【15】お約束?俺はまだ死にたくない!
少しづつ陽が傾き、川辺に山影がかかり始めた。
哀愁を帯びたヒグラシの鳴き声が鳴り響き、辺りもだんだん涼しくなってきた。
全員川から上がって着替えている。
次は海に行きたいらしい。
海で泳ぐのもいいが、体がベタベタになるのがちょっと不満だ。
でも魚を釣ったりするのは楽しそうだ。
元いなかっぺの俺の血が騒ぐ。
釣った魚をさばいて、そのまま鍋に放り込んで味噌汁を作ったりしてたなぁ。
こうなると味噌も欲しくなる。味噌なら作り方はなんとなくわかる。
実家でよく親が作ってるのを手伝わされていた。
商品にするのではなく、味噌やお茶はそれぞれの家で作られていた。
それくらい田舎っだったのだ。
子供の頃は早く田舎から出たいと思っていて、高校卒業後すぐ都会に飛び出した。
いつか田舎での経験が役に立つ日が来るかもしれない。
夕飯もバーベキューだ。
以前の俺なら胸焼けを起こしそうなものだが、今は17歳という若い胃腸なので肉はどんと来いだ。
毎日はキツイかもしれないが、1日くらい何ともない。
さっき作ったタレに漬け込んだ肉も一緒に焼いて味を確かめる。
「どうだ?」
「まだまだね」
「手持ちの材料だとこれが限界だ。帰ったらニンニクとかいろいろ入れてみる」
「期待してるわ、頑張りなさい」
ヒトミは自分で作る気は無いのか、ウンウンと頷いている。
仕方がない、調味料は食を充実させる為に進めていかなければならない重大な事案だ。
リワンは相変わらず口一杯に肉を頬張っている。
モグモグと噛んでいる間に肉を皿に取って、飲み込んだ後にまた皿の肉を口に放り込み、また空になった皿に肉を取る。
箸の休まる暇など無い。
見ているだけで腹が一杯になるとは正にこの事だ。
夕食後、アイテムボックスから取り出した食材を見て驚いた。
「あれだけ大量に買った肉がこれだけしか残ってないとは、、、」
「ちょっと見せてよ」
野菜や果物はアイテムボックスに戻して、肉だけをヒトミに渡した。
「嘘でしょ、あんなに一杯あったのに、、、」
「ああ、俺もビックリだ」
「リワン、、、恐ろしい子!」
俺とヒトミの視線の先では、肉の大量消費の犯人が膨らんだお腹に両手を当てて、満足げに目を閉じている。
夕食後、お茶を飲みながらくつろいでいると、ヒトミがアイテムボックスから小さな紙袋を取り出して、それを火の中に投げ入れた。
「何だ、それ?」
「虫避けの薬草よ」
「そんなのあるのか?」
「ええ、雑貨屋に売ってるわよ」
「知らなかったな」
「魔物避けの薬草もあるわよ。寝る時に使ってよ」
「効くのか?」
「さぁ?ギルドで買ったからある程度は効くんじゃない?」
「大丈夫なのか?」
「丁度いいから今日試してみれば?」
ヒトミに渡された魔物避けの袋をアイテムボックスに入れておいた。
2人は木陰に置いてあったマットをかまどの近くに移動させ、寝転がってワイワイ話をしていたが、たくさん食べてたくさん遊んでさすがに疲れたのか、今では2人並んで静かに横になっている。
俺はマットに座り、すっかり暗くなった辺りを見渡す。
月明かりの下、ワインを飲みながら穏やかな時間を過ごした。
「おい、寝るならテントの中に行った方がいいぞ」
「「・・・・・・・」」
少しの間、ぼんやりしていたら2人は完全に寝てしまっていた。
起こすと何かとうるさそうな気がしたので、仕方なくテントに運ぶことにした。
2人をマットから降ろし、マットをテントに運び入れる。
2人を抱きかかえてテントに運び、体にタオルを掛けて寝かせておいた。
2人を寝かせてから改めてテントの中を見てみると、やはり俺の寝るスペースは見当たらない。
思った通り3人で寝るには少し狭い。
魔物避けの薬草を火の中に放り込んで、テントの外で寝袋に入って横になった。
俺がこの狭いテントの中で無理やり寝たら、事件が起こりそうな予感がする。
—————いや、予感ではない。
何故だか確実にやらかす自信がある。
あれだけ狭いテントの中で、たとえ偶然でもヒトミの体に触ってしまったら、容赦なく斬りかかってくるに違いない。
お約束?俺はまだ死にたくない!
石が背中にゴリゴリ当たって少し寝ずらいが我慢しよう。
涼しげな虫の鳴き声と川のせせらぎを聞きながら眠りについた。