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どちらかと言うと悪い魔法使いです  作者: 花音小坂
第4章 リアナ=ハイム編
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大司教


 ランスロット=リーゼルノ。7歳にして、アリスト教司教となる。10歳から30歳までサモン元大司教の下で13使徒として活躍。35歳の現在、最年少でアリスト経のトップである大司教に就任。


「ふむ……なるほど」


 アシュはダージリンティーを優雅に飲みながらうなずく。


「13使徒はアリスト教徒司祭の中で才ある魔法使いを選抜した戦闘特化部隊です。大司教直下の隠密諜報活動を主な仕事とし、教内の浄化のため、非情な手段を選択する場合も多い。彼は歴代の中で、最も多くの()()を行った人物と言えるでしょう」


 ライオールは遠回しに表現しているが、要するに過激派である。アリスト教内外問わず、教義に外れる者、教義の邪魔となる者を容赦なく粛清して行った。その数は数千人とも噂され、大陸内で一躍彼の名が広まった。


「……ミラ、知ってるかい?」


「はい」


「ならいいか。ライオール、彼女がうまくやるからそんなに心配することはないんじゃないかい?」


「……はい」


 答えながら好々爺は心の中で落胆する。この、アシュ=ダールという魔法使いは、危険予測能力が決定的に欠けている……いや、欠けてしまったというべきだろう。ヘーゼン=ハイムが一度死んだ時点で彼が恐れる人物はこの大陸にはいなくなったと言っていい。そして、そんな己の警戒心のない者に、他人の身の危険など察知できるはずもない。


 思えば、テスラがこちらに来たのは、ランスロットの就任があったからだろう。彼が大司教となれば、どんな非情な手段を用いても聖櫃であるシスを入手しようとする。その前に、なんとか彼女を保護しようという配慮からだろう。テスラのアリスト経内の地位は聖女。大司教の下の位階に位置する。彼女は温厚で争いごとを好まぬ性格である。彼の行動に対し、意義を唱える可能性はあるが、秩序と規律の象徴であるような彼女がそれを乱すことの影響を考えると、やはり黙認するような可能性が高いように思える。


「……ランスロットは非常に優秀な魔法使いです」


 テスラはボソッと口にした。


「ほぉ、あなたがそう言うとは余程の者なんだろうね。今度、彼のことについて夜景の見える高級レストランで是非とも伺いたいものだ」


「……」


 彼女は、なにも言わずに職員室を出た(アシュはフラれた)。


「さあ、そろそろ僕も教室に向かうとしようかな」


 完全に無視され、普通に置いてかれた事実はなかったことにして、鋼メンタル魔法使いも彼女の後をついて行く。


「理事長……大丈夫でしょうか?」


 二人がいなくなった後で、エステリーゼが心配そうに尋ねる。現状、副担任をアシュに譲った彼女は、正式にライオールの秘書となって行動している。そんな彼女には、あらゆる類の情報が彼から伝えられている。


「フフ……やっぱりあの人だけは読めないよ」


 いい意味でも……多くの場合で悪い意味でも。


 稀代の天才を輩出する時期と言うのが、歴史には存在する。かつて、大聖女テスラと死者の王(ハイ・キング)と謳われた闇魔法使いゼノス。彼女と彼による光と闇の時代が存在した。次世代の筆頭格は、史上最恐の魔法使いヘーゼン=ハイムと禁忌の魔法使いアシュ=ダールだろう。そして、次代の聖闇魔法使いライオール=セルゲイ、闇の申し子ロイドが彼らの後を続いた。そして。現在。新たな天才の芽吹きを示したリリー=シュバルツ。聖櫃という運命に魅入られたシス=クローゼ。史上最強を倒すために造られたローラン=ハイム。そして、最年少大司教のランスロット=リーゼルノ。間違いなくこの世代が次の歴史を担う者たちであろうとライオールは確信する。


 先人の時代は、若き時代に移ろい行くものだ。かつて最強を誇った死者の王(ハイ・キング)、ゼノスはヘーゼンと対決した末に敗れ、アシュ=ダールに闇ごと喰らわれた。それは、世代交代と言われるごく自然的な食物連鎖だ。どれだけ身体を若く保ったとしても、新世代の若さと勢いに圧倒される。そして、それは自分だけは例外だと思っている者にこそ容易に起こるものだ。


 ただし、アシュ=ダールとヘーゼン=ハイムは別格だという考え方もある。アシュはロイドの闇を喰らってローランを退け、ヘーゼンはローランを喰らって復活を遂げた。古き怪物が若き麒麟児を消滅させた稀有な事例だ。


「ライオール理事長。一つ聞いてもいいですか?」


「なんですか?」


「あなたの目的はなんですか?」


「……バランスを取ることです」


「……」


 その淡々とした答えに、エステリーゼはますますわからなくなる。彼はヘーゼンの弟子、アシュの友人、ロイドとはライバル関係、テスラとは旧知の間柄で、リリーやシスは教え子という立ち位置である。どの関係性においても、絶妙な間合いで彼らと接してきた。それは、客観的に見れば異常以外のなにものでもない。彼は敵側にも味方側にも属しており、属さないでもいるのだから。『どちらかに偏ると気持ち悪い』かつて、目の前の好々爺が言い放った言葉は、冗談めいてはいたが、限りなく本気であったのかもしれない。ランスロットは非常に極端な聖心主義者だ。それは、均衡を重視する彼にとっては不確定要因以外のなにものでもないのかもしれない。だからこそ、アシュやテスラを使って彼を排除しようとしているのではないか。


「どうしかしましたか?」


「……いえ」


 エステリーゼはすぐに、邪推を打ち消したが、心の片隅にはいつまでもその想いが引っかかっていた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ゼルフ? ゼノス?  誤字なのか既出の別キャラかわかりません
[一言] やっぱライオールが一番怖いな( ˘ω˘ )
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