決着
一方で、テスラ側も追い詰められていた。破滅的な人望をもつアシュを慕う二人。シス=クローゼとナルシー=メリンダである。
青髪ロングの美少女はそのあまりある身体能力で、黒髪ショートの美少女は多彩な闇魔法で、キチガイ教師にいい子いい子してもらうために奮闘する。
二人は比較的近い場所に配置され、『協力して攻めろ』と言う指示に従う。特に、シスの機動力たるや凄まじいものがあった。そんか彼女に幾分置いていかれながらも、ナルシーもまた多彩な魔法でなんとか食らいつこうとする。一点突破で、すでに5人以上の生徒を撃破しながら本陣に突き進む。
待ち構えるのは自己主張美少女のリリー=シュバルツ。裏方のパイプ役に精を出していた彼女だったが、テスラの指示を自分なりに解釈して曲解して伝えるので、指揮は混乱。「とりあえず、あなたは側にいなさい」と言われて、ちょこんと王の隣にいたことが功を奏した。
<<漆黒よ 果てなき闇よ 深淵の魂よ 集いて死の絶望を示せ>>ーー煉獄の冥府
闇属性の極大魔法。致命傷必至の一撃を、ナルシーは躊躇なくブッ放す。『目の前の教師を入院させたら、アシュ先生にお姫様抱っこしてもらえるかしら』とヤンデレラ的な妄想が止まらない。
「甘い!」
<<光陣よ あらゆる邪気から 清浄なる者を守れ>>ーー聖陣の護り
リリーは光の上位魔法壁でいとも簡単に防ぐ。
「これさえ張れば先生が傷つくことはないっ!」
どうですか!? こんな私はどうですか!? と自己主張激しげにテスラを見る自称人生主役美少女。
「……ふぅ、0点」
しかし、教師の顔に笑顔はなかった。
そして二人は、勝ち誇ったように笑う。
「はあああああああっ!」
シスの拳撃で光の魔法壁が弾け飛ぶ。ナルシーによって弱められたそれは、さも当然かのように霧散した。
栄光の手。アシュが不能者であるシスのために作った魔道具である。彼女は自らの体内に宿す物質のせいで、詠唱時に魔法が放出できない特殊な体質を持つ。そこで、天才研究者はそれなしでも体内の魔力を放出できる道具を与えた。効果としては、いわゆる魔剣の類と違いはない。
「くっ……」
一瞬の躊躇があり、次の魔法壁を張ろうとした瞬間、すでにリリーの腹には拳があった。もがくこともなく、金髪美少女は気絶しその場に倒れる。電光石火の一撃による結末だった。
「……残念」
テスラはそうつぶやいて笑った。
*
その光景を水晶玉で眺めながら。
「ククク……愚かな。だから、リリー君を制御できないと言ったのに。いや、むしろ鎖が繋がれた状態ではよくやった方か」
アシュは歪んだ笑顔でつぶやく。
聖闇魔法の禁止、四属性魔法以上の禁止、召喚魔法の禁止。あらゆる制約条件が、彼女の思考にノイズをもたらした。戦闘の思考のたびに最善の選択肢を思い浮かべ、それらを排除し次善の思考をしなくてはいけない。それは、実力がかけ離れた相手であれば通じるが、拮抗した相手では話にならない。
そして、これは戦略的な勝利であることが断言できた。戦術的柔軟性。思考の深さ。たとえ、リリーに制約がなくとも、シスとナルシーのコンビが彼女を凌駕することは明らかである。彼女がこの場で使うとすれば恐らく聖闇の魔法壁。しかし、それは莫大な魔力を消費するので、二人は持久戦を狙うだろう。そうなれば、リリーがいずれ負けるのは必至であると言えた。実力がきっ抗する二人を相手にするには、より緻密な戦術が必要になる。それが難しければ、二対一を作らせない戦闘前の戦略こそが重要になってくる。
すでにアシュは戦略上での勝利を確たるものにしており、それを戦術上で勝利しようとするのは無謀であった。
単独ではリリー=シュバルツに勝てる者は大陸を見渡してもそうはいないだろう。だが、それすなわち最強であることではない。最強であるということは、どんな敵にも負けないということ。ヘーゼン=ハイムは数千人の魔法使いと闘い生き残った。どんな条件であっても、どれだけの制約があっても、結果として最後に一人立っていた。彼女が偉大過ぎる先人と追い越そうとするのなら、必ず立ち向かわねばならぬ大きすぎる壁だ。
奇しくも、アシュとテスラがリリーに知らしめたいことは一致していた。
しかし。
二人の魔法使いはまったく異なる結論を彼女に要求する。
聖魔法使いは『他者との協調』こそが必要だったのだと説く。事前にアシュの戦略を察知し、パイプ役をつとめながら他者と協力することでこそ勝利が得られると。
一方で、闇魔法使いは『一人でも勝てる狂気』こそが必要だったのだとだと説く。事前にアシュの戦略を察知し、悪魔召喚と天使召喚を駆使すれば勝利が得られたのだと。試合はもちろん反則で負けるかもしれない。だが、リリー個人としては実質的な勝利感を得られたはずだと。
「……」
「ん? ミラ、どうかしたかい?」
「いえ……遥か前に負けて、逆さ吊りされて囚われていて、なんでそんな風に堂々といられるのかと思っただけです」
ミラは淡々と答えた。




