殺意
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「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す―――――――――――――――――――」
ダルーダ連合国の首都の中央にある豪奢な邸宅で。国家元首フェンライは最上級のソファをこれでもかと言うほどぶん殴っていた。
恥という言葉では表しきれないほどの不快な感情が彼の内部に渦巻き、なにかで発散しないと、悶絶死してしまうほどのストレスを抱えていた。
「――殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……ぶはぁ……はぁ……はぁ……ブヒィ……ブヒィ……」
「「「「……」」」」
普段はかなり温厚な主人の取り乱しように、執事たちはかなり怯える。
しかし、同時に、これ以上ないくらい豚っぽかったと、主人不在の折は影で嘲笑の話題作りを提供している。
フェンライは影で豚足元首と揶揄されている。その短い手足が故に、たびたび彼を豚だと表現する者は多く、右手は右足。左手は左足。豚鼻が聞こえれば鳴き声。議論が白熱すれば『人語を解さない豚』。
そんな風に嘲笑う輩を彼は全員牢獄送りにしてきたが、人の悪口というのは止まることがない。
皮肉にも彼の容姿を好意的に評価している唯一の人物がアシュ=ダールという男だった。
「なあ……私は豚みたいか?」
「……っ」
禁断の質問を投げかけられた執事。なぜ、この人は自分が今思っていたことが読めるのだろうか。いや、そんなはずはない。これは、誘導だ。絶対に否定せねば、即牢獄送り……死刑すらもあり得る。
「まったく、そんなことないですよ」「どこをどう見たら豚に見えるんですかね。キッチリ人間です」「そうですよ、僕には人間にしか見えないなー」「どこをどう見たって人間ですよね」「人間ですよ、フェンライ様は、間違いなく豚ではないです」
他の執事もまた、慌てて否定する。
しかし、あまりにも突然過ぎる問いに、『豚か人間、どちらかと言うと人間』のような、微妙なヨイショをするに留まる。
「……うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す―――――――――――――――――――」
「「「「……」」」」
またしてもソファを殴る仕草をみて、執事は全員『前足っぽいなぁ』と思った。
そんな中、外からノック音が響いた。
「フェンライ様、ルード様が参りました」
「ブヒィ……ブヒィ……通せ」
豚鼻を激しく鳴らしながら、フェンライは瞬時に冷静さを取り戻した。そもそも、彼の表の気質は温和で通っている。邸宅の中ではともかく、ある程度の寛容を持たねば上には昇れない。アメと鞭を見事に使い分けることに関して、この豚足元首は相当秀でていた。
「失礼します」
入って来たのは、陸軍少将のルード=バルスマン。先日行われた国別対抗戦では主将を務めたほど優秀な魔法使い。褐色の肌が特徴的な、筋肉質の青年である。
「おお、よくぞ来てくれた」
まるで親戚の子どもが来たときのような気安さで、フェンライはルードを出迎える。
「ダンというふざけた男は指名手配にしたのであろうな?」
「はい。この国に一歩でも足を踏み入れれば命はないと思われます」
「よーし、よーし。ぐふ、ぐふふふふふ、ぐふふふふ、ぶふっ……ぶひぃ」
あらゆる擬音語をだしながらフェンライは笑った。もう、あの頃の自分ではない。自分刃向かえば、瞬く間に国家が敵になる。
「自分の手塩にかけた教え子の首を、プレゼントとして送ってやる」
フェンライは歪んだ表情で笑った。




