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どちらかと言うと悪い魔法使いです  作者: 花音小坂
第1章 アシュ=ダール編
8/452

衝撃


「で、なんの勝負をするのかね? 僕は割合試合(ゲーム)には強い方でね。おおむね君の提案に乗れると思うが? リリー=シュバルツ君」


 性悪魔法使いが余裕の表情で問いかけると、優等生美少女もまた自信あり気に一歩前に出る。


「さすがに決闘するわけにはいきませんからね。一つ、魔法使いの技能の高さを証明する手段があるんじゃありませんか? アシュ=ダール先生」


「クク……印結ゼールか。いいだろう。まあ、最後になるかもしれないから、君たちに最後に教えておいてあげよう」


 アシュは得意げにホワイトボードに説明を書き始める。


             *


 通常、魔法を外部に放つには最低限2つの手順が必要である


 ①詠唱チャント


 魔力野から生じた魔力を体内に構築し、魔法の理を言語化する作業


 ②シール


 象徴シンボルを描くことによって、魔法の理を外部に放つ作業


 一般的に詠唱は自由度が高いとされている。なぜならそれは自己暗示的な要素が強く、本人のイメージを魔法の理で介在し、言語化しているに過ぎないからである。そのため、いくら高位の魔法を詠唱したところで魔力野から生じる魔力の属性、量が伴わなければ全く意味がない。


 一方、印の形は定型で決められたものが多く、同じ形になるが、その象徴の描き方によって威力は大きく異なる。より、緻密に、精密に印を描くことにより魔法の効果をより相乗して放つことができる。


 古来より印という行為は『自らと世界を結ぶもの』として儀式化されていた。その崇高な儀式が時を経て競技化され、略称である印結ゼールという名が生まれたとされている。


 印結の勝敗を決する方法には2種類がある


 ①美しさ

 ②スピード


 どの印を結ぶかはタロットの組み合わせで決められる。


 タロットには大アルカナ(22枚)と小アルカナ(56枚)が存在し種類は以下の通りである。


 ①大アルカナ

 0 愚者 1 魔術師 2 女教皇 3 女帝 4 皇帝 5 教皇 6 恋人 7 戦車 8 力 9 隠者 10 運命の輪 11 正義 12 吊るされた男 13 死神 14 節制 15 悪魔 16 塔 17 星 18 月 19 太陽 20 審判 21 世界


 ②小アルカナ

聖杯カップ」「金貨ペンタクル」「ワンズ」「ソード」の4種類、1~14種類 計56種類。


 一般的なルールでは、まずは大アルカナを引き、小アルカナを引く。その組み合わせは1232通りあり、全ての印を覚えること自体膨大な知識量が必要だとされる。


 5回の印に対し、勝星の多かった者が勝者である。

 

 今ではスピードを競うことが大陸でメジャー化されているのは公然とした事実である。ルールが明確であり、一般的には『美しさ』より『スピード』の方がより実用的だとされている。


               *


「さあ、勝負を始めよう……どのようにして勝敗を決めようか?」


「もちろん、スピードです」


 リリーは明かしていないが、印のスピードにおいて彼女の右に出る生徒はいない。いや、いつしかその実力故に先生からも敬遠されるほど彼女はずば抜けている。一般的な平均タイム十数秒かかると言われているが、リリーは平均八秒弱で印を結ぶことができる。


「はぁ……競技として確立したことで、技術の一般化には成功したようだが、いつしか本来の目的が置いてきぼりになっているようで、僕は少し寂しいね」


「アシュ先生は御託と言い訳が上手なんですね」


 リリーが満面の笑みで答える。


「まあ、いいだろう……いや、しかし、これでは公平じゃないな」


 アシュがボソッとつぶやく。


「はぁ!? まだ、なにか言い訳があるんですか」


「いや、あまりにも僕に有利過ぎると思ってね」


「……え」


 闇魔法使いは人差し指を彼女の前に掲げた。


「1回でいい。5回中1回でも、僕に勝てれば、この勝負は君の勝利でいい」


「……あなたは、どこまで人を」


 リリーは肩を震わせながら、翠玉色の瞳で睨みつける。


「まあ、もらっておきたまえ。ハンデは損するものではないだろう? 審判はライオール、いいかな」


「もちろんです」


 好々爺は朗らかに頷き、教室の端にあるタロットをきる。


「先行は僕からでいいかい?」


「……お好きに」


 リリーは内心またかと思った。この魔法使いはどれだけ印結に自信があるというのだろうか。相手の秒数に応じて自分の戦略を決められるため、勝負は後攻が圧倒的に有利である。


「じゃあ、そろそろ始めようか」


 アシュは静かにタロットの前に立ち、人差し指を前に掲げる。


「では……」


 ライオールが無作為に2枚、タロットをめくる。


 愚者×聖杯(ⅩⅢ)


 声とともに、その指先が動く。


               ・・・


 永劫に感じたその一瞬、


 リリーは勝負を忘れた。


 そのあまりの精緻さに。


 その異常なまでの精巧さに。


「綺麗……」


 気づけばその言葉を口にしていた。


「……3秒です」


 数秒経って、あまりの静寂の中、ライオールの言葉が教室中に響き渡った。



 

     





 

 


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