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どちらかと言うと悪い魔法使いです  作者: 花音小坂
第3章 デルタ=ラプラス編
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感情


 いつも通りであるはずの、ホグナー魔法学校職員室は騒めき立っていた。そんな中、いつも通り始業時刻の5分前に扉を開いた。


「ふっ……諸君。今日も彩りが優しい朝だね。泥のように這いつくばって仕事をする君たちには、その情感がわからないだろうが、時々、耳を澄ませて大地の鼓動に森羅万象の神秘を感じることも、あっていいと、僕は思うよ」


 意味不明な妄言を囀りながらキチガイ魔法使い登場。


「アシュ様……この大地の鼓動に森羅万象の神秘を感じるより先に、この職員室の物々しい雰囲気を感じた方がいいと、私は思います」


 いち早く空気を読んだ有能執事の言葉を無視し、KY主人はいつもどお通り、女性教師に恒例の挨拶を始める。


「セルート先生、本日も綺麗なお顔で。ユレージュ先生、いつも元気で可愛らしいよ。クジュ先生、そのスーツ、似合っていますよ。ナナ先生、今夜はどこに飲みに行こうか、エステリーゼ先生、君に会えない時は、まるで虚空の――」


 と言いかけたところで、言葉を止める。彼女の姿が見えない。


「……ミラ、どういうことだ?」


 3日の休暇を取り、本日、彼女は出社してくるはずである。この時のために、アシュは会った時の口説き文句を2時間ほど練習していた次第だ。


「職員室の皆さまの会話から、無断欠勤のようですね」


「……デートかな?」


「アシュ様じゃないんですから」


 至極ごもっともな答えを投げかける有能執事。


「諸君、エステリーゼ先生はどうして来ていない? 誰かわかる人はいるかな」


 そう呼びかけるが、返事をする者はいない。


「それが……彼女が無断欠勤など初めてで」


 校長のロラドが慌てた様子で報告する。


「……そうか。わかったよ、みんなは生徒たちにいつも通り授業を。ナナ先生、特別クラスの授業をお願いできるかな?」


「は、はい。わかりました……あの、アシュ先生はどちらへ?」


「僕は……少し用事を思い出したので失礼するよ」


 すぐに、身を翻して職員室の扉へ向かう闇魔法使い。


「……ああ、言い忘れていた。僕はかなりの人気教師だから、欠勤するとうるさい生徒が一人いるんだ。リリー=シュバルツと言うのだが、バナナが大好物なので、うるさくてどうしようもなかったら、餌としてあげるといい」


「えっ? えっ? えっ? わ、わかりました」


 疑うことの知らない新人教師は、この不可解な指示を了承。10後、トラウマ級の咆哮が彼女に襲い掛かったという。


 職員室を後にし、廊下を早歩きで歩くアシュ。


「さて……ミラ、彼女の居場所を特定できるかい?」


「やらせては見ますが、すぐには難しいかと思います」


「……では、デルタの居場所は?」


「それなら、すでに突き止めています」


「よし、すぐに向かおう」


「……彼の仕業だとお考えですか?」


「いや、わからんね。しかし、少なくとも居場所を突き止めることはできるかもしれない。彼は、僕らより優れた探知能力を持っているから」


「なるほど。早速、彼に会う手筈を整えます」


「居場所がわかっているのではないのか?」


 そう尋ねながら、校舎の外で待たせていた馬車に乗り込む。


「こちらの動きは全て把握されていますので、デルタ様の元へ向かうと逃げられます。しかし、()()()()()()()では移動時までは監視魔法サーバリアンは発動していないことがわかっています。彼が次に向かうところを予測し、こちらも同じタイミングで向かわないと、先手を取ることはできません」


 追放の憂き目を受けた、かつての元老院メンバードジン侯爵。酒に酔わせて、小金を渡せしたら、アレやコレやと悪口のオンパレード……使える情報としたら、この一点のみであったが。もちろん、彼がその先どんな目に遭ったかなど、知る必要もない。


「……そうか、任せるよ。僕は彼女を助けに来た救世主として、彼女の心を射止めるような口説き文句でも考えておくから」


「……」


 勝手にしろ、とは有能執事の心の叫びである。


 しかし。


 ろくでもない言葉を吐きながらも、アシュの膝は小刻みに震えていた。


「珍しいですね。苛だっていらっしゃるのは」


 いや、エステリーゼが心配で焦っているのか。


 アシュの表情からは、それ以上は読み取れないが。


「……ミラ、余計なことを喋っていないで、さっさと僕を案内するんだ」


「かしこまりました」


 ミラは、その言葉から彼の心の一端を知る。


 アシュ=ダールは、怒っている、と。


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― 新着の感想 ―
[一言] こうなった時のアシュは頼りになるぜ!!
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