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どちらかと言うと悪い魔法使いです  作者: 花音小坂
第2章 ミラ=エストハイム編
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ミラの1日


 陽が地平線から出てもなお、ミラの一日は始まらない。間違いなく起床時間ではある。しかし、その瞳があがることは、一向に、ない。睡眠不足が美容に影響すると社交界では盛んに話題に上がるが、1日平均10時間の睡眠を取る執事には、まったく無縁である。


 本人曰く、『育ち盛りなんです』


 太陽がすっかり顔を出し、鳥たちも朝の合図につかれ始めてきた頃、やっと少女は足をベッドから出す。


「ふぁ―――……眠い」


 10時間睡眠をしっかりと取った後にもかかわらず、衝撃的一言を発するネボスケ執事。それから、二度寝しようか迷うこと15分。ようやくベッドから離れる決意をした。


「さて……」


 パシッと強めに頬を叩き、意識をハッキリとさせる。鏡台の前に到着するまでに黒褐色セピアの髪を手櫛で直し、冷水を入れた桶に躊躇なく顔を入れる。


「……ぷはっ! ちべたっ」


 タオルでぬれた顔を拭き、入念に歯を磨き、準備完了。


「よ――し、今日も頑張るぞー」


 気合を入れて、時計を確認すると、時計の針は9時ジャスト。昨日は10時30分。一昨日は8時30分。決して起床の時間は安定することはない。


 圧倒的な駄目執事である。


 部屋を出て、調理場で料理の準備に取り掛かる。まずは、時限爆弾的にニンジンを仕込む。なぜ、あれだけアシュが嫌がるニンジンをなぜ彼女は頑なに入れ続けるのか?


 本人曰く、『だって美味しいですもん』


 それから前日仕込んでおいた食材をペティナイフで切り、慣れた手つきで肉をフランべする。実家は貧乏だったので、ほとんど高級食材は使えなかったが、この禁忌の館では金に糸目をつけたことがない。


「……よし、できた!」


 食卓に料理を並び終え、猛ダッシュでアシュの部屋に向かう。


 ダンダンダンダン!


「アシュさーん! 起きてくださいー!」


「……」


 応答はない。


「アシュさーん、アシュさーん、アシュさーん!」


「あああああうるさいなぁ!」


 不機嫌そうにドアが開く。


「昨日は遅かったんだよ。もう少し、寝るから」


 実際ベッドに就いたのは朝7時。ひたすら実験、検証を繰り返している勤勉魔法使い。


「でも、もう朝食できてます」


「……」


 バタン。なにも言わずにドアを閉めて、再びベッドに戻ろうとする闇魔法使い。


 ダンダンダンダン!


「アシュさーん! 起きてくださいー! アシュさーん、アシュさーん、アシュさーん!」


「あああああ!」


 どうやら、起きるようである。


 この執事の中では、朝食は主人の睡眠より優先される重要事項だ。


 ひとしきり、主人と執事がニンジン云々かんぬんの言い争いを繰り広げた後、全て平らげた皿を片づける。


 それから、ひたすら掃除をこなし、昼ご飯、夕飯の準備をして、また、ひたすら掃除をする。


「ふぅ……」


 ミラがここにきて1カ月余りが経過したが、基本的に料理と掃除しか任されていない。ミラは家でも掃除とおつかい、ご飯の支度しか任されていなかった。


「……」


 アシュは、一日中研究所に籠りっきりで、ほとんど外に出てくることはない。外に出ることも許されておらず、ほとんど一日中、この禁忌の館で過ごす。


 最初の数日間こそ、いろいろな珍しい物に心惹かれたが、次第に飽きて、一人でボーっとする時間も増えた。


「はぁ……」


 仕事なので楽しくないのは当たり前なのだが。


               ・・・


「はぁ……君はまだ寝るのかい?」


「はっ!? アシュさん」


 あたりを見渡すとすっかり暗くなっていた。


「で、ここに散らかっているのはなんだい?」


 乱雑に置かれた書物をもってアシュが尋ねる。


「あの……退屈だったんで……でも、全然読めなくてそのまま寝ちゃって」


「はぁ。ここには君に読める本はないよ。早く片付けなさい」


「……はぁい」


 寝る予定はなかったが、あまりにも理解不能すぎて恐ろしいほどの睡魔に襲われた。やはり、読書は向いてないと再認識した。


            ・・・


 翌日、職場睡眠してしまったからか、いつもより早く目が覚めた。大きくあくびをして、立ち上がろうとすると、彼女の机に数冊の本が置いてあった。


 その上には、一枚のメモ用紙が置いてあった。


『君のような読書初心者はこれぐらいから始めたまえ』


 という言葉を添えて。


 ミラはすぐにこのメモ用紙をもって、主人の部屋をノックする。


 ダンダンダンダン!


「アシュさんアシュさん!」


 その音に、不機嫌そうな表情をしながら闇魔法使いが出てきた。


「な、なんなんだ君は!?」


「あの……これ……」


 そう言ってメモ用紙をアシュに差し出す。


「ああ……まあ……その……特に深い意味は――「なんて読むんですか?」


            ・・・


 アシュはその場でメモ用紙をビリビリした。


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