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どちらかと言うと悪い魔法使いです  作者: 花音小坂
第2章 ミラ=エストハイム編
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食事


 禁忌の館に戻った2人だったが、ミラの表情は浮かない。


「あ……あの、さっきの野盗たちに言ってたこと……冗談ですよね? 少しお灸を据えようとしてあんなこと言っただけですよね?」


 オズオズと少女が答える。


「……なんで君がそんなことを気にする?」


「だ、だって……人が死ぬところなんて、見たくないです」


「はぁ……君はどれだけお人よしなんだ。君を犯そうと襲ってきたのだろう? ハッキリ言って、僕は慈悲を施す価値がないと思うがね」


「でも……なんか……嫌なんです」


「……」


 ここで、性悪魔法使いはしばし考える。もちろん、言葉に偽りはなく、野盗たちはアシュの魔力に寄ってくる魔獣に食い殺されるだろう。しかし、このアホ少女の意味不明な倫理感、理解不能の正義感でも発揮されてごねられても面倒くさい。


「ふぅ……わかったよ、ミラ。君の優しさに免じて、彼らを助けようじゃないか」


 そう答えて、闇魔法使いは、目を瞑る。


<<神よ 彼らを牢獄へ送り 人生の 悔いを あらためさせたまえ>>ーー天の導き(アレ・サモール)


「……これで、よし」


「ど、どうしたんですか?」


「魔法で彼らを首都ヴェイバールの牢獄へ移動させた。そこには僕のしもべがいて、衛兵につきだすよう、言っておいた。さあ、これでいいだろう?」


「はい!」


 嬉しそうに頷く美少女。


「……」


 もちろん、嘘である。


 単に魔法っぽい超適当な言葉を並べただけ。そんなご都合主義ヨロシクな魔法などあるわけはなく、アホだから、まあ騙されるだろうとは思っていたが、本当に、超簡単に騙された。


 性悪魔法使いは思った。


 天地無用のアホだ、と。


「あの……言うのが遅れてしまいましたが、助けてくれてありがとうございました」


 ミラは、深くお辞儀をする。


「……礼には及ばないよ。僕は君との契約を守ったに過ぎないからね」


「最初、破ろうとしたじゃないですか」


「ふっ……忘れたね、そんな昔のことは」


 遠い目をして、15分前の出来事を、懐かし気に答える御都合主義魔法使い。


「……まあ、でも! 助けてくれましたし。結果オーライです」


 美少女は弾けるような笑顔を見せる。


「ふーむ……惜しいな」


「えっ?」


「いや……なんでもない、気にしないでくれ」


 黒褐色セピアのミディアムヘアに、パッチリとした瞳。幼さが残る丸みかかった輪郭ではあるが、非常に整った顔立ちは、正真正銘の美少女と言える。正真正銘のアホじゃなかったら、自分好みに育てあげ未来の恋人にしてあげるのに、と変態魔法使いは心の中で落胆する。


「なにかお礼をしなくちゃいけませんね……調理場ありますか?」


「ああ、それはこの先にある――ってお礼など必要ない――「じゃあ、お借りします。料理得意なんです。楽しみにしててくださいね」


 アシュが制止する前に、美少女は颯爽と調理場へと消えていった。


「……なんだ、アレは。まあ、邪魔者が消えたから、ちょうどいいか」


 そうつぶやき、自室へ戻り、再び書物に研究成果を書き始める。


             ・・・


「アシュさーん! アシュさんアシュさんアシュさーん!」


「な、なんだねうるさいなぁ!?」


「チーズはどこありましたっけ?」


「調理場の冷蔵室の上の段にあるよ! 頼むから邪魔しないでくれるかな!?」


「わかりました! ありがとうございます!」


「まったく……なんなんだ、あの小娘は……」


 ブツブツとつぶやきながら、再び机にかじりつく。


              ・・・


「アシュさーん! アシュさんアシュさんアシュさーん!」


「さっきのことを君は忘れたのかな!?」


「ごめんなさい! でも、お砂糖とお塩って――「ああああああ! わかった。書くから! 少し待っていなさい」


 忌々し気に、メモ用紙に、書きなぐる。


「ありがとうございます!」


「……」


 天然なアホ。性悪変態サディスト魔法使いの苦手なタイプである。


「砂糖も、他の食材や調味料の場所は、ここに書いてあるから。他にはないかい? 他に足りないものは? 僕の研究を邪魔するほど、重要なものはないかい?」


「うーん……豚肉も入っているし……大丈夫です!」


「……」


 豚肉と自身の研究を同列で語られたことに、言いようのない想いを抱く性悪魔法使いだった。


                 ・・・



「アシュさーん! アシュさんアシュさんアシュさーん!」


「なんなんだ!? 一体全体、今度はなんだというのだね!?」


「これ! この文字、なんて読むんですか!?」


「……っ」






 結局、調理場の横で、研究成果をまとめる羽目になった




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