理事長代行
渋々、エステリーゼはアシュに手紙を見せる。
「……なんだ、そういう訳か。理事長代行と言っても名ばかりなものだろう?」
「え、ええ。まあ、そう言われるんならそうですが」
「僕が称号などを傘に強権を振るうとでも?」
「……」
その問いに対しては、満場一致でそう思ってた教師一同。
「はぁ……嘆かわしいね。僕は権力というモノには一番縁遠い人物と言っても過言ではないよ。君たちの付き合いも、もう2ヶ月になろうというのに」
「……ごめんなさい。そうですよね。私たち誤解してました」
素直に反省し、頭をさげるメガネ美女。そう言われてみれば、彼がそのような人物である気もしてくる。
「さあ、そろそろ授業だろう? エステリーゼ先生、授業を代わってもらえるかな? 理事長代行が形だけとは言うものの、ライオールの意図がどのようなものか確認しないとね」
「は、はい! わかりました」
ホッと一安心し、その真面目な姿に少しドキッとして、メガネ美女は職員室を出る。
他の教師たちも全員いなくなったところで、アシュは理事長室へ入りそのソファに座る。
「さて……ミラ、どう思う?」
「敵に拉致されたとは考えづらいですね。敵だとしたらアシュ様みたいなクズを理事長代行にしようとは思わないはずです」
「……」
他に、なんか、いいようないのか、とはクズ呼ばわりされたクズ魔法使いの言い分である。
「非常にユニークなライオール理事長のお考えかと思いますが、意図がわかりかねます」
「ふむ……どちらにしろ、彼の足取りは掴めそうにないな。本格的に彼の行動がわからなくなってきた」
「と、言いますと?」
「わからないかい? 彼はホグナー魔法学校の危機には必ず不在にしている。不自然だろう? まるで襲ってくれと言わんばかりに」
「わざと不在にしているとでも?」
「もしくは別の理由があるのか。例えば、実は彼が裏で糸を引いている……とかね」
闇魔法使いはニヤリと微笑む。
「そんな。そもそも理由がわかりません。なんで自分が理事長を務める学校をワザと襲わせるのですか?」
「さあ。しかし、僕が一番恐れているのは彼さ。同時に最も頼りにしている友人ともいえるが……ミラ、理事長の権限を記している資料はあるかい?」
そう尋ねると、有能執事は疾風の如く資料を探し当てアシュの前に広げる。
「詳細は抜粋しますが、権力は絶大ですね。教員の任命権限。生徒入学選定の最終審査。罷免、退学などの罰則も単独で行えますし……制服や教室の机などの選定などの雑務まで。これを1人で行っているとはさすがはライオール様ですね」
「ふむ……彼はなにかを伝えたかったのかな。僕にこの権限の中のなにかを行使してくれと」
「……どういうことですか?」
「いや……なんとなくそう感じただけなんだが……だとすると……」
「すると?」
「……うん、制服……やはり、制服しかないな」
「……」
理事長、あなたの目は、節穴です……ミラはこれ以上ないほど確信した。