正々堂々
すでに籠の中にいることをアシュは自覚した。この大広場一帯に張られた結界によって行動範囲すら限定される。
そして。
<<黎明よ 深淵の者に 善なる光を>>ーー光の烈陽
ローランの放った魔法が、アシュの闇魔法を相殺し町に再び光が射した。
「さて、あまり時間がないので始めましょうか? それとも、まだコソコソと逃げ回りますか? こんな年端もいかない若造に」
「まったく……物は言い様だな。さも、正々堂々と勝負を挑んだフリをして。ここまで、君の得意とする地形にしておいて、正々堂々とは聞いて呆れる」
「正々堂々? 僕は一言も発した覚えはありませんが。そんなものが戦いにおいてなにか意味があるのですか? 生は勝利、死は敗北。あなたが一番その理を熟知しているでしょうに」
その答えに、アシュは心で舌打ちをする。若さゆえの気負いも、自尊心も見事に律して勝負に徹している。それはまるで、老練な魔法使いと対峙したかのような錯覚すら覚える。
滅悪魔を召喚し圧倒的に蹂躙したいところだが、相手はハイム家の天才。恐らく、聖闇魔法をすでに習得しているのだろう。そちらの方が詠唱時間が圧倒的に短い。
「クク……」
「なにがおかしいのですか?」
「いや、失敬。少々、君と似た教え子のことを思い出してね」
思わぬ苦難に彼女の顔が思い浮かび、笑ってしまった。まあ、彼女ならばもっと不器用な戦いをするのだろうが。
「ナルシャ国代表の生徒ですか。僕の見た限り、あなたの目にとまるほどの魔法使いはいないように思いますが」
ローランもまた一回戦での模様を観覧していたが、見るに耐えない凡戦であった。ある意味それは、アシュへの失望へと繋がったのだが。
「……仮に僕が君に負けたら、リリー=シュバルツと戦ってみるといい。彼女は、非常に面白いよ」
「自身の敗北を感じて、教え子に託しますか。ある意味、潔いとも言えますが彼女に僕を倒せるとは思いませんね」
「ああ、僕も同意だね……現時点では」
戦闘に関しての考え方も、その素直な性格も果てしなく未熟だ。アシュの見たところ、魔法使いとしての力量もローランの方が上なのだろう。
「……ひっかかる言い方ですね」
「気になるかい? 同世代の魔法使いに、好敵手がいることは喜ぶべきことだよ」
「……おしゃべりはここまでにしましょう」
「ああ、そうだね」
そう低く笑って。
アシュは、戦闘の構えをとる。
「……妙に潔いですね。逆に不審なくらいだ」
「ああ、僕自身も驚いているよ。珍しくね、君の実力を純粋に計りたくなった」
ハイム家ではヘーゼン以降突出した天才は現れていない。黒い髪、整った輪郭、鋭い瞳、性悪な性格。なにからなにまで彼と酷似している青年の器を確かめたくなったとは、偽らざる闇魔法使いの想いである。
「……話し半分に聞いておきましょう。あなたは、息を吐くように嘘をつく」
そう言って、ローランもまた戦闘の構えをとる。
「クク……本当に君はヘーゼン先生にそっくりだ。では、始めようか」




