【幕間】宿屋の主人
俺はヴァルアの町にある宿屋の主人だ。
名前?
ベンだ。
いいか、よく覚えておくんだ!
絶対忘れるんじゃないぞ!
容姿?
少し腹が出て来たが、昔はいい男だったと思っている。
疑っているな?
嫁がいるんだからそんなに悪くはないはずだ!
「すいません、ここで乗馬を教えてもらえると聞いて来たんですが、、、」
「そうだ」
「お願いできますか?」
「ああ、いいぞ」
この客を部屋に案内して詳しい話を聞いた。
ん?
宿屋じゃないのかって?
こんな小さな町じゃ宿屋の収入だけで食ってくのは大変なんだ。
宿屋兼食堂といったところだな。
母ちゃんが食堂をやっている。
幸いにも少し土地があるから、そこで乗馬を教えたり、冒険者連中の馬や馬車を預かったりしてるのさ。
この黒髪の小僧は冒険者らしい。
その割には謙虚な奴だな。
冒険者ってのはもっと横柄な態度の連中なんだがな、、、
若いからだろう。
乗馬を習うって事は少し遠出を考えているんだろうな。
無茶をするような奴には見えんから大丈夫だろう。
まだまだ貧弱な装備だがしっかり手入れされている。
職業柄、いろんな冒険者を見てきたが、装備をしっかり手入れする奴は長生きするもんだ。
「明日からお願いできますか?」
「ああ、構わないぞ。時間は?」
「そうですね、、、午前中でいいですか?」
「わかった、明日の朝になったら来てくれ」
「はい、よろしくお願いします」
小僧は頭を下げて帰って行った。
最後まで謙虚な奴だった。
◇
今日から小僧に乗馬を教えている。
午前中の宿屋の仕事は母ちゃんに任せてある。
朝は掃除が多いから、乗馬を教える事になって楽が出来ると俺は喜んでいた。
だがそれは間違いだったようだ、、、
この小僧、恐ろしく乗馬のセンスが無い!
こんな奴は初めてだ!
これなら雑巾がけの方が楽だったに違いない!
馬の上で剣を振ったり、槍で突いたりは出来そうにない。
こんなんじゃあ、馬を斬っちまうぞ!
いや、その前に落馬だ!
だが唯一、馬の世話だけは出来た。
これだけはなかなかの腕前だ。
馬に気を使いながら、細かな作業もしっかりやっている。
気持ちよさそうな馬を見ればわかる。
こういうのは生まれ育った環境が物を言うのだろう。
大したものだ!
俺も見習わなければ、、、
◇
数日後、小僧は乗馬の訓練を終えて帰って行った。
今日からまた宿屋の仕事だ。
朝の掃除も久しぶりだ。
「あんた、ちょっとこっち来な」
「なんだ?」
俺は母ちゃんに呼ばれて客室に向かった。
「今日はちゃんと隅まで掃除できてるじゃないか!」
どうやら俺も小僧から教わっていたようだ。