論破
二日目。論破、論破、論破。リリーが不眠不休でアリスト教徒の論客に論破の嵐を繰り広げる。すでに、30人は己の人生を振り返るほど、論破されていた。
「な、なんと情けない」
次々と倒されていく論客を眺めながら、アリスト教徒の幹部たちは嘆き、ランスロットは唇を噛む。ここまでの展開は予想だにしておらず、更に年端のいかぬ金髪美少女は、論戦でも強い。
そんな彼らを眺めながら、アシュは不敵に笑う。
「僕の教え子をなめてもらっては困るね。彼女たちが普段相手にしているのは誰だと思っている?」
「……」
性格最悪。性根本悪。所業劣悪。いわゆる三悪を体現する最悪教師であると、ミラは心の中で思った。
しかし、リリーがアシュに鍛えられているというのも、また事実である。元々の素質もとんでもないが、彼によって鋼のメンタルは更に堅さを増した。
一方で、アシュはというと、相も変わらず読書三昧。時々、フラッとリリーの所に行って、ネチネチと小言を言って、適度に、軽やかに数人の論客を論破して、再び読書へと没頭する。
「はぁ……はぁ……つ――」
「大丈夫ですか? リリー様」
「だ――」
ついに、リリーの声が枯れた。46人目。36時間ぶっ続けで論破してきた彼女は、アドレナリンも出し尽くして、さすがに憔悴しきっている。
そんなリリーを眺めながら、アシュはミラの方を見る。
「早く治癒魔法をかけてあげなさい」
「身体は回復できても、すり減らした精神力は回復できません」
「まだまだやれるよ。そうだろう、リリー=シュバルツ君?」
アシュがそう言うと、金髪美少女の瞳に怒りの輝きが戻る。ミラが治癒魔法をかけて、リリーの声を取り戻すと、再び論客相手に激しい論戦を繰り広げていった。
そして、そんな彼女を心配そうに見つめるのはシスである。
「アシュ先生……もう、リリーは限界です」
「まだ、やれるよ。と言うより、これくらいはやれないと困るね」
「……」
「シス君。退屈紛れに1つ質問をしよう。今、この中で最も影響力のあるのは誰かわかるかい?」
「それは……大司教のランスロット様ではないのですか?」
シスの答えに、アシュは首を振って指をさす。その方向には、紛れもなくリリーがいた。
「熟練した論客たちを次々と倒していく。そんな信じられない事態を目の当たりにして、彼らは動揺しているんだよ。ここにいるアリスト教内の信者たちが彼女の挙動を常に注視している。もう、彼女の行動を誰も無視できないさ」
「……でも、心配です」
「それは、君よりもランスロット大司教が抱えているさ。まあ、逆方向の心配だがね」
「……」
「ふむ……そう考えて見れば、このままリリー君だけに任せるのも悪くはないかな」
「そ、そんな。アリスト教の論客は数百人いるんですよ! 今の十倍の相手をリリーだけにさせようとするんですか?」
「恐らく、そこまではいかないだろう。このまま、リリー君が彼らを倒し続ければ、いずれ、彼らの内部で抗争が起きる」
アシュは歪んだ笑みで笑った。
「それでも……リリーはもう……」
「彼女を信じないのかい? いつもまっすぐ、自分の信念に従って果敢に戦う彼女を」
「……」
「どれだけの権威を備えたとしても、最前線で戦い、傷つき、勝利する者には敵わない。『後ろで隠れている者には、決して光は差さぬものだーーデクラド=マスーラ』」
「……」
アシュは笑顔でシスの頭をなで、自分の席へと戻る。そうして、後方から執事のミラの注いだダージリンティーを飲む。
「どうだい、ミラ?」
「はい。現在絶賛最後方に控えておられるアシュ様自身の存在を断固否定した、見事な発言でございました」
「……ふっ」
アシュは意味もなく、遠くを見つめた。




