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どちらかと言うと悪い魔法使いです  作者: 花音小坂
第4章 リアナ=ハイム編
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一目


 ヘーゼンとジルが急いで邸宅に戻ると、リアナが激しい動悸をしながら寝転んでいた。


「……もって、あと数日というところでしょう」


 彼女についていた魔法医は淡々と答えながら、退出する。


 途端に、ジルが泣きそうな表情で、彼女をさする。


「はぁ……はぁ……ジル……お父さん、来てくれたのね」


 苦しそうな表情を浮かべながらも、笑顔を浮べるリアナに、


「……当たり前だ。安心しろ、もう少しで助けてやるからな」


 精一杯の作り笑いを浮かべて、ヘーゼンは彼女の額を撫でる。


「うん……わかってる」


 あきらめる時間は、もう過ぎてしまった。いまさら、絶望を与えるには、もう。ヘーゼンには、ないとわかっている希望にすがらせるしかなく、リアナはそんな父親の想いを、ただ笑って受け入れる。


「……すまない、アシュは……別のところにいて……」


「ふふ……」


「……どうした?」


「お父さん……嘘」


「……」


「アシュが会いたくないって……言ったんでしょう?」


「なっ……あのバカ魔法使いはなんでーー」


 まるで自分のことのように怒りかけるジルを、リアナはスッと手を挙げて静止した。


「……いいの、そう言う人だから。きっと、約束の約束を守るまでって……そう言う人なの」


「で、でも……そんな……」


「私のために、アシュは、頑張ってくれてる。だから……いいの。でも……お父さん。一つだけワガママを……言っていい?」


「……なんだ?」


「アシュの姿を……遠くからでも……いいから。一目だけでいいから……見たいな……駄目……かな?」


「……駄目なものか」


 なにがワガママだ……そんなものは、ワガママとは、言わない。そんなものは……


 ヘーゼンの瞳から、数滴の雫が床に落ちる。


「フフ……ありがとう、お父さん」


「……ジル、リアナの容体が落ち着いたら出発してくれ。館の近くに宿を取っておく。そこで待ち合わせしよう」


「わかりました……けど、ヘーゼン先生は?」


「私は……先に、用事がある」


 そう言い残し、先に部屋を出て、急いで禁忌の館に向かう。


 遠くから一目見せるぐらいならば。その白髪に染まった髪の毛を、染め上げるくらいで問題ない。あとは、不本意だが、アシュを操って研究しているように見せてーー


           ・・・


 息をきらしながら走るヘーゼンは、突然、足を止める。


「……はは、私は……最低だな」


 自分で考えておきながら、自分の考えに辟易する。娘の最期の願いを偽装するなどと。娘を愛し、全てを捧げた男を偽るなどと。いったい、自分は何様なのだろう。最強魔法使いと周りからもてはやされ、神にでもなった気でいたのか。実際には、1人の娘すら、救えはしない。


 しかし……それでも……


 次から次へとわき起こる感情を必死に押し殺して、ヘーゼンは研究室に入った。


 が、そこにアシュの姿は、ない。


 次に視線を写した瞬間、耐えようのない寒気がヘーゼンを襲う。


金(・)庫(・)が(・)開(・)け(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)。


「バカ……な」


 アシュには光の魔法は使えない。侵入された形跡もない。しかし、その中の試験管はなくなっている。


「くっ……」


 考えもまとまらぬまま、ヘーゼンは館の中を歩き回る。ほぼ、確実に最悪な事態が起こっているにも関わらず、どうかそれが起きないで欲しいと願いながら。


              ・・・


「ああ、ヘーゼン先生」


 結果、アシュは未だ館の中にいた。闇魔法の研究室の中に、ただ一人。


 しかし。


「……う゛う゛う゛ぇえええええ」


 思わず、ヘーゼンは嗚咽していた。


「どうしたんですか? 具合でも悪いのですか」


 その口調も正常に戻り、その漆黒の眼光も戻っている。髪の毛は相変わらず白く染まっているが、それ以外に身体的に変わっている箇所は見受けられない。


 異様なのは、その周りだった。彼の服はドス黒い鮮血でそめられており、その周りにはおびただしいほどの散らかされた死体がある。


 そして、確かに、ヘーゼンは見た。


「アシュ……お前は……なにをしていた?」


 喰っていた……確かに、こいつは、人(・)を(・)……喰らっていたのだ。


「そ(・)ん(・)な(・)こ(・)と(・)よ(・)り(・)、ヘーゼン先生! 成功です……わかるんです。身体から湧き上がってくる力が。これなら、リアナを救えられる」


 その瞳はまっすぐで、一欠片の迷いもない。


「答えろ……アシュ、貴様は……いったいなにをしていた!?」


「もう、なんなんですか。まだ、僕の研究にケチをつけようって言うんですか? 確かに、多少お腹は減りますよ。魔力のある食(・)事(・)をとらなければいけないというデメリットはある。でも、それだけだ……」


「……そうか」


「そうです。さあ、早くリアナの元に行きましょう。そうすれば、彼女との約束がーー「貴様は……本物の化(・)け(・)物(・)になったんだな」


 ヘーゼンは、静かに言い放ち、戦闘の構えを取った。





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― 新着の感想 ―
[一言] ヘーゼンが泣くところはここだけかもしれない。 ヘーゼンが自分の考えに辟易するところもいろいろな感情が沸き起こりながらも必死にそれを抑えているところにアシュの化け物化。 頼むからもう…。 泣い…
[良い点] すごいのひとことです…… [一言] アシュぅぅぅぅぅっっ!!!!
[一言] ああ……アシュ……。
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