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どちらかと言うと悪い魔法使いです  作者: 花音小坂
第2章 ミラ=エストハイム編
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 聖騎士リーゼ=マクシマが興した国家であり、戦争が非常に多いことでも知られるバージスト聖国は、アシュ曰く、『戦争には常に正しい大義がなければいけない。だからこそ、聖を語るこの国には戦争がやむことはない』とのこと。


「……むむっ、難しい話ですね」


「一つも難解なことなど言っていない。難解なのは唯一、君の理解力のみだ」


 首都ヴェイバールの繁華街を、アシュとミラは闊歩していた。


「でも……私、ここ、初めてなんです。ほーんとにいろいろなモノが売ってますね」


 キョロキョロと、せわしなくあたりを見渡す田舎者美少女。


「戦争が多いということは、それだけモノが多く動くということ。ここは、大陸でも有数の品揃えだから重宝しているよ」


 武器、食料、書物、酒、人間。さまざまなモノにさまざまな値がつく。飴を買うような小銭で、奴隷が売りさばかれていたり、貴族の大邸宅のような大金が、一本のワインに相当したり。ここヴェイバールでは、ごく日常の、光景である。


「ふーん、すごーい」


「……」


 昨日、ミラの貧相なお尻を蹴っ飛ばして、野に放りだして、『ウエーン、ごめんなさい、アシュ様! このわたくしめがアホなばっかりに、アシュ様に不快な想いをさせてしまいました。どうか、このアホ娘に、ひとかけらの慈悲を与えてくださいまし』と泣きわめかせて、満面の笑みで『NO』をつきつけるはずであった。


 しかし、契約魔法。その難解な効力は、たびたび天才魔法使いの斜め上を行く。『ミラを助ける』という行為が、どの範囲で、どの程度履行されるのか。それは、アシュの大嫌いな言葉、神のみぞ知る、である。


 仮に下手を打って彼女が死ねば、永劫死なない程度に心臓を握り潰され続けるなど、闇魔法使いにとって全く笑えない未来だった。


 というわけで、彼女を家に送り届ける道中、ついでに物資の確保にヴェイバールに寄った次第である。


「さて、僕はこれから馴染みの店に行こうと思うのだが、君はどうするのかね?」


 何気なく丁重に尋ねるが、できればこの場で即刻サヨナラしたい偽りの紳士。


「うーん……持ち合わせもないですし……」


「そんな心配には及ばない、これ」


 ラル札を10枚。


 あくまで健全な店での話だが、ヴェイバール繁華街を100往復ショッピングしてもあり余るほどの額である。


「う、受け取れませんよこんなの!」


「なぜ? 僕にとっては取るに足らない小金だよ」


 とにかくこの少女と、一刻も早くサヨナラしたい大富豪魔法使いである。


「ふざけないでください! 私をあの野盗たちと一緒にするんですか!? 受け取れません。私は、働いてもないのに、こんなお金は受け取れないです」


「これは……配慮が足らなかったかな。申し訳なかったね」


「いえ! わかってくれればいいんです」


 ニパーッと屈託なく笑う美少女。


「……で、君はどうするのかね?」


「うーん……持ち合わせもないですし、アシュさんについて行っていいですか?」


「……少し立ち止まって深呼吸してもいいかい?」


「だ、駄目ですよ! こんな繁華街でいい訳ないじゃないですか!? アホなんですか!?」


「ばじゅっ……」


 アホにアホ呼ばわりされ、またしても発したことない擬音を繰り出す。


 この時、契約魔法の魔法理論解明を至上命題へと繰り上げた天才魔法使い。


「仕方ない……ついてきたまえ」


 不機嫌そうに先導し、繁華街を離れて人気のいない方へと歩いていった。



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