表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どちらかと言うと悪い魔法使いです  作者: 花音小坂
第3章 デルタ=ラプラス編
127/452

探索


 ミラと36名の生徒たちは、険しい山を歩く。2つのグループに別れたのに、なぜか9割の負担を請け負う身となった有能執事。そして、なんだかんだ、テンションの高い生徒たち。普段、山になんか登る機会のない彼らは、性悪魔法使いの言う通り、この刺激的な遠足を満喫していた。


「わぁ、変わったお花。綺麗ー、うふふ」


 生徒のサーシャ=コーエンが、一輪の花の前に止まり、触ろうとする。彼女は、『綺麗ー』とか言っときながら、自分が一番綺麗だと密かに自負する、王女系ブリっ子である。


「いけません!」


 ミラが素早くサーシャの手を叩いた。


「いったぁい! なにするんですか!? 私、親からもぶたれたことないんですよ!」


 綺麗なお花さんと並ぶ、もっと綺麗な私を、みんなに見て欲しかったのにと、箱入り王女系ブリっ子はご立腹だ。


 するとミラは、地面の石をその花に投げる。


 瞬間、それは獰猛な虫の顔に変態し、その石をガブリ。


「ひっ……」


 青ざめた表情を浮べるサーシャ。


「カナラテと言う花に擬態した魔虫です。襲ってくることはありませんが、触れたら腕はないと思ってください。ちなみに私は腕がなければ治療できませんので」


「……」


 ドン引き。


 生徒一同、ドン引きである。


「カナラテのような危険な魔虫、即死系の魔草などをまとめたノートがありますのでお配りいたします。これらは、私の治療魔法でも困難ですのでなるべく触れないことをお勧めします」


 絶対触れるものか、気迫みなぎる生徒一同は、彼女から配られたノートを、食い入るように見つめる。


 そんな中、そもそも探索ミッションに乗り気ではない生徒の不満が噴出する。


「ああ、なんだって俺たちが魔草なんて探さなきゃいけないんだか」


 そうつぶやくのはトーマス=リスト。上位貴族の1人息子で、金など腐るほど持っているお坊っちゃま貴族である。彼のようなお金持ちは、アシュの提示する報酬などに興味はない。


「トーマス様、私は必死にピエトラ草を探すことをお勧めいたします」


「でもさ、なんのために?」


 このお坊っちゃま貴族は根っからのインドア派である。できることならば、隠れ趣味である人形遊びに興じていたい。


「帰るためです」


「えっ?」


 お坊っちゃま貴族だけでなく、生徒一同がミラの方を振り向く。


「ピエトラ草を探さないと、帰れません。一生」


「……ははっ、またまた。ミラさんは表情変えないから冗談かどうかわからないよ」


「冗談ではございません」


「そ、そんなの無理に決まってるでしょ。親だって、学校側だってそんなこと許さないだろうし」


「そう言う人なんです。アシュ様という人は」


「……」


 有能執事の一言に、恐ろしいまでの説得力を感じる生徒一同。その言葉を受け、全員が必死に、探索ミッションを遂行し始める。


 しかし、ただ1人、ブツブツと独り言をつぶやいている美少女がいた。リリー=シュバルツである。


「……なんなのよ。いったいなんだって言うのよ」


 目覚めた時には、すでに生徒間の意思決定がされており反対する機会がなかった。本来ならば、いろいろと性悪魔法使いに反論したかった生粋レジスタンス美少女。


「リリー様、どうかお許しください」


 そんな彼女の不満を察して、深々と頭をさげる有能執事。


「い、いえ! ミラさんが悪いんじゃないんです。全部あの最低教師が悪いんですから」


「……いえ、アシュ様の命令に逆らうことができない私のせいです。私が人形だから」


「ミラさん……」


「それに、アシュ様がピエトラ草を探す目的も、私のせいなんです」


「……どういうことですか?」


「あの方は私に喜怒哀楽の感情をつけさせようとしてくれています。私が無表情で面白くないから」


「……そんなの! あいつの勝手じゃないですか。あいつが勝手にやってるだけの話です」


「でも……私もなんです。リリー様やシス様、そして他の生徒方が泣いたり、笑ったり、怒ったり、泣いたりしているのを見て……私も思ってしまったんです。ああ、羨ましいな、と。だから、私のせいなんです」


 無表情の人形は淡々とつぶやく。


 リリーはしばらく黙ってたが、やがて彼女の両肩に手を置き、深緑色の瞳でジッと見つめる。


「………ミラさん!」


「はい」


「まず1つ。今回のことはあなたのせいではありません」


「でも――」


「2つ。あの最低教師があなたになんて言っているか知りませんが、あなたは最高に素晴らしい女性です。綺麗で、有能で、優しくて。あなたは、あんな人のために変わる必要なんて、これっぽっちぽない」


「……」


「3つ目。でも……あなたは今でも素晴らしい女性だけれど。そんなあなたが変わりたいと思っているのなら、私は全力でサポートします。他でもないあなたのために」


「リリー様……」


「さて、ヤル気出た! 絶対見つけてやるんだから」


 そう己を鼓舞して、リリーは一心不乱にピエトラ草を探し始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ