【01】これは夢か?
——キーンッ!
「・・・・・んんっ」
———キーーンッ!!
「・・・・・何の音だ?」
どこからか金属を叩いた様な音が聞こえる。
気持ちよく仮眠しているところに聞こえてきた耳障りな音にイラッっとしながら目を開ける。
枝?葉っぱ?
樹を見上げた様な景色が見える。
薄暗い中で両手を地面についてゆっくり体を起こしてみると周りにたくさんの樹があった。
「ん?・・・林?いや、森か?」
林と森の違いは知らないが、とにかくここは外のようだ。
しかも背中が痛い。土の上に寝ていたみたいだから多少痛いのは当然か、、、
———いや、そんな事よりも
「ここはどこだ?っていうよりも何でこんな所に?」
今日の朝、目覚めてからの行動を思い出してみる。
6時起床、車で出勤、8時から始業、んで昼飯食って、、、
食後はいつもの様に車のシートで仮眠していたはずだ
これは夢か?
取り合えずほっぺをつねってみる。漫画とかでよくやるやつだ。
ちょっと強くやりすぎたみたいで思ってたよりも痛い、、、
やっぱり夢じゃないよなぁ
掌に感じる土の感触、髪を揺らす風、すぐ横にある樹の幹。
こんなにリアリティーのある夢はないだろう。
訳もわからず、キョロキョロと辺りを見渡していると、背後から声をかけられた。
「あなた誰?こんな所で何をしてるの!」
ビクッとして振り向くと綺麗な女性が立っていた。黒髪のポニーテールだ。
俺に剣を向け、まるで不審者を見るような鋭い眼をしている。
彼女からすれば俺は不審者以外の何者でもないのだから、あんな眼で見られても仕方ないのかもしれない。
「あっ、あやしい者じゃありゅましぇん!」
噛んだ———
状況が分からず混乱している時に、剣を向けられて睨まれたんだから仕方ない。
「みんな最初はそう言うのよ!『私はあやしい者です』って言う訳ないじゃない!」
「ほっ、本当にあやしい者じゃないんですって!」
お約束のやり取りをしながら、両手を上げて敵意と武器が無い事を必死にアピールする。
刑事ドラマでよくある銃を向けられた時のポーズだ。
しかし彼女はまだ疑いの眼で油断なくこちらを見ている。
胸の鼓動がすごい事になってきた。体も少し汗ばんでいる。
緊張しているからか剣を向けられているからなのかわからないが多分両方だと思う。
決して綺麗な女性に睨まれているからではない!
俺は睨まれるよりも睨む方が好きだ!
そんなしょうもない事を考えている間にどのくらいの時間が過ぎたのだろうか?
無言のまま注意深く俺を観察していた彼女の目が少し和らいだ気がした。
「・・・・・その服。あなたもこの世界の人間じゃないわね」
「服?」
「ええ、スーツなんてこの世界には無いから」
そう言われて自分の姿を見てみるといつも仕事で着ている紺色のスーツ姿だ。
黒の靴に白いシャツ、今日着ていた服だ。
しかし財布、携帯、タバコは無いみたいだ。もちろん車も無い。
自分の体をペタペタ触って確かめてみる。
「はぁ~、何となくわかったわ。たぶん私と一緒ね」
腰の鞘に剣を収めながらため息交じりに彼女はそう呟いた—————