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プロローグ

数話で終わる予定です。

 ここは魔法のおかげによって繁栄したヴェリテ王国。その国にコートジュール子爵という貴族がいた。そんなに爵位は高くないし、王宮での権威もない家だが、堅実に領民思いの善政を行ってそこそこ豊かな暮らしをしている。


 私はそんな家に第2子、リュシエーヌ=コートジュールとして生まれた。上には3つ離れた兄がおり、初めての女の子であったことから、両親、兄、祖父母から、それはそれはかわいがられて育った。正直、自分でも、よくこの環境で高飛車、傲慢に育たなかったものだと思う。

 愛人を持つ貴族も多いが、うちの家はそんなことなく、父も母も互いにベタぼれだ。それは、子供が生まれてからも変わらず、私と兄は時々呆れている。そんな兄も、私には甘々で、今では立派なシスコンだ。

 私は甘やかされながらも、家庭教師から貴族としての教養を教わる傍ら、母と刺繡をしたり、父と馬で遠乗りをしたり、兄とともに市街にお忍びで遊びに行ったりする平和で優雅な毎日を送っていた。

 

こんな、まるで絵にかいたような幸せな暮らしが、ある日突然壊される。


私がもうすぐ9歳になる頃、社交シーズンの王都でお隣に領地を持つ伯爵家のお茶会に招待された。まだ、成人年齢である18歳に達していないので、舞踏会ではなく、お昼のお茶会である。

 そこには、私と同年代の子供たちが10人程度集められていた、要するに、今から有力な家に子供と繋がりをつくるためのお茶会だ。見目の良い、高い爵位の家のご子息に突撃しているご令嬢もいることにはいたが、私の両親はそんなことしなくても良いと言ってくれていたので、純粋にお茶や同年代の子とのおしゃべりを楽しんだ。

 こうして、一見何事もなかったかのように終わったお茶会だったが、問題は次の日に起こった。


なんと、サヴァン伯爵家から、私に縁談が舞い込んだのだ。

昨日のお茶会の開催者である伯爵家と親交があって、あのお茶会の場にサヴァン伯爵子息が偶然居合わせ、私を見染めたらしい。


そこまでなら、よくある話で終わってよかった。


 私は母親譲りのプラチナブロンドに、父親譲りの紫紺の瞳、そして天使とたたえられた幼い頃の祖母にそっくりと言われている。つまり、ありていに言えば、かなり見目が良い方なのだ。自分では、そこまでとは思わないが、同年代の低位貴族の中では、そこそこ上の方に入る容姿をしていると思う。

それが、裏目に出たのだ。


 私に縁談を申し込んだサヴァン伯爵の跡取りは、18で既に成人しているのだ。成人している大の男が、まだ8歳の私を見染めたわけだ。両方とも成人しているうえでの10歳差なら貴族では割とあり得ることだが、片方が10に満たない年齢で申し込むのはおかしすぎる。これだけで、もうロリコンという変態の称号を贈っていいわけだが、さらに問題があった。

 サヴァン伯爵子息は、とんでもなく醜い男で、まだ18であるのに、でっぷり太った赤ら顔で、その顔立ちはヒキガエルそっくり。年がら年中汗をかいていて、常に何か食べ続けている。性格は、卑屈で陰険、そして粘着質。おまけに、ろくに学校にも行かず、花街で遊び歩いているという。ついでに、彼の家も、同位の伯爵家の中ではかなり上位の権力を持つのだが、何分いい噂がない。裏で人身売買とかかわっているとか、王都で暴利をむさぼる賭博場を経営しているだとか、領地の民は高すぎる税収にあえいでみんなガリガリにやせ細っているとか。そんな噂には事欠かない。かなりの悪事を働いているのに処分されないのは、貴族を取り締まる公安府に賄賂を払っているかららしい。


まあ、取り合えず、年頃の令嬢の結婚したくない貴族令息ナンバー1であることに間違いはない。特に、低位貴族は、婚約を申し込まれたら断れないため、戦々恐々としていたらしい。彼と結婚するくらいなら、平民の方が百倍マシと言った令嬢もいたとかいないとか…。私が被害者になったと聞いた時には、結婚適齢期の貴族令嬢は皆ほっとしたらしい。


 なんてことだ。

 我が子爵家は、豊かではあるが、伯爵家に逆らえるような力はなく、そんな事をしてしまえばつぶされることは必至。縁談が舞い込んだ時、父は顔面蒼白で私に平謝りし、母は卒倒。兄はサヴァン伯爵家に乗り込もうとして執事に止められていた。

それでも、無情にも婚約は結ばれてしまった。顔合わせの時、不躾に私を撫でまわすように見る伯爵子息の醜い欲のこもった視線を受け、全身に鳥肌が立ち、吐きそうになった。体調不良を盾に手さえ握らせなかった。


 私も、まだ8歳ながらにサヴァン伯爵子息の悪評は聞いていたし、実際に目にして絶対にお断りだと思った。しかし、周囲の慌てっぷりに逆に冷静になり、身分差を覆して婚約を破棄できるには何ができるか考えた。家族も、落ち着いて冷静になったら、みんな共に知恵を絞ってくれた。

そして、兄が気乗りしない様子で私に1つの案をくれた。


 それは、魔力量の底上げをするというものだった。

この国は、魔法で発展したというだけあって、魔法というものは、大変ありがたがられている。魔法は人間のもつ魔力を魔法陣に通すことによっては発動する。つまり、高い魔力を持つものは大変重用される。14歳になったら、平民は各自治体の魔法科に行って、魔力量を測るのだ。貴族は各家に魔法量を検査する魔法石があるので。生まれたころから魔力量は分かっているが、公表は14になってからだ。魔法石の色によって魔力量は判断され、手をかざした時に輝く色が、桃→赤→橙→黄→緑→青→紫→藍→黒という順に魔力が高いと言われている。

ちなみに石が黒く輝くほどの魔力量の人間は「黒持ち」と呼ばれ、数百年に1人しか生まれず、全国民の畏怖の対象となる。現在は、とある公爵家の長男がそうだという噂が色濃い。

 このようにして魔力量を測り、14歳の時点で青以上だったものは16で王族、貴族、平民関係なく、魔法院という国王直属の国家機関の養成学校に強制的に入れられる。貴族の方が平民よりは魔力量が多いが、最近では高い魔力量を持つ者自体が減り、養成学校に入れるものは、毎年20に満たないと言われている。

魔法院では、主に少ない魔力でも使用可能なように魔法陣の改良を行っている。この国の民は、魔法院で作られた魔法を使う際に必要な特殊な紙に書かれた魔法陣や、魔法陣の書かれた道具を買って、魔法を行使している。これがなくなれば、国の機能は停止するとさえ言われている。加えて、鉱石の採掘や灌漑設備、川の堤防の設置、戦争の際の後方支援など、一般の人間では到底行使できない魔法を使って国に尽くしている。それ故に、魔法院に所属するものは優遇される。

 

 ここからが大事なのだが、養成学校に入り、魔法陣の構成を学んだり、魔法陣に魔力を効率的に流す訓練などをして一定以上の才能が認められると18で魔法院に入ることとなり、成績に応じて、爵位相当の特権が与えられることとなるのだ。これは、大変な名誉と言われている。

つまり、優秀な成績を取って、国に不可欠な人物と判断されれば、その特権を行使して伯爵家に逆らい、子爵家をつぶさずに婚約を破棄することができるのだ。


しかし、私の魔力量は石が赤色を示す程度で、平民と変わらないくらい。到底養成学校に入れるような魔力は持っていない。


 そこで「魔力量の底上げ」が重要になるのだ。

そもそも、魔力量に対して鍛えれば上がるという認識は存在しない。生まれた時から、老いて体力が落ちるまで変わらないと言われている。鍛えれば上がるものなら、国民全員鍛えれば魔法院の人手不足も解消されるだろう。魔法に関する文献にもそんな事実は載っていないと父も言っていた。だが兄は、魔法量を上げたことがあるのだという。

それは、兄が5歳の時のこと。


「俺は森にお目付け役の従者と2人で探検に行ったとき、従者とはぐれて迷子になったんだ。その時運悪く野犬と出会ってしまって、まだ護身術も習っていなくてパニックになった俺は、ポケットに入っていた護身用の攻撃魔法の魔法陣すべてに、ありったけの魔力を流したんだ。そこで俺の記憶は途切れているんだけど、どうやら三日間生死の境をさまよっていたらしい。まあ、リュシーは小さすぎて覚えていないと思うけどな。で、元気になった後、何の気なしに魔法石に触れてみたら、以前は真っ赤だったのに、少し橙色が混じっているような気がしたんだ。些細な違いだったけど、実際に魔法を使ってみたら、ほんの少し、一番魔法量の少なくて済む魔法一つ分くらい上がってたんだ。」


父はその話に驚愕していた。

「本当か!?そんな話は初めて聞いたぞ。」


「言いふらしていい話か分からなかったんだよ…。ほんの少しの差だったし。」と、兄。


「そうか…でも、普通魔力が枯渇したら生命現象までストップしてしまい。大抵の場合死んでしまうから、みんな魔力を枯渇させないように細心の注意を払って生活しているだろう?その方法で魔力量を上げるのは危険すぎる。」


「そうよ、いくら何でも命を懸けるのは…」と、母。


その話を聞いていた私は決意した。

「…やります。」


「「「リュシー!!!」」」


「だって、あの伯爵子息様のところに嫁ぐなら、死んだ方がマシだと思ったもの。命を懸けても惜しくないわ。」


父も母も兄も8歳の悲壮な決意に涙ぐんでいた。





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