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どちらかと言うと悪い魔法使いです  作者: 花音小坂
第1章 アシュ=ダール編
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堕落



 20秒時点


 リプラリュランは、警戒していた。それは、悪魔ディアブロではなく人間アシュ=ダールに対して。過去に戦天使に向かってくる愚かな人間などいなかっただけに、不確定要素を持つ者を一瞬にして排除する決断をした。


 一閃。リプラリュランの腕はアシュの心臓を容易に貫いた。鮮血が噴き出し、天使の身体が紅く染まる。そのまま、リプラリュランは腕を振り下ろして、アシュを地面に落とした。


 18秒時点


「っははははは! なにがしたかったんだ?」


 へ―ゼンは、高笑いしながらアシュを眺める。依然、彼はリリーと魔法の応酬を繰り広げていたが、経験、魔法力から徐々にリリーを圧倒し始めており、闇魔法使いに視線を送れるほどの余裕が生まれていた。


「はぁ……はぁ……ぜぇ……ぜぇ……」


 一方、リリーの魔法力は限界に近づいていた。顔面は蒼白になり、激しい疲労に襲われる。


「……ふふ……ふ……情け……ない……もって十数秒……か」


 アシュが瀕死の状態で起き上がって嫌味を繰り出す。


「はぁ……はぁ……あんたこそ……って腕は!?」


 初めて闇魔法使いの腕がもげていることに気づく。それほど、リリーはへ―ゼンに対し集中をしていた。いや、それほどの集中でなければ、一瞬にして彼女は消し飛んでいただろう。


「ふふ……そ、その元気が……あれ……ば……もう……ちょっと……いける……な」


 リリーは、死にそうな表情で軽口を叩くアシュを睨みながら、倒れそうな身体を踏ん張り態勢を立て直す。


「アシュ、もうお前には勝機はない。潔く、敗北を認めればこの少女の命は助けてやらんでもない。忌々しい奴の目的はお前だけだ」


 かつて、数千の弟子をとったこともあるへ―ゼンはリリーにただならぬ才能のきらめきを見出していた。できることならば、殺したくはない。それが、まぎれもなく本心であった。


「……ディアブロ」


 そうアシュがつぶやくと、悪魔は飛翔し闇魔法使いの右隣に着地した。


 9秒時点


 へ―ゼンはその光景を見て、違和感に気づく。なぜ、ディアブロがリプラリュランと戦っていない……なぜ、あそこにいる戦天使はただ、悪魔の飛翔を見過ごしている。


「リプラリュラン!」


 そう呼ぶが、戦天使は上空で一向に動かずに浮遊したままだ。


「……くく」


 アシュの低い笑い声が響く。


「貴様……なにをした?」


 リプラリュランに危害を加えられるほどの魔法をアシュが持っているとは思えない。しかし、現に戦天使は動かず闇魔法使いは不気味な笑みを浮かべている。


「……これは、僕の新魔法オリジナルなんですがね」


 そうつぶやく、アシュ。いつのまにか、息切れはおさまっている。


「リプラリュラン! アシュを攻撃しろ」


「……リプラリュラン。こちらへ来い」


 数秒後、戦天使はへ―ゼンよりアシュの命令を優先した。歪んだ表情を浮かべながらもリプラリュランはアシュの左横に着地した。


「バカな……なぜ」


 戦天使と悪魔を両隣に抱え、アシュは歪んだ笑みを見せた。


「200年……僕はずっとあなたになりたかった。あなたのような偉大な魔法使いに。しかし、僕はどこまで言っても僕でしかない。だから、僕は僕のやり方であなたとは違うモノを求めたんです」


 闇魔法使いの言葉を聞きながら、へ―ゼンはリプラリュランを凝視していた。戦天使の様子が……おかしい。その翼がみるみるうちに黒く変色していくのだ。


 0秒時点


「ギャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア」


 おおよそ天使らしからぬ声。まさしく断末魔の叫び声が空中を木霊した。


「まさか……」


 へ―ゼンがつぶやく。


「そう。天使リプラリュランは僕の血を大量に浴びた。リリーがあなたと戦っている間、僕が闇の魔力を注いだ血液を」


 やがて、戦天使の身体が黒く変色していき、頭には角が生えてくる。翼は悪魔の翼に変わり、身体からは野獣のような毛が生えてくる。


「堕落……」


「驚いていただけて光栄です。へ―ゼン先生」


 アシュは仰々しくへ―ゼンにお辞儀をした。


「……貴様は……やはりこの世界にいてはならん奴だ」


<<聖獣よ 闇獣よ 双壁をなし 万物を滅せ>>ーー理の崩壊(オド・カタストロフィ)


 へ―ゼンはアシュに向かって聖闇魔法を放つが、()()()()()使()()()()()()が立ちはだかり、一瞬にしてそれをかき消す。


「リプラリュラン……」


「ありがとう、リプラリュラン……いや、悪魔リプラリュラン」


 歪んだ表情を見せながら、アシュは満足そうに微笑んだ。  


 

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