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異世界ナラティブ  作者: SW
第五章
103/105

【17】「私達の存在を忘れてはいませんか?」


夕食後、みんながリビングでアルギュロスと遊びながらワイワイと話をしている中、俺は1人寝室でメモを見ていた。

ギルドで聞いた、借家の情報が書いてあるメモだ。


「ちょっと、何見てんのよ!」

「ん?」

「あんたまたエッチなお店の—————」

「違う!」


胡坐(あぐら)をかいて腕組みをしながら、メモとにらめっこをしていたら、怪訝(けげん)な顔をしたヒトミが話しかけてきた。

お前が塗り潰しちまったから、あのメモはもう読めねぇんだよ!


「家だ!家!」

「家って何よ!」

「どこに家を借りるか考えてるんだよ」

「・・・・・えっ?」

「単純に家を借りると言っても、冒険者ギルドが無いと生活がなぁ、、、」

「・・・・・ねぇ」

「大きな町でも小さな町でもない、ほどほどの大きさの町で、なるべく安い所がいいけど、、、」

「・・・・・ちょっと」

「何だ?」


俺が家の条件を言いながら考え込んでいると、小声でヒトミが話しかけてきた。


「ヴァルアの家から出て行くの?」

「まだ決まってないからいつになるか分からないけど」

「・・・・・」

「いつまでも居候って訳にはいかないしな」

「・・・・・」

「その為にクソ寒い冬に頑張って貯金した訳だし」


ヒトミは俺の横に座り込んで(うつむ)いている。


「・・・・・嫌だ」

「ん?」

「・・・・・出てっちゃ嫌だ」

「・・・・・えっ?」

「もう1人は嫌なの!今までは平気だったけど、もう1人は嫌!」


ヒトミの目には涙が浮かんでいる。

—————驚いた

こんなヒトミは初めて見る、、、


「・・・・・離れたくない」

「・・・・・えっ?」

「私も一緒に連れてって」

「・・・・・ヒトミ」

「お願い、一緒に連れてってよ」


唇をギュッと結んで目に涙を浮かべながら、今にも泣き出しそうな顔で俺の目を真っ直ぐ見つめている。


「・・・・・わかった」

「—————えっ?」

「俺と一緒に行くか?」

「・・・・・いいの?」

「ああ、いいよ」

「うん、、、一緒に行く」




静寂が流れていく—————

ヒトミが(まぶた)が閉じると同時に、その目から一筋の涙が零れ落ちた、、、

ゆっくりと近づいて来る赤く(つや)やかなその唇に、吸い込まれるかのように顔を近づけ、唇を重ねてい—————


「—————コホン!」

「—————!?」

「私達の存在を忘れてはいませんか?」

「む~!」

「もー!」


レイアの大きな咳払(せきばら)いと共に、抗議の声が上がる。

ハッと我に返ったヒトミが俺を突き飛ばし、そのままパッと離れて行った。

マットに転がったままヒトミを見ると、ぷしゅーっと湯気が出そうなくらい赤い顔で、膝を抱えて小さくなっていた。


「ご主人様~!」

「主様!」


リワンとラーニャが大きな声を上げながら、転がされている俺に飛び乗って来た。

2人だとちょっと重い、、、


「もう寝ますよ~!」

「主様!もっとこっちに来て!」


リワンとラーニャが俺をマットの端に引きずって行く。


「ではヒトミさんは私と一緒に寝ましょう!」

「—————ちょ、ちょっと!レイア!」


レイアはヒトミを俺とは逆の方に引きずって行った。

俺はリワンとラーニャに腕を捕まれたまま、ボーっと天井を眺めていた。

さっきのヒトミにはドキッとさせられてしまった。

普段はギャーギャーうるさいヒトミが、あんなにしおらしくなるとは、、、

ツンデレキャラクターが人気なのも(うなず)ける。


それにしてもせっかく一番大きな部屋を寝室にしたのに、何で真ん中が空いてるんだ、、、

部屋の隅で寝ている俺達を尻目に、アルギュロスが広くポッカリ空いた部屋の真ん中で丸くなっていた。





次の日の朝。

学校に行きたくないと駄々をこねる2人を、レイアが必死に説得していた。


「リワンさん、ラーニャさん。そろそろ行きますよ!」

「・・・・・む~!」

「・・・・・えー!」

「大丈夫ですよ。こんな時間から昨日の続きはしないでしょうから」

「—————っ!」


レイアさん!

その辺で勘弁してあげて!

ヒトミの顔から火が出てるから!


レイアはトゲのある一言を残して、2人を学校まで連れて行った。




・・・

・・・・・


—————何だこの気まずい空気は!

ヒトミは俺から一番離れた椅子に、俯いたまま座っている。

シーンと静まり返ったリビングで、時間だけが過ぎていった。


うーん、、、

このままじゃ(らち)が明かない、、、


「ヒトミ」

「・・・・・な、何よ、、、」

「俺達もそろそろ行くぞ」

「・・・・・うん、、、」


レイアから預かった倉庫の鍵を持って、ヒトミと一緒に家を出た。

今日は米を少しもらって来て、実際にご飯を炊いてみよう。


ヒトミは俺の少し後ろを歩いている。

たまに後ろからの視線を感じてパッと振り向くと、ヒトミは慌てて視線を逸らしていた。


「・・・・・ね、ねぇ。昨日の事なんだけど、、、」

「ん、何だ?」

「あ、あれは告白じゃないんだからね!勘違いしないでよね!」

「・・・・・」

「な、何よ、、、」

「だんだんツンデレが板について来たな」

「誰がツンデレよ!」


ヒトミは怒鳴りながら俺の尻を蹴り上げた。

—————痛ぇ!

尻に靴の跡が付いたじゃないか!


その後、倉庫で米を貰って家に帰るまで、一言も会話は無かった、、、


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