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どちらかと言うと悪い魔法使いです  作者: 花音小坂
第3章 デルタ=ラプラス編
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デート


 ホグナー魔法学校西館の最奥、2年次特別クラスの教室。大きなホワイトボードと使い古された教壇の前で、教師アシュ=ダールは声高々と160年前に起きた『シロッサ荒野の戦い』の講義を行っていた。


 この歴史的戦争に不老魔法使いが関わっていたこともあり、その臨場感たるや壮絶なものである。生徒全員が、瞬きすることもなく、息を飲むことすら惜しみ、彼の授業に聞き入っていた。


「そこで、将軍マハーラヤ=ダガーは――っと! もう、時間か。今日はここまでにしよう」


 !?


 中断。圧倒的途中での中断である。ちょうどクライマックスをぶった切り、早々に帰り支度をする自己中心的魔法使い。


「ちょっ……ちょっと! まだ、30分残ってるでしょう? なにをどう判断して授業を終わらせるんですか!?」


 いつも通り噛みつくのは、リリー=シュバルツ。深緑色の瞳を爛々と輝かせ、金髪のポニーテールを上下に揺らしながら訴える。


「ふふ……聞きたいか?」


 意味深な笑みを浮かべる性悪魔法使い。


「……心底どうでもいいです! そんなことより、マハーラヤ将軍はどうなったんですか!? サルヴィア王女とどうなったんですか!? ジレニーオ王子との三角関係は!?」


 勤勉美少女は、ドラマチックかつ乙女チックな歴史的展開に夢中である。


「……デートだよ」


 リリーの訴えを華麗にスルーして堂々と宣言する性悪魔法使い。


 !?


 生徒全員の頭に再び『!?』マークが浮かんだ。


「どんな人ですか?」「綺麗ですか?」「何歳ぐらいの人ですか?」「そんなことより授業しなさいよ!」「どこでやるんですか?」「何時にデートするんですか?」


 一斉に矢のような質問が(一部リリーからの文句が)飛び交う。それを注目されていると捉え満足げにふんぞり返るナルシスト魔法使い。


「まあ、絶世の美女とだけ言っておこうか」


「だ、だ、だからって! 授業放棄するなんて、あなたは教師と言う仕事をなんだと思ってるんですか!?」


 リリーの頭には怒りマークがすでに2つほど浮かんでいる。


「ふっ……恋愛はすべての物事より優先される。だから、恋に()()()というのだ……『レレーナ=ドリーノ』」


 窓から遠くをうっとりと見つめるナルシスト魔法使い。


「……ばっかじゃないの」


 不機嫌そうに吐き捨てるリリー。


「恋愛にまったく縁のない無粋少女にはわからないだろうね」


「なっ、なっ、なんですって!?」


「推理しようか? 君くらいの容姿ならば普通はアプローチしてくる男子など山ほどいるはずさ。しかし、実際にそんな気配もない。それは、君の勝気すぎるその態度。反抗的かつ攻撃的な人間性がそうさせているんだ。君の圧倒的な性格の難儀さが、可愛らしい容姿を遥かに上回ってるんだ。もはや、滑稽を通り越して哀れだよ。哀れ」


 好き放題、言いたい放題の性悪魔法使い。


「……」


 突然、リリーは下を向いて沈黙した。


「なんだい? 僕の指摘通りおしとやかな性格になろうとでも? まあ、そうした方が正解だ――」


<<聖獣よ 闇獣よ 双壁をなし――>>


「!?」


 聖闇魔法。万物を破壊せしめる最高峰の魔法を唱え始めるリリー。


「リ、リリー!? 落ち着いて! 教室が粉々になっちゃうよー」


 慌てて彼女を羽交い絞めして止めるのは、シス=クローゼ。その一点の曇りもない湖の色を映し出したような藍色のロングヘアがリリーを抑えるために左右に揺れる。


「放して―! あいつを殺すのー! 粉々にするのー!」


「ふぅ……これ以上は、ここにいない方がいいようだね。では、ごきげんよう。明日は少し遅刻してくるかもしれないけどね」


 そう言いながら、アシュは意気揚々と去って行く。


「この最低魔法使い――――――! 待ちなさ――――――――――い!」


 リリーの叫び声がホグナー魔法学校中に鳴り響いた。


 一方、廊下を足早に歩く性悪魔法使い。


「ああ……あの生意気少女のおかげで準備する時間が少なくなってしまったな」


「完璧に完全に圧倒的にアシュ様が悪いと思いますし、デートまであと3時間ありますから全然余裕かと思いますが」


 執事のミラが淡々と進言する。


「さすがは無粋な人形だね。いいかい? デートには完璧な下準備が必要不可欠なのだ。僕はこのデートのために2カ月間完璧なプランを立てていたんだよ」


 ナルシスト魔法使いはそう自信をのぞかせる。


「……先ほどのアシュ様の言葉を借りるならば。いつも完璧にデートの下準備をしながら、限りなく100%の確率でフラれるのは、あなたの最悪な性格がそうさせるのではないかと」


 そんなミラの指摘にアシュ、思う。


 今日も彼女のブラックジョークは冴えてるな、と。


「今夜はディナーの準備は必要ないよ……わかるだろ?」


 そんなアシュの問いかけにミラ、思う。


 なんなのこいつ超気持ち悪い、と。


「行ってらっしゃいませ」


 これ以上なにを言っても無駄だと判断した彼女は、深々とお辞儀をして送り出す。


「ああ! 天気すらも僕と彼女を祝福してくれているようではないか」


「……これ以上ないくらいのドシャ降りですが」


 ミラの指摘を気にせず、ご機嫌そうに悠々とアシュは歩き去って行った。


           ・・・


 二時間後、首都ジーゼマクシリア中央広場噴水前に到着した。
















 結果、女性は、来なかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 第2章も最高でした!! 最初ミラの性格が全然違ったので「あれ?」と思っていたのですが、最後まで読むと全てが繋がっていて、いろんな意味で感動しました! 戦闘シーンも相変わらず迫力満点です! と…
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