恐怖
夜が明けた試合日、ナルシャ国代表のメンバーが会場入りしようと円形闘技場に入ろうとすると、ひとりの美少女がモジモジしながら出待ちしていた。
黒髪ロングで白い肌をしており、輪郭の丸さが彼女の幼さを示す。着用しているセザール王国伝統の黒いローブが、彼女の厳かな雰囲気と見事にマッチしていた。
「ナルシー=メリンダ……」
密かに各国の美少女チェックを欠かさなかったダンがすかさず反応した。
「あの……」
彼女がオズオズとナルシャ国代表メンバーに駆け寄ってくる。
「どうしたの?」
ダンはやましさ3割の感情で尋ねる。
「その……アシュ=ダール先生はいらっしゃいますか?」
「「「「「……」」」」」
そ、それはこっちが聞きたいと、全員が思った。
「なんであの人のことを?」
リリーが10割疑念のまなざしを向ける。すでに、戦いは始まっている。直前で接触してくることなど、揺さぶりや罠をかけにきているとしか思えない。
「熱狂者……なんです」
「……えっ?」
リリーは思わず聞き返した。耳では聞こえていたが、脳内から情報を遮断して、思わず聞き返した。
「あの……だから……熱狂者なんです」
「……」
幻聴じゃない。
どうやら、幻聴ではなかったようだ。
「正気ですか?」
思わず聞き返す金髪美少女。
「……はい」
頬を赤らめてうつむく黒髪ロングの美少女に、
「そう……狂人ね」
と勝手に脳内変換して強引に納得した。
「でも……どうやらここにはいないみたいですね。残念です」
「あの、ちなみに、どんなところがいいんですか?」
「わかりませんか?」
「一ミリも!」
リリーはこれ以上ないくらいハキハキと答えた。
「そ、そうですか。可哀想な人ですね」
「……っ」
ウットリと空を見つめるナルシーに、可哀想呼ばわれされて『ガビーン』となったリリー。
「アシュ先生は闇魔法使いの英雄ですよ!? 私、小さい頃からあの方の軌跡を追うことを趣味としているんです」
「も、もっといるでしょう? 闇魔法使いの権威だったらジグー=デルザ教授だったり、背信主義者の地位向上に尽力している闇活動家ロレッス=バンドだったり」
「全然です! あんな方々とは比べものになりません!」
「だ、だったら闇魔法使いと言う視点を取り除いてみません? 史上最高の聖闇魔法使いヘーゼン=ハイムや我がナルシャ国の誇りであるライオール=セルゲイ先生とか……」
どうしても変更して欲しいアシュ大嫌い美少女。
「比べものになりません!」
「なんで!?」
「彼は、最も大陸から恐れられている魔法使いです! 聖信主義者からもバランス主義者からも、もちろん私たち背信主義者からも! 例外なく誰からも恐れられてます! 誰にも媚びず、我が道を貫く。たとえ、大陸中が敵に回ったとしても……その信念に私は感銘を受けたんです!」
「「「「「……」」」」」
そ、それって、単に嫌われてるだけなのでは、と全員思った。
「私たちはあなたたちに負けません! あなたたちに勝って、あなたたちより優れていることを証明して……あの方に私の気持ちを伝えるんです!」
ナルシーはビシッとリリーたちを指差す。
「き、気持ちって……まさか……あ、あなた何歳よ!? そ、そんな未成年がそんな恋愛なんて……」
「14歳ですけど、歳なんて関係ないです!」
「……っ」
あ、あのロリコン教師……と、リリーの思考は完全にアシュのせいになった。
「ふぅ……アシュ先生がいなくて残念でしたけど、宣戦布告ができてよかったです。それでは」
スッキリした顔を浮かべて、ペコリと礼儀正しくお辞儀をして黒髪ロング美少女は去って行った。
「「「「……」」」」
彼らの戦いに、少女の未来が、追加された。




