表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どちらかと言うと悪い魔法使いです  作者: 花音小坂
第2章 ミラ=エストハイム編
105/452

激闘


 魔法使い同士の戦いは、遠隔戦である。属性、詠唱チャントシール。さまざまな要素で優劣は決まる。リザルドは自身の得意な属性を持つ火系極大魔法で。アシュは、優位属性を持つ水系極大魔法で。


 それは、まったくの互角であった。基本的に優位属性では、勝てなければならない。それで勝てないということは、ジャンケンをしてパーを出してもグーに勝てないことと同義だ。


 瞬時にそのことを悟り、アシュの額には一筋の汗が、リザルドの表情には笑みが漏れる。


「こんなものだったかな……史上最悪の闇魔法使いは」


 勝ち誇ったように。そして間髪入れずに詠唱に入る。


「……炎の属性の一辺倒が、でかい口を叩く」


 アシュは反射的に負け惜しみを吐くが、それが完全に誤りであることは自身が一番わかっていた。リザルドは、ただ唯一炎のみを鍛え上げていきた。誰にも負けぬほどの炎を。絶対零度すら瞬時に溶かすほどの熱を。


<<炎の徴よ その偉大なる姿を 愚かなる者に 示せ>>ーー炎の印(ファイア・スターク)


 多彩にも。リザルドの周りから幾多もの炎をが発生し、闇魔法使いへと襲いかかる。


「うおおおおおおおおおおっ……」


 逃げ惑って躱すが、数発は直撃した。アシュの左前脇腹と右腕が焼けただれる。


「くっ……」


 すぐに水属性の魔法で炎を消すが、火傷による傷の痛みは消えない。


「ふっ……貴様が弱くなったのか……俺が強くなりすぎてしまったのか」


「……ふっ」


 勝ち誇った様子で、せせら笑うリザルドに対し、アシュもまた対抗してせせら笑う。


 その笑いには、まったく意味はない。


「俺の炎魔法のレベルはヘーゼン先生ともはや同等だ。お前などにはこの炎は消すことはできない」


「……」


<<風よ 列氷を 愚者に 浴びせ>>ーー嵐の激動(ルナ・ジール)


「ははは……無駄無駄無駄」


<<大炎よ 全ての猛威を 焼き尽くせ>>ーー猛炎の死骨(ガナール・ドゥーマ)


 アシュの放った二属性魔法を、リザルドは炎の魔法壁で弾き飛ばした。


「……くっ」


「多属性魔法とは……そんな小細工ばかりするから貴様は駄目なんだ!」


<<灼熱よ 大地すら燃やす 炎となれ>>ーー蓋熱の焼忌(ガイヌ・ラグー)


<<大地よ 氷雪よ 鋼鉄よ脅威を 退く盾とならん>>ーー三妖精の列陣(シーリー・ルナ)


 アシュの張った魔法壁は、炎に飲み込まれ、熱風の一部が身体を覆う。


「……ぐおおおおおおっ」


 焼けるほどの痛みを抑えるために。闇魔法使いは大きく咆哮をあげる。


「二属性を三属性にしようが無駄だ! 純粋なる力はどれだけ小細工しようと常にそれを上回る」


「……くっ」


「そろそろ終わりにしようか。哀れな闇魔法使い!」


<<炎よ 千の弾をもって 敵を滅せ>>ーー炎熱の舞踏(フレイム・ダンス)


 再び極大魔法が放たれた。それも、先ほどよりも強力な炎を。


<<雹雪よ嵐となりて大地と――


「フハハ……三属性魔法など無駄だと言ってるだろうが!」


――鋼鉄の力となれ>>ーー蒼天の誓い(セナード・ストライク)


 リザルドから放たれた炎は、アシュの放った魔法に阻まれ、相殺された。


「……よ、四属性魔法」


 闇魔法使いはニヤリと笑う。


「本格的な実践は8年ぶりでね。少々肩慣らしをさせてもらった」


「……」


 リザルドの顔が一気に引きつる。


「君は、少々炎が得意な程度で、僕に生意気な口を聞いていたが。僕に言わせれば凡人の言い訳だな」


「なっ……なんだと……」


「そうだろう? 一属性を極めてはしゃいで。ヘーゼン先生と同等の炎だと誇って見せて。そんなことだから、貴様ら四聖はライオールにも相手にされないのだ」


「き、貴様ぁ!」


「おや、事実を言われて悔しいのかね?」


「……殺す」


「純粋な魔法が強い? 僕から言わせれば、君は伝統に縛られて進化することを恐れた臆病者さ」


 リザルドはヘーゼンの魔法力を崇拝しているが、アシュは彼の挑戦心と独創性に敬意を評する。聖闇魔法は、この世界の魔法の可能性を広げた革新的かつ最強の魔法である。それを、ヘーゼンの魔法力に目を奪われて、ただ追いつこうともがく愚か者を、アシュは嘲笑う。


「調子にのるなーーーーー!」


<<絶炎よ 限界を超え 灼熱すら 焼き尽くせ>>ーー炎帝の一撃(イルヴァム・ドレイ)


 まだ、負けたわけではない。自身最強の極大魔法を放ち、勝負をかける。


<<絶対零度の鋼鉄よ木々を生み出す大地よーー


「貴様の四属性魔法など燃やし尽くしてやる」


 リザルドの言葉通りに。彼の炎は、アシュを呑み込み、ひたすら燃え続ける。


「フハハハハ……どうだ、俺の炎はっ! フハハハハ、フハハハハハハハハハ……」


「何がおかしいのかな?」


 炎の中から。闇魔法使いの低い声が響く。


「そ、そんな馬鹿な……」


 怯えた様子で。リザルドは、数歩後退りする。


「ククク……君のおかげで魔法力を節約できたよ。五属性魔法はかなり持っていかれるからね」


 アシュを包んでいた炎はみるみるうちに収束し、彼の掌に収まる。


「あが……あがががが……」


「君があまりにバカすぎて助かったよ。何度も何度も僕に炎の魔法を見せて。まるで利用してくれと言ってるかのようだったね……」


 アシュは全ての魔法を収束させ、凄まじいエネルギーを発する光球を作り出す。


「ひっ……」


「はぁ。本当に君はヘーゼン先生の弟子かい? あまりに、育ってなくて泣けてくるね……醜い顔は見るに耐えない……死ね」


知なき愚者に煉獄の炎を>>ーー五星の悪虐(シルガ・ディライ)


 それは、


 一瞬にして、リザルドの存在を打ち消した。


「さぁ、次だね」


 闇魔法使いは、不敵に笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ