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どちらかと言うと悪い魔法使いです  作者: 花音小坂
第3章 デルタ=ラプラス編
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エサ


 ホグナー魔法学校の校庭には大森林がある。新緑豊かな若木と枯れ葉の多い老木が入り混じったこの場所には、多くの動植物が生息している。アシュは、敢えてその場を選び、生徒たちを集合させた。普段は足を踏み入れぬ場所、そして新魔法と言う響きに、生徒たちの表情は明るく、テンションは高い。


 新魔法の定義とはなにか。まず、他に存在しない魔法であるということ。そして、その有効性が大陸魔法学会に認定されること。アシュの闇魔法はこの大陸魔法学会において154ほど登録されている。


 普段は単なる自慢であるこの闇魔法使いの講義にも、生徒たちは歓声で答える。


「しかし、特筆すべきことはここではない。学会に認められていない……つまり、僕の失敗した非公認の新魔法はどのくらいあると思う? ジスパ君」


「えっと……300くらいですか?」


「ミラ、正確な数を教えてあげなさい」


「3054になります」


 その驚愕の数字に一同息をのむ。


「ふむ……まあ、1年に20個ほどか。まあまあだね。しかし、失敗は恥ではない。僕にはその失敗の数こそが誇りだね。そうは思わないかい、リリー=シュバルツ君」


 そう言いながら、頭をグリグリと押さえつけるように撫でる。グリグリ、グリグリ。


「……はい」


 ぐうの音も出ない優等生美少女は悔しそうに頷く。その表情を見てひとしきり満足した後、


「雑談はこれぐらいにしようか。さあ、みんなそれぞれ僕を驚かせるほどの魔法を見せてくれたまえ」


 闇魔法使いは珍しく生徒たちを鼓舞し、送り出す。


 誰もいなくなった校庭で、ミラはカップにコーヒーを注ぐ。


「見事なまでの演技でございました。生徒たちは疑いもせずに新魔法に情熱を注ぐことでございましょう」


「そんなことより、相手はどう攻めてくると思う? 生徒たちを狙ってくるか。それとも、僕を直接狙ってくるかな」


 アシュは興奮を抑えきれずに、グルグルと辺りを回る。


「敵の性質によるでしょうが……あなたの教え子ならば、その性質にはお詳しいのでは?」


「正義感の塊のような男だったね。『大陸に理想郷を』と燃えていた時期もあったようだが……凄まじく青臭い妄言を吐いていたので、度々その性根を調教してやったものだ」


「……」

 

 そんな澄んだ瞳で、腐りきったセリフ吐かれても、とは有能執事の感想である。


「まあ、もう何十年も経っているのだ。僕は彼の性格がキチンと更生していることに賭けるね。僕の助言通り、この世界は腐っていて、人間の性根は悪だとみなしているはずさ」


「……」


 そんな爽やかな声で、腐りきったセリフ吐かれても、とは有能執事の所感である。


「ふむ……そう考えると、彼がどういう戦略を取るかによって、彼自身の思想がわかるな。僕の思想を認めていれば生徒たちを狙うし、未だ青臭い妄言を信じているのならば僕を直接狙ってくるだろう」


             *


「――なんてことを言っているが、どうする?」


 数キロほど離れた場所から二人の男が並び立って話す。


 監視魔法サーバリアン。水晶玉と言う媒介を通し、彼らの映像、音声を具現化している。それを見つめるのはクローゼ騎士団団長であるレインズと考案者であるデルタ=ラプラス。


「相変わらずだな。相変わらず、お変わりはないよ」


 デルタは苦笑いしながらつぶやく。


「ふざけた奴だな」


 大陸屈指の屈強さを誇る騎士は苛立ちを募らせる。厳しい修練、幾多の戦場を己の身一つで駆けてきた男にとって、この闇魔法使いの存在は不愉快極まりない。


「しかし、化け物だ。圧倒的なね」


「お前よりもか?」


「……今日は超えるつもりで来たよ。君と言う天才もいることだしね」


 デルタはそう笑ってレインズの肩を叩く。


「じゃあ、正面から行くか。あの闇魔法使いの期待に沿えないがな」


 快活気に笑って、騎士団団長は立ち上がる。


 その佇まいは、酷く堂々としていた。


<<空すらも 超越する 光をこの手に>>ーー時空の番人(スペース・キーパー)



 


 

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