会いに行く
翌日、アシュは自室のベッドで起きた。あの後、当然のように月を眺めて撤退。泣く泣くベッドに潜り込んで夜を迎えたが、悔しすぎて一睡もできなかった。
一晩中、美少女を眺めたかったとは、エロ魔法使いの心の叫びである。
朝食のために一階の食卓に向かうと、すでにタリア、シス、リリーは座っていた。タリアは相変わらずほとんど料理を口にしていないが、残りの二人はかなりのスピードで食べていた。
「……」
アシュは自分の椅子に座って、黙って食事を行う。いつもなら、タリアを口説くために、ウンチクを始めるのだが、シスもいるので控える(リリーはどうでもいい)。
「……それで、タリア君はこれからどうするのかな?」
「えっ……どうするって?」
「僕は学校の授業もあるのでここを出るが、ここにいるかい?」
「……出ていいんですか?」
「出てもいいもなにも、別に強制したことなどないがね」
アシュはこともなげに答える。少々強引に招待はしたが、無理にここにいてもらう必要はない。女性になにかを強制させるのは、自分の主義に反する。あくまでスマートに口説きたいとナルシスト魔法使いは考えていた。
「か、帰ります。親が心配してると思うので」
「ほぅ……それではぜひともご挨拶を――」
「う、嘘です! 親いないです! 断固としていないです!」
タリアは即座に否定した。たとえ、居たとしても絶対に挨拶して欲しくない。絶対に親には紹介したくない男大陸ナンバーワンである。
「はいはいはい! テスラ先生はどうするんですか?」
「し、知らないようるさいな。大人だから、自分でなんとかするんじゃないか? 君は黙って、浅ましく、美味しい朝食でも貪り食っていたまえ」
ハキハキしたリリーの声が、寝不足の頭にはガンガン響く。アシュはミラに耳栓を用意させて両耳に着けた。
「ぐぐぐっ……ひ、酷くないですか? テスラ先生死んじゃうかもしれませんよ」
「別に彼らは聖櫃であるシスを狙ってるわけであって、彼女をどうこうすることなんてないだろう。多少、外に出るのは大変かもしれないが、やって謹慎ぐらいのものだろう」
「そ、そんなわけないじゃないですか!? 相手はどんな卑怯な手でも使う輩ですよ? テスラ先生がどんな目に遭うか……」
「はぁ……君の頭にはウジが湧いてるね。君たちの敵なんだから、卑怯な手も使うだろう。しかし、彼らはテスラ先生の敵じゃない。なんだってこんな理屈がわからないのかねぇ」
アシュは呆れるように答えた。彼らの狙いは、テスラの動きを封じることだ。当然次の一手は、リリーやシスを狙ってくるに違いない。それなのに、自分たちの心配をせずにテスラの心配などと。あまりの能天気さに、ため息をつく。
「でも……そんな保証はないじゃないですか!」
「ああ、そうだね。保証はないよ。じゃあ、リリー君は、さっさと行って助けに生きたまえ。ぜひとも、捕縛されて、縛られて泣き叫ぶと言いといい。僕は亀甲縛りを所望するね」
「き、亀甲縛り?」
リリーもシスもポカンとしているが、タリアは顔を真っ赤にしながらうつむいている。アシュは堂々と『そんなことも知らないのか?』的な視線で二人を見おろす。
「アシュ先生……私も心配です」
「はぁ……君もかい?」
泣きそうな顔で懇願するシスを見てため息をつく。若い時には理想に走りがちだが、この2人は特にひどい。なまじ力があるが故に、自分たちでなんとかしようとする。
「君たちは力というモノがなんたるかが全く理解できてないようだな……むしろ、そこら辺を徹底的に教え込んだ方がよいのか」
「そんなことよりもテスラ先生が――」
「ああ、もうわかったよ。課外授業だ。ミラ、準備しなさい」
アシュは煩わしそうに手を振って、立ち上がる。そして、執事のミラがテキパキと外出の準備を始める。
「な、なにをする気ですか?」
「はぁ……リリー君。君が言ったんだろう? テスラ先生に会いたいと。だから、会いに行くんだよ」
「あ、会いに行くって……テスラ先生はアリスト教の本拠地にいるんですよ? 囚われてるんですよ? どうするつもりですか?」
「……とりあえず、全力で君に説教したい気分だが、今はやめておこう。君たちも早く準備をしなさい」
「は、はい……でも、どうするつもりですか? 正面から行ったって、アリスト教徒の魔法使いたちに囲まれますよ?」
金髪少女の問いに。
白髪の魔法使いは歪んだ笑みを浮かべた。
「今の僕に、勝てる魔法使いはいないよ」




