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どちらかと言うと悪い魔法使いです  作者: 花音小坂
第3章 デルタ=ラプラス編
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発見


 午後8時。


「ひ、ひいいいいいっ」


 エステリーゼは、魔獣セルバッドの鳴き声に怯えながら歩いていた。怒りのまま、馬車で10時間。意気揚々とシルササ山に来たのはいいが、あたりは真っ暗。それでもなんとか登ってきたのだが、さすがに無謀過ぎた。


 これ……死ぬかも、とは彼女の脳裏によぎった予感である。


「だ、誰か―! 誰か――――――――――!」


 瞳に涙を溜めながら、何度も何度も叫ぶ迷子美女。特別クラスを探す目的は、すでに、救出から救助にチェンジしていた。


「助けて――――――! たーすーけて―――――!」


 必死。もう、怖くて必死。


 そのまま歩き続けていると、数十メートルほど離れた距離に明かりが見え始めた。すぐに、猛ダッシュ。最悪、敵でも構わない。なんとか、このぼっち状況を脱したかった。


 幸い視界に飛び込んできたのは、特別クラスの生徒たち。そして、その中心には、アシュとミラがいた。


「……ふええっ……よかったぁ。お――……」


 そう呼びかけようとして、途中で声を止めた。当初の目的を再び思いだす。すぐに瞳にたまった涙を拭って、怒りモードスイッチオン。


「なにをやってるんですか、アシュ先生!」


 大声で叫びながら、特別クラスの生徒がいる場所に乱入していった。


 しかし、彼女が見た光景は想像とはかなり違っていた。全員が一丸となって何かを探している光景。それも、みんな一心不乱に。


「あー! エステリーゼ先生!」


 箱入り王女系ブリっ子のサーシャが彼女に気づき、声をあげる。


「こ、これは……なにごと?」


「みんなで、ピエトラ草を探しているんです。私も頑張ったんですよ、エッヘン」


「……」


 両脇腹に腕で三角形を作りながら可愛く誇る彼女だが、明らかにその服は汚れていない。恐らく嘘だろうことは、一瞥で判断した。


 しかし、他の生徒たち……特にリリーは泥だらけ。暗い夜であってもわかるぐらいに真っ黒であった。


「リリー君、ちょっとこっちへ来たまえ」


 聞きなれた声がして振り向くと、そこにはアシュが立っていた。彼も同様、服装は汚れており額は汗が噴き出ていた。


「はい」


 彼女は躊躇なく、そして素直に返事をして闇魔法使いの近くへ寄る。


「この土を少しかじってみたまえ」


「……んー、ちょっと甘……いですか?」


 その答えにアシュはニヤリと笑う。


「ピエトラ草が生息する土はほんの微量だが、糖分が含まれていると言われている。湿度、また周囲に生えている魔草、や木々も文献の地に限りなく近い」


「ってことは……」


「ああ! みんな、この周辺をくまなく探したまえ! ゴールは近いかもしれないよ」


 アシュがそう叫ぶと、一斉に生徒たちから歓声があがる。


「……凄い」


 エステリーゼは思わず口にしていた。


 彼女が過ごした学校生活の中で、ここまでクラスが一丸となっている光景は見たことがなかった。みんな、指示に従って必死に物事にあたっている。教師としては理想の光景だというべきものを、あの最低教師がとりまとめて行っている。


 やがて、


「あった―――――――! 先生、ありました!」


 リリーの弾けるような声が聞こえ、一斉に生徒たちが周りを取り囲む。そして、最後にアシュが彼女のすぐ近くへ寄り、彼女が手に持つ魔草を注意深く観察し始める。


「ど、どうです……か?」


「……」


「……」


 リリーも、アシュも、そして他の生徒たちも、エステリーゼまでもが固唾をのんでその光景を見守る。


「……諸君! よくやったね」


 アシュはニコっと笑って、生徒たちに叫ぶ。


「「「やった―――――――――――!」」」


 一斉に生徒たちから怒号のような叫び声が木霊する。


 みんながリリーを取り囲んで、喜びをわかちあい、互いに抱きしめあう。まるで、宴が始まったかのような盛り上がり。


 そんな中、アシュが輪の中から抜け出て彼女の方に歩いてきた。その時、初めてエステリーゼの存在に気付き、少し照れくさそうに苦笑いを浮かべる。


「一緒に喜ばないんですか?」


 それまでの怒りなどすっかり忘れ、彼女は純粋な疑問を口にした。


「ああ。もう、十分だよ。それに……ここから見る光景もそう悪くはない。そうは思わないかい?」


 闇魔法使いは、木にもたれかかって喜び合う生徒たちを、愉快そうに眺める。


「……ええ、私もそう思います」


 エステリーゼも、彼の横に立って同じ光景を。


「しかし遠足と言うのも……存外楽しいものだな」


「あの……アシュ先生?」


「ん? なんだい」


「どちらが……本当のアシュ先生なんですか?」


「……これも、僕さ」


 そうつぶやいた彼の様子を、エステリーゼはしばらく見守っていた。


 

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