人質
先手を打ったのは、12使徒の3人だった。
<<火の存在を 敵に 示せ>>ーー炎の矢
<<水の存在を 敵に 示せ>>ーー氷の矢
<<木の存在を 敵に 示せ>>ーー風の矢
基本的な魔法の矢だが、一般的な魔法使いの詠唱と印が異なるので、その威力差は歴然としている。例えば、リリーならば迷わず、魔法壁の上位互換である魔方陣を選択するだろう。しかし、テスラの対応はまるで異なる。
<<聖鏡よ 愚者へ 過ちの洗礼を 示せ>>ーー真実の扉
反射魔法。3種類の属性をそっくりそのまま返す。ウキエル、ジグザ、シュナイダー。3人とも元教え子ということもあるかもしれないが、初見で相手の魔法の性質を見極めて、跳ね返すなど、常人にはできない。
しかし、実力を知り尽くしているのは双方同じ。それを待っていたかのように、相手は次なる魔法の準備をしていた。
<<哀しき愚者に 裁きの業火を 下せ>>ーー神威の烈炎
<<氷刃よ 烈風で舞い 雷嵐と化せ>> ーー三精霊の暴虐
<<氷刃よ 敵を貫きて 爆炎と化せ>>ーー水陣の反乱
火・光の二属性魔法。水・土・木の三属性魔法。水・火の二属性魔法。跳ね返された魔法を呑み込み、複属性魔法のオンパレードが、テスラに向かって襲いかかる。
<<光陣よ あらゆる邪気から 清浄なる者を守れ>>ーー聖陣の護り
さすがの彼女も今度は魔方陣で対抗する。3つの強力な魔法を一気に相殺。その額には汗一つかいていない。
「……すごい」
思わずリリーは感嘆の声を上げる。先ほどから、大群のアリスト教信者たちを相手にしている。今、対峙しているのは紛れもなく強敵である。それにも関わらず、全くと言っていいほど魔力の枯渇が感じられない。下手をすれば、一生戦えるのではないかと思うほどの余裕さえテスラからは読み取れる。
「相変わらずの化け物ぶりですね」
大司教であるランスロットは笑みを浮かべる。しかし、そこから焦りは感じられない。
「ウキエルはまだ風魔法が弱いですね。ジグザ、3属性魔法は配分を注意しなくては、強力な威力にはなりませんよ。シュナイダーは印が荒いです」
ニッコリと敵の弱点を指摘する大聖女。
「……余裕ですね?」
「はい、余裕ですね」
12使徒は紛れもなく強者だ。リリーとシスがあれだけ苦戦したというのに、馬鹿らしくなるほどテスラは強い。
「……」
リリーは思わず、彼女と闇魔法使いを比べる。もし、仮にテスラとアシュが戦えばどちらが勝つだろうかと。アシュの力は圧倒的だ。破滅的な攻撃力を誇る中位悪魔を2体召喚できる。しかし、目の前の大聖女が負ける想像もできない。あるいは、ヘーゼンのように聖闇魔法という明確な強さがあれば比べることはできるかもしれない。しかし、未だ天使召喚すらも見せていない彼女は、紛れもなく異質だった。
「……ならば、これならどうですか?」
ランスロットはつぶやき、他の3使徒から魔法を浴びる。自身に内蔵された光が柱状に輝き、やがて大きな
<<神の光よ 使徒の想いを集め 悪しき者を 裁かん>>ーー聖天使の息吹き
収束魔法。アリスト教徒の秘技を大司教は惜しげもなく放つ。
「……ふぅ」
<<光威 咎人を 断ずる 一撃を>>ーー天上の聖辣
<<全てを 吹き飛ばす 暴風を>>ーー絶玲の風
<<雷豪よ 忌まわしき 闇を 晴らせ>>ーー雷帝の裁き
光・風・雷。極限に高められた魔法が放たれ、相殺。小さくため息をまじえながらも、テスラは難なく処理をする。
「ランスロット、その魔法はここぞという場面でしか使うのはおよしなさい。3人程度の魔法を収束したからと言って、威力はしれています。こうして3つの極大魔法を放つのと何ら変わりはありません」
「「「「……」」」」
大司教も、12使徒の3人も、リリーも、愕然とする。今、異なった指で極大魔法を3本放った。ヘーゼン=ハイムのように異なる魔法を異なる指で放てるのは知っている。しかし、それはあくまで魔法の矢などの初級魔法だ。そうする必要性がないとはいえ、そうする難しさを知っている魔法使いたちは、女神のような笑みを浮かべている聖女に脅威を覚える。
「どうか、このままひいてはいただけませんか?」
「……仕方ない。あなたと対峙するのは、やはり骨が折れそうだ」
そうつぶやき、ランスロットは魔法を唱える。
出現したのは陣だった。そこから、浮かびあがってきたのは、縄で縛られている元12使徒セナだった。




