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どちらかと言うと悪い魔法使いです  作者: 花音小坂
第3章 デルタ=ラプラス編
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安心して


 その戦況は明らかにシスたちが優勢だった。


「はぁ……はぁ……戻れ!」


 息絶え絶えに敵の魔法使いが叫ぶと、剣士と槍兵は一度下がる。


「……」


 アシュは考える。果たしてこの程度の実力で、この人数で、この大陸最強闇魔法使いと渡り合えると本気で考えているのかと。


「シス、そしてその他3人。一度こちらへ来なさい」


 明らかなひいきを隠しもせずに、ロリ魔法使いも生徒たちを引き戻す。


「ククク……貴様らは、もう終わりだ」


 剣士、槍兵、魔法使いは、それぞれ掌に小さな球体を乗せ、速やかにそれを飲む。


「魔薬か……それが君たちの隠し玉と言うわけか」


「出し惜しみせずに、全力で殺しとくべきだったな」


 剣士はニヤリと不敵な笑いを浮かべる。


「……君たち、ちょっとこちらへ来なさい」


 闇魔法使いは、シスとその他3人を、自分の近くに寄せる。


「先生……なんで……あっ」


 シスが言い終わる前に、注射器を無防備なくびれに打ち込む。非常に慣れた手つきでその他3人の首にも同様に。あまりにも予想の外にあり、なにが起きたかもわからず、生徒たちはバタリと倒れる。


「き、貴様……なにを……」


 思わず剣士は尋ねていた。敵から見ても、異様な光景。自分の味方を眠らせ、わざわざ己を不利に追い込むなど到底まともな発想ではない。


「いや、彼らに完璧で理想の教師像を壊してほしくないからね」


 ナルシスト魔法使いは、540度的違いな心配をしていた。


「……その余裕がいつまで続くかな?」


「心配していただかなくても結構だよ。もう、()()()()()()()()()


「……は?」


「さて、じゃあ始めようか」


「バカが……がっ!?」


「そう、動けないだろう?」


 笑いながら無防備に近づいていくアシュ。


 敵の3人は、力を入れようとしても身体が震えるのみだった。


「な、なにをした!?」


「闇魔法使いに影を見せてはいけないよ。特に僕のような大陸最高の魔法使いにはね。まあ、君たちに助言はもう必要ないかな。もう、僕に命を差し出しているんだから」


 生徒たちとの戦いに夢中になっている間、すでに魔法はかけ終わっていた。思ったよりも生徒たちが善戦し、敵の気がそちらに集中していたので、至極簡単な作業だった。


 敵は必死にもがき、金縛りを解こうと試みるが、彼らには指一本すら動かすことはできない。闇魔法使いの言う通り、もう、勝負はついていた。


「……ブフッ!? ……フハハハハハ……フハハハハハハハハ! こ、滑稽だな? 滑稽だよ! 満を持して秘密兵器を見せようと粋がったのに……ブフッ! 『全力で殺しとくべきだったな』……いや、『全力で殺しとくべきだったナ―!』だったかな。『全力で殺しとくべきだったナ―!』『全力で殺しとくべきだったナ―!』フフフフフハハハハハ……フフフ……フハハハハハ……フハハハハハ!」


 敵のをペシペシ叩きながら、屈辱に塗れた敵を愚弄するキチガイ魔法使い。どうやら、なにかのツボにはまったようだ。


「うがああああああっ! 動け動け動け――――!」


 敵は身体を必死にもがくが、もう遅い。


 彼らはアシュ=ダールを軽視し過ぎた。初めから魔薬を飲み、()()()()()()()()()()()だったのだ。


「……フハハッ……はぁー……さて、いつまでも笑っているわけにはいかないな」


<<愚者の咎を暴く 闇具を我に>>ーー死霊の鎌(デス・ゲーズ)


 闇魔法使いが唱えると、影から数々の不気味な道具が出現した。


「な、なんだそれは……」


 薄々どんな用途のモノか気づいていながら、剣士は聞かずにはおれなかった。


「なに。その魔薬がどのような効果をもたらすか知りたいのさ……君たちの身体でね」


 そう言って、不穏な鋭利さを持つ刃物を、禍々しき道具箱から取り出す。それは、アシュが人体解剖を行う時の手術道具だった。


 闇魔法使いは容赦なく剣士の腹を突き刺す。


「ぎゃあああああああああ」


 そのまま腕を腹の中に這わせ、小さな球体のモノを取り出した。


「大分溶けてしまっているが……ギリギリサンプルとしては検出可能かな」


 血に塗れた魔薬を袋にしまい、次に刃物で剣士の身体を何度も何度も突き刺す。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」 


「ふむ……136デベルか。痛みもある程度緩和されるね。気になるのは、動体視力だな」


 そうブツブツ言いながら、眼球を長い指でくり抜く。


「うぐおあ゛ぁあぎゃごあ゛い゛い゛ぉ゛」


「……もう痛みのデータは取ったから喘ぎ声は必要ないな。不快だよ」


 ため息をつき、剣士の口を魔法で塞ぐ。


「た、助けてくれ! お願いだ、なんでもする! なんでも白状する」


 拷問の光景を眺め、恐怖に駆られた槍兵が涙ながらに叫ぶ。


「いや、いいよ」


「……は?」


「君たちのような捨て駒に大した情報をもっているとは思わないな……ふむ、やはり動体視力も格段に上がっている……素晴らしいな」


 闇魔法使いは少年のような瞳の輝きを見せる。


「そんな! 助けてください! できることなら、なんでもする! なんでもするから……お願いだ!」


「命乞いか……耳障りだな。人の命を問答無用で狙ってきたくせに。もう、君も話さなくていいよ」


 槍兵の口も塞ぐ。


「……どうか……どうか……ご慈悲を……神よ……」


 敵の魔法使いは、生まれて初めて、心からの祈りを捧げる。


「ふっ……神か。僕は身も心も神に捧げながら、それでも報われることなかった者を見てきたよ。そんな神が、君なんかを救うとは到底思えないな」


「そんな……どうか……命だけは……」


「その点は、安心してくれ」


 満面の笑みを浮かべる闇魔法使い。


「ほ、本当……ですか!?」


「君の命が尽きる頃には、死ねることを感謝するだろうからね」


「い、いやだ―――――――――――……」


「さて、君の魔力も測定しよう……もし、同じ魔薬を数個持っているようなら何個飲んでも副作用がないか――」


              ・・・














 最初に目覚めたのは、シスだった。


「せ、先生! 敵はどこですか?」


「ああ……僕に恐れをなして逃げ出したよ」


 アシュは優しい表情でシスの頭を撫でた。


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