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どちらかと言うと悪い魔法使いです  作者: 花音小坂
第2章 ミラ=エストハイム編
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最終決戦

 


 残ったのはライーザ王。


「……」


「気に入らないね。頼みの四聖は葬った。君はもっと怯え、慄き、泣き叫んでもいいはずだ」


 そう言いながら、アシュは一つの可能性について考えていた。その様子には一片の恐怖もない。まるで、勝利を確信しているかのような。


「ヘーゼン先生はやはり、凄いな」


 ライーザ王がつぶやく。


「……なにを言っている?」


 四聖はすでにもういない。周りの兵はみんな我先にと金を貪っている。ヘーゼンの目論見は全て水泡に帰したはずであり、少なくとも、死から逃れる要素は一つもないはずだ。


 なのに……


<<邪悪なる魔よ 真なる恐怖と共に 亡者を 奈落に つかせ>>


 ライーザ王の言葉は、深く響き、指先で精製した五芒星の魔方陣は、美しい線を描いた。


 黒い光が地面から放たれ、巨大かつ不気味な道化が。漆黒の身体ながら、白塗りの顔に派手な服装。一見可愛らしい化粧を施した姿。それは、酷く禍々しく映る。


「……ロキエル」


 闇魔法使いは身震いをせざるを得なかった。


 怪悪魔ロキエル。中位の悪魔で、ヘーゼン=ハイムが唯一召喚に成功したと言われる。その強さは主天使(別名戦天使)リアリュリブランに次ぐもので、アシュが召喚したベリアス、オリヴィエより高位の悪魔である。


「過剰だと思っていた。元よりこの戦。四聖すらいなくても勝利をもたらせると。しかし、ヘーゼン先生はここまでの脅威がいずれ来るものだと。本能的にそう思っていたのかな」


 かつて単騎で小国を滅ぼした悪魔を、ヘーゼン=ハイムはライーザ王に譲渡した。それは、自らの片腕を差し出したに等しい行為である。


「……余裕だね。ロキエルがいれば、僕に勝てるとでも?」


 そう言いながら。闇魔法使いは必死に勝利までの糸を手繰り寄せようと思考する。が、どの案も勝算は薄い。


 想定外だったことは、ライーザ王の魔法使いとしての素質。彼のそれが、四聖よりも遥かに上だったこと。怪悪魔をコントロールするには膨大な魔力と意志が必要である。ヘーゼン=ハイムが、それを譲渡したというとは、操れる確信があるからだ。


「しかし、私にはわからないな」


「なにが?」


 受け答えをしながら、アシュの脳は思考する。勝利までの道筋を必死に算段する。それまでは、不毛な会話を続けてもいい。


「なぜ、ここまでこの戦に固執する? 今や絶体絶命のピンチだ。それでも、貴様には逃げる様子が毛頭見られない」


「簡単な話だよ。ここまでに払った代償が大きいからね……まあ、強いて言うのなら、あくまで二次的な理由もほんの少しだけはある」


「……それは?」


「少し前の舞踏会を覚えているかい?」


「舞踏会? ああ」


「君は、彼女を追わなかった。それが理由さ」


「……どういうことだ?」


「逆に聞いてもいいかい? なぜ、あの時、彼女を追わなかった? 僕の見たところによると、君は少なからず彼女に心を奪われていたように見えたがね」


「……これから大陸を統一しようという男が、目の前の女性にうつつを抜かせと? 彼女が平民だと分かった時点で、少なくとも追う理由はなくなった」


 自ら心の問題ではない。どれほど彼女を想っていたとしても、平民の伴侶を持つ王などあり得ない。その時は、何度もそう言い聞かせた。


「そうか……だからかな」


「……そのことと、何の関係がある?」


「もし、君が彼女を追っていたら、もしかしたら未来が変わっていたかもしれない。おとぎ話の物語のように、君が彼女を追ってさえいたら」


「……」


「しかし、君はしなかった」


「……私には大陸を統一し、世界の人々を救うという責務がある」


「そう……世界の人々()()のためにね」


 闇魔法使いは、大きく目を見開き、首を傾げる。


「……」


「僕は命の価値は平等だと思っていない。世界は平等にはできていないのだから。世界中の見知らぬ、ゴミの如き命のために、一人の心奪われた女性を見捨てるとは。紳士である僕にはそれが許せなかった」


「……」


「だから、僕は君の全てを否定する。君が為そうとしていた大陸統一の野望も、世界中の見知らぬ人々を救おうという夢想も、僕が粉々に打ち砕いてみせる! まあ、あくまで二次的な理由だがね」


 戦略は固まった。


 闇魔法使いは、詠唱を始める。


「ならば、私も全力で君を否定しよう。未来の世界のために」


「……さあ、最終決戦と行こうか」


 アシュは歪んだ表情で笑った。




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