【SS】ヒトミ
——キーンッ!
「・・・・・もう!」
———キーーンッ!!
「・・・・・今日はツイて無いわね」
私は盗賊の投げたナイフをレイピアで叩き落しながら、自分の不運を嘆いていた。
町の近くの森の中でクエストの為の花や薬草を採取し、帰る途中に森の奥に見えたとても眩しい光の正体を確認しようと向かっている途中、盗賊達に襲われた。
———魔物なら何も問題無いのに!
魔物を殺すのは慣れちゃったけど人を殺すのはどうしても慣れない。この世界では珍しい事じゃないみたいだけど、たぶん前の世界での価値観が強く残っているのね。
1番最初に殺めた人間も盗賊だった。あの時は本当に気分が悪くなった。夜も寝れなかった。こっちの世界でそれなりに楽しく生活していたのに、、、
しばらく暗い気持ちのまま生活していた。
それからも何度か盗賊に襲われたが、あの時以来斬った事は無い。魔法を使うようにした。その方がほんの少し気持ちが楽な気がしたから。
———早く諦めてよ!
盗賊達の攻撃に当たる気はしない。実力差があり過ぎるんだろう。この程度の盗賊なんか相手に5対1でも負ける気はしない。
———力の差が分からないのかなぁ?
いつもの様に魔法で攻撃したいけど、森の中で炎魔法を使うのはちょっとマズイ、、、
氷か土の魔法も練習しとけばよかった、、、
———もう!
仕方ない、このままずっと攻撃を避け続ける訳にもいかない。
「はっ!」
攻撃を避けると同時に盗賊の脚を斬った。
———殺すのは嫌だ、私が逃げれる様になるかこいつらが逃げてくれればいい。
足を斬られた盗賊は傷を手で押さえながらもナイフは私に向けたままだ。まだ戦意を喪失してはいないようだ。今までニヤニヤしながら私を取り囲んでいた周りの盗賊達の眼の色が変わる。
———もう斬りたくないとか言ってられないみたい。
私は腹をくくった。
「やっ!」
5人の盗賊達の腕や脚をさっきよりも深く斬りつける。それでも向かってくる盗賊には2つ3つと傷が増えていった。
このままではさすがに敵わないと思ったのか、舌打ちをしながら盗賊達は足を引きずり、少しづつ後退していく。
その姿が見えなくなったのを確認した後、私はさっき見えた光の場所へと向かった。
———まだ右手に人を斬った感触が残ってる、、、
さっきの戦闘を思い出し暗い気持ちになりながら歩いていくと、一際大きな樹の根元に人影の様なものが見えた。私は剣を構え、気配を消してゆっくり近づいて行く。
———もし盗賊だったらすぐに逃げよう。
キョロキョロ辺りを見渡している黒髪の男の背中に剣を向けた。
———盗賊じゃないみたい。
その男の姿を見てそう思った。
———冒険者でもないわね、だってあの人の着てる服ってどう見てもスーツよね、、、
スーツを見てすごく懐かしい気持ちになったが、怪しい事に変わりはない。
「あなた誰?こんな所で何をしてるの!」
私の声で驚いたのかビクッっと体を震わせた後、ゆっくりとこちらに振り向いた。
男は自分に向けられている剣を見て眼を大きく見開いている。
———若いわね、それにちょっと可愛い顔ね。
「あっ、あやしい者じゃありゅましぇん!」
———あっ、噛んだ。。。まぁ、しょうがないか、剣を向けられてるもんね。
男は両手を上げて黙ったまま私を見つめている。
私に危害を加える感じはしなかったので、剣を収めて少し話をした。
「あなた出身はどこ?」
「日本という国です」
予想通り私と同じ境遇の人だった。
いろいろ話がしたかったが、こんな魔物や盗賊のいる森の中で話をしたくないし私の家で話をしよう。
私はこの男と一緒に帰る事にした。
でもいくら同じ立場の人だと言っても、何で初対面の男の人を家に誘ったんだろう?
私以外にはいないと思ってた同郷と会えた事が嬉しかったのかな?
それもあると思うけど、たぶん私は人を斬った嫌な気分を紛らわせたかったに違いない。
———いろいろ困ってるだろうから、少しお世話してあげよう!
良い事をすれば少しは気分が晴れるかもしれないと思った。
私はこの懐かしい匂いのするスーツ姿の男と一緒に家路についた。