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どちらかと言うと悪い魔法使いです  作者: 花音小坂
第3章 デルタ=ラプラス編
138/452

ダメ


 生徒を乗せた馬車は途中、アステリオルの町に到着。車内で十分な睡眠をとったため、みんな元気。普段は学校の中にいて外に出ることはほとんどないので、テンションMAX。


「ふっ……子どもだな。はしゃいじゃって」


「アシュ様、私に山のようなお土産を持たせておいてよく言いますね」

 

 ミラは、両手に大量の袋を抱えながらジト目で見つめる。


「僕の交友関係は幅広いからね。これでも、少ないほどだが」


「すべて飼育している魔獣用の餌なのは、私の気のせいでしょうか?」


「……あっ、エステリーゼ先生。君には特別なプレゼントを用意しているからね」


 強引に話を転換し、彼女の肩に手をまわす。


「……」


 無言。その表情はどこか浮かない。


「そんなに照れなくていいんだよ」


 ここぞとばかりに、自惚れ発言を吐く、エロ魔法使い。


「……」


 どこをどう見たら、照れているように見えるのかとは、有能執事の感想である。実際、エステリーゼの顔色は曇りに曇りきっている。


「……アシュ先生、休憩時間ですが、もう30分早くできませんか?」


「ん? しかし、生徒たちも楽しんでいるしなぁ」


 実は、近くの有名な時計台をデートで巡ることを考えていたロマンティック魔法使い。もちろん、生徒のことなど、どうだっていい。


「……そうですか」


「なにか特別な理由があるなら考えるが?」


 あまり突き放して亭主関白な印象を持たれても困る。親身な同僚として、意見を聞きながらさりげなく却下していきたいと画策する。


「……」


 なにも答えない。


「ミラ、なにか特別な視線は感じるかね?」


 さすがに、ただならぬ彼女の様子を、若干不審に感じる。


「……いえ、特に見張られてはいないかと」


「だ、そうだよ。ねえ、エステリーゼ先生。なにか悩みがあるのなら僕に話してみないか?」


「……」


 無視。


 全然信用されていないんだな、とは傍から眺めていた有能執事の感想である。


 その時、


「アシュ先生。エステリーゼ先生。お帰りなさい」


 姿を表したのは、ライオールだった。いつも通り、気配を相手に感じさせぬ足運びは、相手に突然現れたような印象を抱かせる。


「理事長……」


 明らかに安堵した表情を浮かべ、嬉しそうに駆け寄っていく彼女。


「相当信頼されているんですね。()()()()()()()()


「ミラ……黙りなさい」


 2人を見ながら、悔し気に立ち尽くす、道化魔法使い。


「アシュ先生、ご苦労でした。遠足はどうでしたかな?」


 ライオールはいつも通り、白く曲がった髭を伸ばしながら尋ねる。


「……ははは、非常に有意義であったよ。ねえ、エステリーゼ先生。テントの中で一緒に見た夜景は忘れられない思い出だよね」


 牽制。


 目の前の老人に壮絶な対抗心を燃やす嫉妬狂い魔法使い。


「や、やだアシュ先生。その言い方だと、なにかあったみたいじゃないですか。理事長、なにもないですよ。ほんとーに、なんにもないんですからね」


「ほっほっほっ、存じておりますよ」


 イチャイチャ。


 ほのぼの。


 ライオールとエステリーゼの間で巻き起こるやり取り。


「……はははは。そうだな。()()()()()、なにもなかったよ。()()()()()()


 本当に完全に正真正銘なにもなかったが、本当はなにかあったように見せたい、性悪魔法使い。


 その必死にな姿を見て、ミラ、思う。


 とんでもない道化ピエロだ、と。


「そんなことより、エステリーゼ。あまり心配はいらない。君たちがここに来るまでに対処しておいたからね」


 アシュの言葉をさらりと流し、ライオールは告げる。


「そうですか……よかった」


 彼女は心底安堵の表情を浮かべる。


「どういうことかね? 君はなにを対処したと?」


 アシュは老人に向かって尋ねる。


「……ここでは、なんですので。ホグナー魔法学校に戻ってから説明いたします」


「ふむ……ここでは説明できないと?」


「アシュ先生……」


 エステリーゼがそう言いながら耳元に唇を近づける。


 そして、闇魔法使いだけに聞こえる声で囁いた。










 見られてます、と。








 

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