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どちらかと言うと悪い魔法使いです  作者: 花音小坂
第4章 リアナ=ハイム編
391/452

視線


 闇魔法使いが傍観を決め込んでいる間にも、戦闘は激しく繰り広げられている。彼の水晶玉には主にシスの太ももしか映ってはいないが、リリーもまた苦戦を強いられていた。凡庸な魔法使いならば二人くらい問題ではないが、目の前の相手はレベルが違う。


「バッシュ、あんたもっと気張りなさいよ」「……うるさい女だ」「はぁ!? 誰のこと言ってんの!?」「お前しかいないだろ、タリア」「くっ、こんの小太り男が」「痩せ女」「殺すわよ!」


 ふざけた言い合いに、文句の一つもつけてやりたいが、現在のところそんな余裕は皆無である。単純な魔法使いとしての能力ならばリリーに勝てる者は少ない。しかし、相手は多彩かつ巧妙だ。いがみ合っているように見えて、コンビネーションも完璧。こちらが極大魔法を放とうとするタイミングで、効果的な妨害を入れてくる。対して、リリーの戦闘経験は、決して多くはない。アシュの授業そのものが研究寄りで構成されていたため、他のクラスより戦闘訓練自体減らされている傾向にあった。


<<火の存在を 敵に 示せ>>ーー炎の矢(ファイア・エンブレム)

<<水の存在を 敵に 示せ>>ーー氷の矢(アイス・エンブレム)

<<木の存在を 敵に 示せ>>ーー風の矢(ウインド・エンブレム)


「くっ……」

 

<<絶氷よ 幾重にも重り 味方を護れ>>氷陣の護り(レイド・タリスマン)


 無数に飛んでくる魔法の矢(マジック・エンブレム)。いちいち属性違いの攻撃をいれてくるのが厄介だ。単一属性であれば相克の魔法壁でいいのだが、複数であれば上位互換である魔法陣で対抗せざるを得ない。そうすると、必然的に次の魔法を放つ時間が遅くなり、後手に回る。


 こんな時、リリーの脳内に思い浮かぶのは、アシュ=ダールだった。あの教師だったらどうするだろうか。


            *


「強敵が現れた時にどうするか? ふむ……僕なら一時撤退を考えるね」


「逃げるってことですか?」


「まあ、無粋な言い方をすればそうだな。だが、あくまで一時だ。その後に、相手が僕に攻撃できぬ場所で、僕に挑んだことを後悔するくらい痛ぶってやるがね」


「な、なんでそんな卑怯なことを堂々と言えるんですか?」


「僕は君みたいな凶暴な野蛮人とは違って、戦闘行為が嫌いでね。力比べには興味がないんだ。まあ、僕の師であるヘーゼン=ハイムであったら戦闘中に攻略法を見つけて戦うだろうな。仮に魔力が数段強い者が現れても、難なく勝てるほどの瞬発的思考を持っている」


「そ、そんなに強いんですか?」


「化け物だよ。実際、彼よりも強い者を想定することは難しいが、まったくいないわけでもなかっただろう。だが、彼は生き残った。つまりは、そういうことだ。上位悪魔以上と対峙した時でさえ、彼は最終的に勝ってみせたよ」


「……」


「ライオール=セルゲイであったら、そもそも戦うという選択を起こさせないようにする。その点、あの好々爺は老獪だな。僕も見習って何度もそうしようと試みたが、すべて失敗に終わったよ」


「……でしょうね」


「さて、君ならどうするかね?」


              *


 以前の会話をトレースしながら、『逃げる』という選択肢が脳内に浮かぶ。だが、この場合はその選択をすること自体が難しい。ただでさえ、数的有利を作られている状況。


「まったく……使えないんだから」


 勝手に脳内に出現させておいて、勝手に愚痴る彼女であったが、お陰で幾分か冷静にはなった。彼女が採用したのは、ヘーゼンの思考。どこかで聖闇魔法を入れないと勝機はないと考えていたが、先手を取られた状況では不可能。


<<水の存在を 敵に 示せ>>ーー氷の矢(アイス・エンブレム)

<<水の存在を 敵に 示せ>>ーー氷の矢(アイス・エンブレム)

<<水の存在を 敵に 示せ>>ーー氷の矢(アイス・エンブレム)

<<水の存在を 敵に 示せ>>ーー氷の矢(アイス・エンブレム)


「はぁ!?」


 タリアは思わず奇声をあげる。リリーは一度に4つの氷の矢(アイス・エンブレム)を放つ。その指先のみで魔法の矢(マジック・エンブレム)を放つことができる魔法使いが大陸に何人ほどいるだろうか。実際、その器用さに舌を巻く。複数の指で複数の魔法を放つ。それは、かつてヘーゼンが得意とした芸当だというが。


 しかし、放たれたそれは、あさっての報告へと舞い2人のもとへは届かなかった。


「愚かだな」


 バッシュという魔法使いはほくそ笑んだ。まるで、連弩のごとく放たれるそれは、正しく扱えれば確かに脅威だ。しかし、単一属性で命中率もない。明らかな訓練不足。これでは、戦闘では使えない。明らかな失敗であると彼は確信した。


「くっ……」


<<黎明よ 深淵の者に 善なる光を>>ーー光の烈陽(サン・ブラスト)


 光の専属魔法で、相手の視界を奪う高等魔法。リリーが続けざま選択した魔法は、それだった。


「甘い!」


<<土塊よ 絶壁となりて 我が身を守れ>>ーー土の護り(サンド・タリスマン)


 タリアが即座に土の壁を張って、光を遮断。バッシュが反撃を加えようとした時、


「ぐああああああああああっ」「きゃあああああああ」


 焼け付くような光が、二人を捉えた。

 



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