出会い
ベルが鳴り響く。
生徒たちが、昨日のラグビーであいつがズルをしたとか、課題をやるのを忘れたとか他愛のない会話をしながら教室へ入ってきた。
「みなさん、お静かに。」
この学校で唯一若い女性の教師であるアダリンドが叫ぶと、生徒の数人は冷やかしの言葉を投げかけた。
「はいそこ、静かに!さあさあ早く席に着いて。今日は転入生を紹介します。ジョン、ヒソヒソ話はやめてちょうだい。」
そういってクラス一のお調子者ジョンの方をキッと睨みつける。が、年齢の割に幼く見える顔立ちと可愛らしい容貌のせいで全く怖く見えない。
これはナメられるわけだ、とエリアスは思った。
「えー、もう一度いうけどみなさんに転校生を紹介します。彼はフランスからやってきたの。御両親の仕事の関係で転校が多いそうよ。またすぐ転校になる可能性が高いそうだけど…今回は転入試験を受けて、素晴らしい成績でAクラスになったわ。さあ入って、レスター。」
教室のドアがガラリと開いた瞬間、生徒たちが静まり返った。
スラリとした脚が見えた。
そのレスターという人物はゆったりとした歩調で教室へ入ってくる。
少し長めの漆黒の髪がふわりと揺れ、肌はその色とは対照的すぎるほど真っ白だ。
青(いや緑か?)に見える瞳は光の当たり方でチラチラと変わる不思議な色をしていた。
背が高く、細いがしっかりとした体つきで、端正な顔立ちの少年にクラスがざわめいた。
エリアスは必死で正しい表現を探した。
絵本に出てくる王子様というものが本当にあるとすれば、こんなふうなんだろうと思った。
ハンサムというには安すぎる、怖いほど整った顔立ちだった。
「レスター・ベレスフォードです。よろしく。」
凛とした声でその少年は言った。
生徒たちは、おいすげえな、貴族か何かか?、などと口々に話していた。
「そうねえ、ちょうどエリアスの隣の席が空いているから彼の横に座ってもらえるかしら。ええそうよ、あの金髪の子。彼はとても優秀だからちょうどいいわ、色々とわからないことは彼に聞いてちょうだい。」
先生はレスターに愛想よくニッコリと微笑んで言った。
ハンサムなレスターはさっそく先生のお気に入りのようだ。
つかつかと自分の方に向かってくるレスターにぼーっと見惚れていたエリアスは「いい?」と声をかけられてはっとした。
「へっ?あ、うん。」
レスターは小さく微笑んで隣に座った。
「よろしく。」
そう言う彼と目が合った時、何か不思議な感覚がエリアスの中に広がった。
彼の瞳は青だった。
紺碧とも緑青ともいえるその不思議なブルーの瞳。
引き付けられるような力を感じた。
「よ、よろしく。」
すっと差し出した彼の手から、一瞬何かの香りがした。
なぜだろう?
僕はこの香りを知っている。
と同時に妙な胸騒ぎを感じた。
わけもなく、不安な気持ちになる。
でも思い出せずに、一瞬のことでさほど気に留めずに、エリアスはその手を握った。
「僕はエリアス・ギルバート」
運命の歯車はすでに、動き出していた。