らない。あなたに会うまでは居ないと思ってたけど、ここに2人居るんだから他に居ても不思議じゃないわね。ところであなたはどうやってこの世界に来たの?」
「どうやってって言われても・・・・・車の中で仮眠してて目が覚めたらここだった」
「私は教室で居眠りしてて目が覚めたらここに来てたよ」
俺と一緒か、死んで転生したとかって訳じゃないんだな。
「じゃあ次ね。この世界には魔物がいま~す」
「うん、さっき聞いた、、、」
「なんと!魔法もありま~す!」
「まぁ、予想はしてた、、、」
「嘘っ!私はビックリしたよ!」
剣と魔法
改めて考えてみるとやっぱテンション上がるな。
男子たるものこの言葉を聞いてワクワクしない訳がない!
俺も魔法を使ってみたい!
「で、魔法ってどうやったら使えるんだ?」
「普通はしばらく修行するみたいだけど、たぶんちょっと練習すれば使えるようになると思うわよ。私がそうだったから」
「よしっ!」
「魔法って便利よ!部屋の明かりも魔法、このお茶を作る水も魔法、水を温める火も魔法!電気代も水道代もガス代もいらないんだから!ねっ、すごいでしょ?」
両手を広げ満面の笑みで魔法の便利さを訴えてくる。
「確かにそれも便利だとは思うけど、それよりも炎とかで魔物を倒すのが魔法だろ?」
「・・・・・子供ね。どころであなたは元の世界に帰りたいと思わないの?」
元の世界か、、、
どうしても帰りたいって訳じゃない。
「こっちでしばらく生活してみてから考えるよ、せっかく知らない世界に来たんだしいろんな所に行ってみたい。どっちにしても今すぐ帰れる訳じゃなさそうだし、帰りたくなったら方法を探すよ」
「そうね、まぁこれは人それぞれだから自分で考えて決めた方がいいわね。ちなみに私はこのままこっちで暮らそうと思ってるよ」
「そうなのか?」
「うん、元の世界よりこっちの方が楽しいしから。もちろん大変な事もあるわ、テレビも洗濯機も無いからね。楽じゃないし危険もあるけど、自分の好きな事ができるっていうのは魅力的ね」
「素晴らしい!」
自分でやりたい事が決めれる。
毎日毎日、決まった事を繰り返す生活が無くなるっていうのはかなり—————いやものすごく興味がある。
仕事をする為に生きてるって感じだったからなぁ。やりたい事をやりたい時にやれるっていうのは最高じゃないか!
「じゃあ、明日は冒険者ギルドに連れてってあげる」
「是非!」
「それにしてもあなた運が良かったわね。こっちに来て初めて会った人が、私みたいな可愛くて親切な人で。感謝しなさいよ!」
「それ自分で言うのかよ!」
見た目は可愛いのにいろいろと残念な人だ、、、