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火の国の魔王

和の国から、火の国に渡ったタイチ達は、フタバの約束を果たすため。美しい女性ばかりが沢山暮らす。魔族の国に辿り着いた。

プロローグ




赤髪の魔族ジャック・オーラタンが支配する魔族の国、火の国と呼ばれる国には。天気がよいと、各国からも見える島の中央にある山頂に。巨大な城を造らせていた。眼下には、雅な町並みが広がっていた。火鳥のかとりのしろ別名不死鳥城の天守閣には、巨大な火の鳥を型どった紋様があった。火鳥紋かちょうもんと呼ばれる身印。魔王の得意とする力。この場合なら物理的な炎と、鳥を操り変じる力を意味していた。




諸島国には、魔法とは違う符術と呼ばれる技術があった。それは力ある魔族から。余りある力の一部。魔族の身印から力を借りて、札に紋様を描くことで、魔族の力の一部を紋様術、符術として、使うことが出来るようになっていた。しかし元々魔族にとって。他人から力を借りると言う概念はない。ただ己の身分を示す物として。紋様を用いていた。

「此方でしたか、あなた」

耳打に。消え行く波ものような柔らかな声がした。振り替えるとやはり、いつの間にかシターニアが天守閣に来ていたようだ。相変わらず美しく淡い青色の髪は、魔族でも珍しく。まるで波打つように風に遊ばせ揺れていた。手足は長くほっそりしてるくせに胸は豊かで、動きが晴れた日の草原のように、軽やかであった。

「どうしたシターニア?、何か急用か」海を眺めていた目を妻に戻した。

「はい。先ほどオオクボ様から急使がありましたわ。あの子が向かったと」わざと何でもないように言うから、聞き逃す所である。しかし徐々に脳髄に染み込んでくと。とたんに悪戯子のような顔に。愉しげな笑みが広がっていた。

「おお~!、そうか……フタバが……」それは楽しみだと。背からウキウキした気持ちを感じ取り。思わず笑みを深めた。

再び海を見た夫と並び。シターニアもフタバの気配を探して、

「これは……」

驚き、目をまるくした。夫も気付いたようだ。強い力を持った者がフタバの周りにいた。1人は知っていたキヌエである。二人が凄まじく強く成長したことに驚いたが……。

気になったのは、二人以上の実力者がいること。中には。上位魔族と遜色ない力を有する者が少なくとも三人いた……。(この力は……、間違いなくリドラニア王の縁者)

しかしもう1人は明らかに違う、その者は……大地の竜の加護を与えられる程の勇者であった。魔王に連なる力を持ったシターニアだからこそ違いに気が付いた。

「ほ~う、あいつめ。こんな面白そうな友人に恵まれたか♪」

実に楽しそうでいて、好戦的に笑っていた。



諸島国を巡る。雅な三日月の船が、半島内湾に走る。無数の船を避けながら。波に逆らい北上していくと……。やがて、内湾に到着した。

「うわあ~可愛い船が沢山あるよタイチ♪」

見目楽しく。カラフルな1人乗り小型帆船が、沢山砂浜に並んでいた。

「ああ~。あれは競技の1人乗りの船でヨットっと言ってな、帆を操ると僅かな風でも、早く走れる特別な船さ。もっともかなり難しいから。諸島国でも。火の国だけ流行ってる競技なんだけどね」

口火を切ったフタバが、懐かしそうに目を細めた。

「あれ。私は苦手だよ。でもフタバは得意だったよね~」

「まあな、ジャックさんに散々しごかれたからな……」

懐かしい思い出である。



火の国は別名。雅の国と呼ばれていて。高い建物がほとんどないのだが、民総出で行う季節ごとのイベントが盛りだくさんである。何より王が派手好きな魔王ジャックの性格が反映されていて。夏は花火・夜祭り、秋は収穫祭・芋煮会、民と一つになって遊びまくるのが定番であった。



キヌエは火の国四大祭の中でも。冬の星見祭りが大好きだった。手もかじかむ寒いなか、息を白くしながら。美しい星々を見上げ、ハフハフと食べるお汁粉が、もう最高なのだ。

「この先にある。桟橋から石の国か呉の国行きの海遊船が出てるんだけど。でもジャックさんの許しがないと。船には乗れないねきっと……」

「じゃ行こうぜ、魔族の王、魔王様に会いにさ」

何時ものように。気楽に言って、みんなの気持ちを軽くしてくれるコウは、やっぱり頼れるリーダーだった。



「お城は大通りから一本道だから迷わないんだけど。みんな気を付けて、魔族の女の子って好戦的だから」敢えてもうひとつ注意してよいか、キヌエは迷う、コウ達に気付いた民の多くが、興味ある眼差しを向けていた。別段騒ぎたてるつもりもないようだ。

「あれ……」リナが不思議そうな顔をしていた。気になったタイチが、問う視線を向けていた。

「え~とねタイチ。この国やけに女の人が多いな~って。思ったの」

リナに言われて、なるほど……。

確かに、通りにいる魔族は女性ばかりだった。青白い肌、黒、赤髪のそれも息を飲むような美女ばかりである。

「よく気付いたね」感心した声を出してキヌエが、魔族について簡単な注意を話してくれた。



魔族は女性の比率が非常に多く。古代の民と変わらぬ長き生を与えられた種族である。

元来そうなのか、男よりも女性の方が、生命力が強い、悪いことは重なる。この数年女の子ばかり増えてるらしい。その為男の魔族は希少であり、強い男の魔族ほど。多くの妻をめとることが許されてると。

「ふ~んそうなんだ。なんだか大変そう~」

察したリナは色々な意味で呟いていた。



物珍しい異国の人間が、火の国にやって来た。楽しいこと大好きな国民性、こぞって見物に出ていた。諸島国の中でもきらびやかな衣装を好む。火の国の魔族達。その中袖の無い着物を。上半身だけ羽織り、まるで上着のように着ていた女の子の胸元から、鎖帷子が覗いていた。下は対照的に地味な黒い半ズボンのような物を履いていて、素足に革の防具を着けてる少女コウサキ・マヤは、驚いたように眼を瞬き。食い入るように。異国の少年少女達を見ていた。その内三人の人間に注目していた。異国には……これ程の男の実力者がいるのかと。愕然としていた。

「あら?、あの子、フタバとキヌエじゃない。しばらく見なかったと思ったら。随分腕を上げたようね」

魔拳長まけんちょう様、顔見知りですか?」

火の国軍団長の1人であるタルマは、マヤにとって憧れの戦士である。

「ええ~あの子はジャック様、シターニア様のお気に入りだったからね」

「なるほど……」魔王様方は、悪戯好きだと有名である。ジャック様は、見込みある人間の子供に、ちょっかいかけたくて仕方ない変わり者である。

「流石はジャック様だ、今なら分かる。私と遜色ない力を身につけて来たようだな」

「えっ……」

驚いていた。タルマ団長は部下に厳しいひとである。滅多に人間や部下を誉めないことで知られていた。側近扱いのマヤも拳士としては、最下級の魔拳まけんであるが、素質だけならタルマに比肩すると認められていて。そこはタルマも高く評価していた。しかし未だ実力は低い。それでもこの中ならタルマに次いで、相手の力量を図れる自信はあった。ただし武士や符術師のような気を読むこと苦手である。それゆえ細かい部分まで気付かないのだが……。

「マヤ多分貴女……、彼女が一番強いと思ったわよね?」

「無論ですお姉さま、どう見ても彼女の力は、我々よりも強く、上位魔族と遜色ないと思われます」

「ええそうね。誰もが認める才能だから。強いと思うわよね……。でもねあの少女が一番弱いわ」

「お姉さまいくらなんでも。そんなこと無いと思いますが……」

マヤには理解でかなかったようだ。

「でもねマヤ現実的に。一番強いのは、先頭を歩く少年だわよ。あの中で一番弱いのは、貴女が強いと思ってる。あの才能あるが、わざと発揮しない少女だな」

「えっ……」今度こそ意味が分からなかった……。魔族とて内に秘めた才能だけではないと知っていた。でも一種の目安として図れるし。頑張ればどれだけ強くなれると分かる。指針だ。確かにタルマ団長は、素質はなかった。今の力量を鍛練のみで身に付けた。努力の女である。そこだけは理解は出来たが、少女が纏う力はレベルが違う……、それなのに弱い?。それではまるで……。

「マヤ正解だ。あの少女は、自分が強くなることを望んでいない」

「……お姉様。私には信じられません」

「まあ~魔族なら。当然考えられぬ話だからな」

意味深な呟きを聞いても。マヤには到底理解出来ぬことだった。



━━でもこの時。リナが示した覚悟は、魔族の中にあるきっかけを与えた。それは魔族にはない概念『守られる喜び』である。それを教えたのは才能豊かな少女。リナ・シタイルだった。彼女は上位魔族から見たら。王に比肩するほどの力を纏っていた。恐らく人間ならば英雄と呼ばれる。稀有な存在だ。それほどの強い力を持ちながら、あくまでも恋に生きる。普通の少女として、恋人の側で、守れたいと願う女心。いっそ潔い覚悟に魅了された。



魔族とは強者に従う生き物だ。力なき者に、発言する資格はない。リナは魔族の世界なら間違いなく強者である。すなわち強者の発言である。

しかし少女は魔族では無い。そう切り捨てるには、火の国の魔族が純粋過ぎた。


魔王自ら城門を開き、どかり地べたに座り込むジャックは、胸の高鳴りを感じていた。魔族達はそもそもこの世界の民人ではない、異世界の住民であった。この世界の理とは違うロジックを持った存在。『放浪者』であり『間を覗く者』それが本質である。自身を高めまたは可能性を見るためならば、身を滅ぼすことい問わぬ者。またはそのような存在と邂逅かいこうすることこそが、望みであり自分と言う存在を。変えられる存在と出会うことこそ望む者。それこそが魔族であり。魔族の王。魔王と呼べないか?。切に確かめたい火の魔王は考えていた。何故魔族の王達が、この世界の人間にかまうか……、

それは一重に。人間が成長する生き物だと解ったから、そこに希望を見たからだ……、

そして……、結果の一つが間もなくやって来る。ジャックが思うに人間とは、遥かに強かな生き物のようだ。



そして……、その影響は予想以上強い。なんとも恐ろしく、なんと面白い存在なのか……。

悪竜ダークサイスがいなければ、もっと早く人間の大陸に攻め込んだもを。獰猛に笑っていた



突然城の天守閣にある火鳥紋かちょうもんが、輝きを強めた。それは魔族の王が戦いに挑むことを告げる印。民は強者の戦いをただ見つめ。結果を待っていた。それがそれこそが魔族の弱点である。理解しても変えるつもりはなかった。



ようやく見えた。強く成長したフタバ、キヌエ、そして……異国から来た少年少女達。改めて目を細め見る青年。男の顔をするようになったフタバ、毅然と決意を固めた顔、真一文字に唇を噛み締めていだが、

「ジャックさん!、今日こそあんたを倒すからな」

高らかに宣言するや。いきなり片刃の剣、刀を抜いて、ジャックに迫る。

「ほう~、随分思い切り良くなって……」

鋭いが直線的な攻撃。人間の武士が使う、基本の見慣れた斬撃である。

(期待し過ぎたか……)

失望を抱いた……、紋様を手のひらに宿し。攻撃を受け━━。



ゾクリ……。

手を伸ばし掛けた瞬間。猛烈な悪寒が走る。体が危機を感じて、咄嗟に避けていた。

「なっなに?」鋭い痛みを感じ見れば、手のひらがざっくり切り裂かれていた。赤眼を鋭く細めた。

「今確かに避けた筈だ」

斬撃が突然早くなった訳でもない。今の一撃だけではまるで分からなかった。確かに攻撃は避けたはず……。素早く頭を切り替え。次の攻撃に備える。頭の片隅に今のがまぐれかどうか見定めるため。しばらく回避に徹した。

(む……やはり凡庸な攻撃)

二度、三度目は拳打が織り込まれた和の技である。避けるのも面倒で思わず受けたくなった。すると……やはり嫌な予感がして、避けていた。

「ちっ、」

すねに軽い痛みが走った。ジャックは魔族の王である。人間なんて問題にならぬほど。強靭な肉体と回復力があった。普通の刀剣で傷付けることすら難しい。高い防御力を誇っていた。魔族のほとんどが素肌で人間の刀剣を防げるほどである。しかし諸島六ヵ国の武士は、難なく魔族に傷を付ける事が出来た。


和の国、呉の国、弐の国の武士は、刀気とうきと呼ばれる技術を磨き上げ、国ごとの技として昇華させている。和の国生まれのフタバは、まるで手足の延長の如く武器を振るい。体術を含めた武芸を得意に……、

そこまで考えが及んだ瞬間。はたと察する。すなわちこれもフタバが見付けた武。



ジャックは繰り出される凡庸な斬撃をかわしながら、注意深くフタバの動きを見ていた。服を着ている以上。筋肉の動きを見ることは出来ない。しかし手首、指の動き、視線を見ればそれと分かるはず……。上下の切り上げ、そこから下段蹴り、肘うち、体を捻ってからの斬撃、

『見えた!』

どうやら刀の攻撃だけ、見えない攻撃が付与されているようだ。そうなると痛みを伴うが、おのが肉体で受け、秘密を暴かなければならぬ……、魔族とは大層人間の創意工夫を暴くことが大好きである。魔王ジャック・オーランタンも例に漏れず。獰猛に微笑み決意する。まさかフタバが魔王の身を傷付けるまで育ったこと。誇りに思う。ジャックが身構えた瞬間。

「今、僕の攻撃を受けて、見えない攻撃の正体見極めようとなさいましたね?」

「……!?」

息を飲んで、ジャックはフタバを見ていた。何故か知らず知らず息を飲んでいた。何故かフタバの眼差しは恐ろしいほど静かだった。すると疑念が沸いた。

「そうだとして……、フタバそなたはどう答える。まさか秘密を教えてくれるのか?」

思わず訪ねていた。いくら和の国の武士であろうと、自分が磨いた武芸の技とその秘密は語るまい。魔族であるジャックはそう考えていた。

「はい、お教えしますよ。別に秘密にする必要もありませんし。ジャックさん貴方は既に僕に負けていますから、問題ありません」

「なっ、何だと?、我が既に負けているとな、聞き捨てならぬぞフタバ!」

猛烈な怒りを覚え。獲物を狙う獰猛な眼差しを向けていた。一瞬ジャックの身体から炎が舞い上がるような、錯覚を覚えた程だ。

「まだ分かりませんかジャックさん?、もしも僕の攻撃を受けていたら、貴方は死んでいたのですよ」

凍り付くジャックの顔。強張り戸惑いが浮かぶ。

「では説明をしましょう、僕の刀の柄に。三魔王のお一人フルル・レウクレール様の紋様を刻んでおります」

ハッと息を飲んでいた。魔王の紋様を刻む術のことは知っていた。しかしそれだけで……、そこでフタバの眼差しと今の言葉が繋がった。

「……成る程。武器に紋様をな」

ジャックと同列の魔王。風の国フルル・レウクレールは、風雷の紋様を掲げていた。 そうと分かれば、武器の斜線に入らなければ、空撃を受けまいが……。違和感。それだけならわざわざジャックを怒らせることはない。

(フルールの力は確か……。風の斬撃と雷の神速移動。それと裏の……)

ようやく理解したと同時に。雷の属性攻撃に気が付いた。風の斬撃なら知れば避けられた。ただし……ジャックは受けようとしたのだ。もしもそれが雷属性の攻撃だったら……、

「成長したなフタバ、クフ……クッククク、アハハハハハ見事!。見事なりフタバ今日の立ち会い。お前の勝ちとする!。誇るがよい、人間で初めて知と武で、不死鳥の魔王ジャックと呼ばれた我を負かしたはそなたが初めてだ!」

本当に嬉しかった。我が子の成長を見るように眼を細めていた。初めて人間が、子を思う気持ちが理解出来た。

「フタバ、今宵は付き合ってもらうぞ」

破面一笑していた。



三魔王の中でも。ジャック・オーラタンは、豪放伯楽な性格である。一度認めれば、実に快活で、竹を割ったようなさっぱりした人物であった。




フタバは天守閣の下に設えられてる。城下を一望出来る。天空風呂に連れられてジャックと二人で。湯につかっていた。

「どうよ~フタバ。絶景であろう」

自慢する言葉に偽りなし。壁の一部が硝子窓になっていて、両開きの窓を開けると。空を飛んでるような錯覚を与え。また眼下に広がる光景は、まさに天下を取った王ならではの楽しみであろう、

「はいジャックさん、これ程美しい光景は初めて見ました」

目を輝かせ、至福の時を許されたフタバは、魔王自ら体を洗ってやり、また自分の背を洗わせていた。魔族にとっても裸の付き合いは特別な物……。特に天空風呂は自分が認めた者しか、入ること許さない聖域である。

「そうであろう……、今宵お前が経験した出会い。そして……、お前の師について聞かせてくれ!?」

まるで、土産話を待ちわびる幼子のような、キラキラした眼差し。フタバはこの時ようやく。ジャックさんから一人前の男として、父に認められたような、爽快感を噛み締めていた。



そして……、時間が許す限りアレイ王国で出会った。師として尊敬する青年のこと。自分の我が儘に付き合ってくれた。異国の友人たちのこと。時間を忘れ話していた。



「さあ~キヌエ。こっちも着て見せなさい、おお~春の花を彩る着物がよく似合うぞ!」

「シターニア様これは……」次々と着せ替えられる色鮮やかな着物の数々、目を白黒させていると。

「なぁ~に、そなたが留学から戻ったら。祝いにプレゼントしようと作らせていたのだ」

「シターニア様……」艶やかな笑顔を見て、キヌエはシターニアに抱き付いていた。少し驚いた顔をしたが、シターニアはしっかり抱きしめて、キヌエの頭を優しく撫でていた。



その頃コウ達は、沢山の魔族に囲まれ。上に下にの歓待を受けていた。中でも力ある上位魔族の女達は、こぞってリナに興味津々であった。リナには分からなかったが、何やら敬意すら持たれるようなので戸惑っていると。さらに場が盛り上がっていた。



そんな中━━最年少のマヤが、コウの前につかつか歩いて行き、固めた拳を向けて、

「立ち会いを申し込みたい!」若さ故の蛮行。されど若い魔族の中には、期待する眼差しが多かった。



マヤは比較的若い魔族である。この世界しか知らない。でも自分の才能は知っていて、目の前の人間よりも強いと自負していた。だから先ほど姉と慕うタルマ団長の言葉が、どうしても納得出来なかったのだ。

「いいぜ、ちょうど俺も体が鈍りそうで、誰か付き合ってもらうつもりだったんだ。こっちから頼むよ」

にっこり笑うと。実に魅力的なコウの笑顔。魔族の拳士であるマヤは胸は、言い知れぬ高鳴りを覚えた。

(なっなんだ今のは……、こいつの攻撃か?)

恋を知らない魔族の女性は、案外うぶな人が多く。食い入るようにコウの笑顔を見て、赤くなっていた。

「わっ、私もいいか!」

様子を伺っていた。マヤの上司タルマまでが申し出ると。さらに数人が手を上げていた。魔族とは好戦的な種族である。まだ見ぬ強者と戦えるなら、おのが命すら投げ出す。生まれながらの戦士であった。



それからコウは、10人の魔族と手合わせして、マイト、レンタ、タイチに変わった。口火を切ったマヤは四人と手合わせし。結果━━誰にも。一度も勝てず。愕然としていた。何より許せないのがタイチと手合わせした時……、今のマヤの実力では絶対に勝てないと、思ってしまう。惨憺たる有り様で、悔しさに涙した。



再び宴会会場に戻った一同は。すっかり人間の客人を気に入っていた。そこで皆の国のことや、他にも強者について聞いていた。

「ほほ~うそなたの国には、伝説の竜騎士がおるのか!」

すっかりコウと意気投合したタルマは、アレイク王国。守護騎士と呼ばれるリブラ様の話に喰い付いた。魔族達は皆の話の中で。特に気に入ってくれたのが、中央大陸の英雄王子の物語だ、五人にとって王子が、兄のように思い。師として尊敬する人物だと聞いて、益々興味を抱いたようだ。特に若い魔族が気になったのが、学校についてである。

「人間とは面白い物だな、自分を越える強者をわざわざ自分で育てるのだからな……」

「ある側面からみればそうですね。そうそう人間の世界にも。魔王と呼ばれる方がおりますよ」

「おお知っておる。遥か昔。黒の民の魔王と会った事がある!」

懐かしそうに目を細めたタルマ。それを聞いたマイトは、

「タルマさんが言ってる方は……、もしかして前魔王ヒザン様のことでしょうか?」

「ん?、確かにヒザン様だが……、前魔王とな」戸惑いが浮かんでいた。しばらく考えたマイトは、

「少し……。長い話になりますが、よろしいですか?」

「それは構わぬ……、それでヒザン様はどうなさったのだ?」

まさか魔族が、前魔王ヒザン様を知っておられるとは、新鮮な驚きを噛みしめながら、西大陸で起こった。ある事件を話した。



「そうか……ヒザン様が、お亡くなりになられていたとは」目にこんもり涙を浮かべ、寂しげに呟いていた。

「今の魔王ピアンザ様は、ヒザン様の実子ですよ。黒の民も沢山おられ……。そうだタルマさん。三賢者の1人。ゼノン様は、確か前魔王ヒザン様の側近でした。ご存知では……」

「なっ何だと!、ゼノンが生きておるのか」

急に目の色変えて、気色ばむタルマに。目をしばたかせていたが、こくこく素直に頷き、自分の知ること話していた。

「えっ、はっはい。お会いしたことありませんが、僕達の師から、稀代の賢者だと聞いております」

途端に暗雲が晴れたような、可愛らしい笑顔が浮かんでいた。

「そのように言われておるのか、あのゼノンが……、マイトよ感謝する。懐かしい同胞のこと知らせてくれて……」

タルマはマイトに頭を下げていた。顔を上げたタルマは、きょとんとしたマイトに気が付いて、得心していた。チラリ周りを見れば、学園の話で盛り上がっていた。改めてマイトのこと見る。見た目こそ男にしては顔立ちが綺麗で、実力もある。また先ほどのように相手の気持ちを思いやれる。優しさがあった。彼になら教えても問題あるまい。だからこっそりと。

『実はなゼノンは、我々と同じ魔族でな』

さすがに驚いたのか、ぽかんと惚けた顔をしていた。

「久しぶりに。ゼノンの奴と会いたい物だ」

「あのタルマさん。もしも……タルマさんが、直ぐにもゼノン様にお会いしたいのなら。明日にも会えますよ?」彼女の眼差しが、愁いを帯びていたので、マイトとしては気持ちを推し量り。気軽に教えていた。

「ん?、どういうことだマイトよ」

訝しげに眉をひそめていた。魔族は人間の魔法を知らない。当然の反応である。

「実は……」一通り話を聞き終えたタルマは、息をするのも忘れていた。

「その装置は、開国した和の国と呉の国にある。リドラニア大使館にもありまして。これは多分リドニアへの片道ですが、リドニアからならば、好きな国に移動出来ますよ。僕達の師に連絡すれば、多分使うことが許される筈です。もしタルマさんさえ良かったら。ご連絡いたしましょうか?」

今度こそ絶句した。タルマはパクパク口を閉口させていたが……、

「驚いた……、大陸の人間には、そのような魔法と呼ばれる技術があるのか……」

苦笑気味に呟いていた。

「気持ちは嬉しいが……、今我がこの国を離れる訳にはいかない……」

「そうよ!、だってタルマさんがいなきゃ、悪竜ダークサイスを押さえるの大変じゃないの!」

燻っていたマヤが胸を張って、しゃしゃり出てきた。ここでリナとレンタの出番である。瞬く間に魔族の女の子達と仲良くなって、仕事と嘯くマヤの話を口火に。上手に情報を引き出していた。聞き耳を立てていたマイトはコウ、レンタ、何よりもリナに目配せをした。三人は小さく頷き、ひとまず悪竜ダークサイスの話はしない方向に決めた。不用意に自分たちの目的を語るのは、彼等の自尊心を傷付けてしまうからだ。



一夜明けて、改めてフタバ達は、火の魔王ジャック・オーランタンと顔を会わせた。

「さてフタバよ、お前、俺様の試練受けるつもりだな?」

顔を会わせるなり。いきなり断言していた。

「ああ~そのつもりだよ。何だよジャックさん。気付いてたのかよ」「フン、当たり前だぜ。伊達にガキの頃から。お前たちみてないからな」

フタバに意味ありげな目を向けた。昨日二人は裸の付き合いしたからか、随分と砕けた口調である。

「それで、お前殺るつもりか悪竜ダークサイスを」

「……それが僕の、僕達の目的でしたから」

キヌエ、そしてコウ達を1人づつ見ていく。小さく嘆息したが、ガシガシ頭を掻いていから、「俺は許してやるが、さすがに相手が悪い。他の二人にも。許しを得るならって、注釈がつくな」

予想外な答えだったか、二人が顔を見合わせた。

「お前達な~、あのな当たり前だろ。俺は王だぜ?、最悪のことは考えなきゃならない。例えどれだけ可能性が低くてもな」流石は一国の王様、抜け目がない。だがそれくらいの障害で挫ける覚悟なら。とても竜とは戦えない、それほど悪竜ダークサイスは強大な力を持っていた。

「フタバ悪いこと言わねえ、死に行くような物だ。だから止めとけ、今のお前レベルでは、いたずらに奴を傷付け、怒らせるだけだ」

笑みを消して、鋭く厳しい色を浮かべ、真剣な目をして心配した。

「過去にもお前達のように。力ある人間が無念の内に死んでいいった……、問題は奴だけじゃない。奴のネクロマンサーの魔法によって、勇者達が敵となってることだ……」

沈鬱な表情で、血を吐く秘事を。話してくれた。それはフタバ、キヌエを心配してのことである。

「なあ~んだ。相手がネクロマンサーなら問題ないねタイチ♪」

ここまでジャックさんと二人の問題に率先して、口を開かなかったリナが、本来の力を解放する。

「……今。奴の魔法で蘇ったもの達が問題にならないと言ったか、力あるものよ?」

声は押さえているが、恐ろしいまでの怒りを内包していた。もしも答えがふざけた物なら。リナを殺す。言葉よりも雄弁に眼差しが語っていた。タイチがリナを庇うため動く前に。手がタイチに触れた。二人は数瞬見つめ合い。安心したかタイチから固さが消えていた。

「あえて、魔王様とお呼びしますね」

笑顔のリナが深く一礼して、そして……下げていた顔を上げた瞬間から。

━━そこには、今まで少年に守られていただけの天真爛漫な少女はいなかった……、



纏う空気が変わっていた。眼差しこそ変わらず。笑みが消えた意外は、別段変わったとは思えない。それでもジャックは感じた。リナを油断のならない老練な商人、それも手練れだと判断した、自分が性急だったかと身を正させた。

「まず魔王様に誤解させましたこと。この身の浅はかさをリナ・シタイルとして、頭を下げましょう、しかし……、私は出来ぬこと口にせぬよう母に。尊敬する兄から教わっております。魔王様その上で、言わせて頂きます。死者は確かに手段なければ脅威ですが。此方おりますタイチは、大地の女神アレを崇めるアレイ教の司祭にして、フロスト正騎士と認められた逸材です」

さらりとアレイ教の司祭が、神聖魔法の使い手であると説明されて、火の魔王ジャックは目を丸くしていた。

「まさか!?、お前は神聖魔法の使い手だったのか!」

ここまで一切口を挟まなかったタイチだが、仲間のためならばと自分のこと話してくれた。

「なんと大司教の養子で……、しかし……」

グラリと心揺らされた表情である。確かにタイチがいれば死者は脅威でなくなる。だが死の島には数千もの死者が徘徊していた。リナはこの時ようやく、叔父ブライアンが持たせてくれた。シンクレアの鱗で作った。リナの武器を思い出していた。「魔王様、今一つ。私達には、武器がございます」

「うむっ、武器とな?」

服の下に隠していた。鞘に納められたペーパーナイフを取り出した。それを見てジャックの目が鋭く細まる。「……ほう……、凄まじい魔力が見えるな。名のある大魔法使いの品だな?」魔族であってもジャックは、魔法のこと正しく知っていたようだ。ちらりコウ達には目配せしていた。

「これは、叔父が私の親友の鱗から作ってくれた。魔法アイテムです。私は補助魔法を得意としてまして。このアイテムはあらゆる魔法を。範囲内にいる仲間全員に掛ける力があります」

あえてそこで言葉を切ったのは、相手にリナの話を理解させる為だ。



果たして……、やはり魔王は一国の王、粗野なだけの男ではなかった。

「ほ~う其ほどの品を持つか、確かに死者に有効な手段を持っているようだな。だが今の話には、あえて口にしていない部分があるな。我はそれこそ知りたい。リナ殿答えてくれるな」

表情が穏やかになっていた、うっすらではあるが、リナと話すことを楽しんでるようである。


━━この言葉こそ、リナに対する称賛であり。彼女の知謀に魅せられたジャックの降参の言葉であった。すると正しく気付いた少女はにっこり日だまりのような、優しい笑みを浮べていた。

「これは我が、アレイク王国の秘事ゆえ。他言無用でお願いします魔王様」

「ほ~うそれほどの秘事を知るか、我が名ジャック・オーランタンの名に掛けて誓おう」

不敵に笑うジャックに小さく頷き、この場で誰も知らなかった。フロスト騎士の秘密の魔法を語る。



その昔からアレイク王国では、神聖魔法の使い手が手を携える。共鳴魔法と呼ばれる技術があった。それはあくまでも二人以上の神聖魔法の使い手がいる場合に限る。



ただし例外があった。中央事件と呼ばれた時代。第1師団で開発された方法は、聖職者1人でも付属魔法の使い手が一緒ならば、用いられる。

今回リナが、この場で考え付いた方法は。それこそ叔父の魔法アイテムと。リナが兄から教わっていた魔方陣または、先生方が使う簡易魔方陣を組み合わせるだけで、絶大な効果を発するだろう。リナは尊敬する兄と叔父に感謝しながら。改めて口にしていた。さほど難しいことではない。それどころかどうして今まで気付かなかったのか、感嘆の言葉を飲み込んだ。


ピースさえ揃えば、例えこの場にタイチやリナがいなくても可能だった。恐ろしく簡単でいて、間違いなく数がいるアンデットにとって必勝法となり得た。




強制浄化ターンアンデットを補助魔法によって、島全域にまで広げる程の広域魔方陣を。併用して用いること。リナはこっそり囁くように。まるで唆すように言うのだ。

「私は、魔法アイテムの力を使うことで、危険もなく兄が教えてくれた。ハウチューデン家特有の多重魔法を用いることが出来ます。この魔法とタイチの強制浄化を組み合わせれば、どれ程広範囲に隠れていようと、死者は全て土に帰ることになりましょう」詳しい話を聞けば、ジャックにも魔方陣と魔法のアイテムを組み合わせることで、神聖魔法の強化出来る仕組みは、容易に理解出来た。

「おお~確かにそれならば、多くのアンデットを瞬く間に倒せる!」

しきりに感心した口振りで、リナの知謀を褒め称えた。



そもそも魔族に、神聖魔法の使い手が存在しない、だから気付く事が出来なかった方法である。しかも大陸で暮らす人間だったから……、改めてジャックはフタバ、キヌエの成長に気付いた。穏やかな目を愛する二人に向けていた。

「あっジャックさん……、そのごめんなさい、俺達そこまで考えてなかったよ。その……タイチの神聖魔法は、あてにしてたけどね……」

馬鹿正直に答えていた。ここで少し考えたジャックは改めてリナを見て確信する。

『この少女は今この場で……、彼処までの策を考え付いたと言うのか?』

それはジャックの二人を案じる心を。不安を……。一介の少女とは思えなかった。

「リナ殿、そなたは一体……」「私?、私はリナだよ。ただのね」

何の含みもなく、自分をただの女の子と言う……。嘘はついてない。いないだけに……。人間についてつい考え込んでいた。もしもアレイク王国と呼ばれる国に。これ程の人間がゴロゴロ居るのならば……。我が国はとっとと鎖国を解いて、若者達を武者修行に行かせるかと、真剣に検討していた。

「分かった……我が名、ジャック・オーラタンは、フタバ・ワナト、キヌエ・ナナツ両名の試練、悪竜ダークサイス討伐を認めよう。ただし残り魔王二人、パートナー二人の承諾を得よ。それが試練を受ける。条件である。良いなシターニア」

「はい、私シターニアは、勇者の皆様が、悪竜ダークサイス討伐に加わり。フタバ、キヌエの試練。手伝いくださること認めますわ。良いですね二人とも。必ず生きて無事に帰ること」心配で心配で堪らない。雄弁に眼差しが語っていた。

「はいありがとうございます。シターニア様、私の着物姿見せたいから、必ず生きて帰ります!」

可愛らしい決意を聞いて、それはそれは嬉しそうに微笑むと。

「楽しみに待ってるわキヌエ」

「はい」

「よし、それじゃ行ってこい」

「ああ~行ってくるぜ、馬鹿親父」

「なっ……お前」

「またさ、背中流しにくるからな、へへっ」

「……楽しみにしてるぜ(息子よ)」

ふてぶてしく頷くと。フタバ達を悠然と見送っていた。




エピローグ




「親父ですって、あ~あ、キヌエもお母さんって呼んでくれないかしら」

身悶えしながら、夫を羨ましそうに睨む。

「そうだな……」半分苦笑張り付けながら。二人は寄り添い。子供達の無事を祈った。




どうにか魔王ジャック・オーランタンから一本とったフタバは。悪竜ダークサイス討伐の試練を申し込み、リナの気転もあってどうにか許しを得た。また同じ物語か別の物語で、背徳の魔王でした。

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