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どちらかと言うと悪い魔法使いです  作者: 花音小坂
第4章 リアナ=ハイム編
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侯爵



 首都ジーゼマクシリアの中心部に位置する円形闘技場は、国別魔法対抗戦大会会場のため、1ヶ月前に建設されたばかり。開始まで、すでに半日をきっており、運営委員たちが忙しなく働いている最中、1組の男女が、観客席の最上段で座っていた。


「……闘技場とは、かつて貴族たちが自らの奴隷たちを強制的に闘わせる死合《ゲーム》であったとされている。魔法の使えぬ戦士たちが、互いに剣を交え、血を流し、腕を飛ばし、どちらかの首が落ちるまで、終わることはない……無粋な。風情もなにもあったもんじゃないな。そうは、思わないかい?」


「は、はぁ……」


 ウンチク闇魔法使いに、今にも、肩に手を回されようとしているエステリーゼは、いまいち、ピンとこないような生返事をする。いや、それどころか今は、この国別対抗戦を成功させるかどうかで、終始神経を張り巡らせている運営実行委員長美女教師である。


「アシュ先生、あの、そんなこ……じゃなくて。それよりも、緊張している生徒たちの激励をしてきてはいかがですか?」


 ライオールの話では、この闇魔法使いは、ある意味、この大陸中のキーマンであるとのこと。にわかには信じられない話ではあるが、無下にすることはできない。なんとか、丁重に、そして、穏便にこの場から離れて行きたいところではあるが、


「ふっ……この程度で緊張なんてするほど、僕の生徒たちはヤワではないよ。なんせ、大陸最高の魔法使いに鍛えられているわけだからね。それより、ほら……見たまえ、この夕日を。まるで、僕らを祝福しているような輝きを放っているではないか」


「……っ゛!」


 伝わらない。それどころか、KY魔法使いに歯の浮くような台詞を吐かれ、無性に無下にして、ギッタギタに罵倒してやりたい衝動にかられる。


 今にも、その頬に威勢のいい張り手を食らわせようという中、一団がアシュとエステリーゼの前に立つ。


「……久しぶりだな、アシュ=ダール」


 忌々しげに吐くのは、ダルーダ連合国元首のフェンライ=ロウ。ターバンを頭に巻いた褐色肌の男である。小太りで、背も低いが、身に纏った服装は全て一流のもので仕立てている。後ろに付き従うのは、彼らの国の代表であろう。黄土色に彩られたローブを着た、こちらも褐色肌の生徒たちだった。


「さあ、エステリーゼ君。こんな殺風景な場所を抜け出して、美しい夜景が見えるレストランへと洒落込もうではないか」


「ちょ、ちょっとアシュ先生!?」


「なんだい?」


「あの……」


 エキゾチック美女は、あまりにもナチュラルに無視されすぎて、独り言を言ったみたいになって、屈辱にうち震えている、小太り褐色男の方を指差す。


「おや、気づかなかった。初(・)め(・)ま(・)し(・)て(・)、アシュ=ダールと言います。以後、お見知りおきを」


「はわっ、はわわわわっ! 初対面じゃないみたいですよ」


 狼狽えながら、はわわわ状態になりながら、アシュの耳元で囁くエステリーゼ。ダルーダ連合国は明らかな格上国家。しかも、国家元首。下手をすれば、国際問題にもなりかねないほどの失礼を犯している闇魔法使いに、冷や汗が止まらない。


「ふむ……それは、申し訳ないことをしたね。名前を忘れるなんて、紳士として、恥ずべき行為だ。反省せねばいけないな」


 指摘を受け、アシュは深々とお辞儀をする――だけでなく、


「しかし……君みたいな特徴的な容姿をした男は、なかなか忘れないのだがね。その子豚のようなチャーミングな体型に、プルプルと、可愛らしく、その無駄な肉を震わせて。実にユニーク、かつコミカルだ。どことなく、その表情も豚のように個性的だ……実に肉肉しい。失礼だが、本当に君とは初対面ではないのかい?」


 ペタペタ。


 ペタペタ。


 自称紳士、他称最低KY野郎は、強国の国家元首の顔や身体を無礼にも撫で回すように触り続ける。


「はわ、はわわわわわわっ。こ、こ、このお方は! ダルーダ連合国元首のフェンライ=ロウ様です!」


 あまりにもなその発言に、はわわわわ状態が止まらないエステリーゼ。彼女は、本日付でライオールに休暇届を出すことを心に決めた。


「……」


 フェンライの表情は、もはや、怒りを通り越して、すでに笑っているように見える。一介の魔法使いによって、格上の国が弱小国の敵となった決定的になった瞬間だった。


「……ふむ。フェンライ=ロウ……フェンライ=ロウ……あっ! もしかしたら、20年前は侯爵だったかい?」


「そ、そうです! フェンライ様は、かつては侯爵でありましたが、そこからなんと――「豚侯爵! 豚侯爵、フェンライか!?」


              ・・・















 その日の夜、エステリーゼは40度の熱で、寝込んだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] アシュ…… 豚侯爵の顔をペタペタしたんですか。 確信犯ですね(笑)
[一言] エステリーゼ先生ええええええ!!!!!!wwww
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