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どちらかと言うと悪い魔法使いです  作者: 花音小坂
第3章 デルタ=ラプラス編
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お見舞い


 激闘から一夜明けて、禁忌の館。部屋のベッドには、起き上がれぬ闇魔法使いが一人。


「……うーっ……う――――――――っ……痛い」


 そのうめき声は虚しく鳴り響いた。不死の身とは言えど痛いものは痛い。激しい運動による筋肉痛と、ゴーレムの羽交い絞めによる関節痛みで、全身はボロボロである。


「あの小娘は……もう少しうまく操ればいいものを」


 リリーが演技していると気づいたのは、ゴーレムの攻撃に鋭さが感じられなかったこと。率先して攻撃していたように見えていたが、実はアシュが避けられる程度に調整されていた。


 攻撃を喰らったのは、ドジった闇魔法使いが悪いのだが、そこは棚上げにして。


「アシュ様、失礼します。お加減はいかがですか?」


 ミラが部屋に入ってきて、お辞儀をする。


「最悪だよ、最悪」


「……そうですか」


「はぁ……なにか他に言えないものかね」


「人形ですので」


「……君に期待した僕が馬鹿だったよ。ならば、人形にもできることを聞こうか。あの2人の動向は?」


「特に動きはありません。そう見せているだけかもしれませんが」


「ふむ……予想以上に強力な者たちだったな。特にレインズといったかな」


 あの場では、元教え子のデルタ以上に不気味な存在であった。朴訥な戦士かと思っていたが、ミラと戦いながらも常にアシュの動きを観察していた。


「はい、素敵な紳士でした」


 !?


「……君は敵になにを言っているのかな?」


 アシュの頭に怒りマークが一つ。


「私と戦っている最中も、あの方は手加減してくれていたように思います。思うにあの方は若干デルタ様とはベクトルが違うかと」


「君の想いなどどうだっていいが、ベクトルが違うという意見には同意だな」


「……心なしか不機嫌そうに見えますが」


「別に」


「そうですか」


「……」


 執事の意見を参考にするならば、レインズはあの場を制すことができたはずだ。ミラを倒せば、残るは戦闘要員は生徒たちのみ。戦闘慣れしていないしていない彼らが百戦錬磨のデルタ、レインズと渡り合うのは不可能だろう。


「ふーっ、どうやら本当に命拾いしたのはこちらのようだね。しかし、その理由がわからないな」


「彼が素敵な紳士だからでは?」


「……」


 なにを言っているんだこの人形は、とは闇魔法使いの感想である。


「きっと女性や子どもを傷つけれない方なのですわ」


「……まあ、ルックスは僕といい勝負だね。他は比べるべくもないが」


「ええ、まったく」


 その執事の答えに、アシュ、満足。


「……」


 彼女の想いとしては、まったく逆なのだが。


「しかし……生徒甲斐がない者たちばかりだな。尊敬すべき教師がこうして床に伏せっているというのに、見舞いの一つもできないとは」


「……」


 尊敬すべき教師ではないのではと、ミラ、思う。


「まあ、今は授業中だからな……普通来るとしたら授業後か」


「アシュ様の脳内にはお花畑が咲き乱れているようですね」


「ふっ……それほどでも」


「……」


 たまに、皮肉を褒め言葉と勘違いするキチガイ教師。


「しかし……お花畑と言えば、なんのお見舞いの花を持ってくると思う?」


「さあ、人形である私には見当もつきません」


 なにを言っているんだこの不人気教師は、とは有能執事の感想である。


「ちょっと、様子を見てきてくれないか?」


「……アシュ様がそうおっしゃるのでしたらわかりました」


 深々とお辞儀をして、ミラは主人の部屋を後にした。


             ・・・


 3時間後、有能執事が主人の元へ帰ってきた。


「ど、どうだったかね生徒たちは」


 ウキウキ。お見舞いと言うイベントにドキドキのワクワクである闇魔法使い。


「まずは、エステリーゼ様も体調が悪いとのことでお休みでした」


「そ、それはまた心配だね。それで? 生徒たちはお見舞いにどんな花を用意していたのかね」


「ガーバナの花を」


「ふむ……ガーバナか……確か、花言葉は『尊敬』だったね……ま、まあ悪くないんじゃないか」


「……」


 嬉しそう。異常に嬉しそうな最低教師。


「そ、それでいつ頃来るのかな? 紳士の僕にも準備と言うものが――」


「いえ、来ません」


「……えっ」


「生徒たちは全員エステリーゼ様のお見舞いに行きましたので」


「……」









 その後、壁に向かって寝るアシュの後姿の寂しげな様子と言ったら、なかった。


 



 

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― 新着の感想 ―
[一言] 何だかノリが公式お兄ちゃんに似てきたようなww いや、あっちがこっちに似てるのかww このノリ大好きww
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