勇者タイチの冒険
アレイク王国の王都カウレーンで暮らす少年タイチ・フレンダは、幼少からフロスト騎士見習いとして修行をしてました。大地の女神アレ様から凄まじい祝福と加護が与えられ、司教候補と呼ばれるようになっていました。少年には兄と尊敬する人がおりました。何時しか認められたいと願うようになっていました。
プロローグ
この数十年━━。様々な出来事があった。
旧魔王ヒザンを倒し、西大陸に国を興した新たな魔王は。そればかりか西大陸を統一成し遂げ。僅か一年で帝国を築いた稀代の覇王となった。しかしそれたけでは飽きたらず。世界を接見したのだった。世界中の国々は、魔王ピアンザの驚異に襲われた。
しかし……、真実は別にあることを人々は知ることになる。魔王は世界を救うため……、1人苦悩していた。
東大陸にあるアレイク王国……。
全ての物語はここから始まっていた。
━━後に英雄王と呼ばれたオーラル・ハウチューデン、
煌めく星々のような知勇合わせた豪傑、伝説の竜騎士、智謀の女傑、成り上がりし剣豪、元ダメ貴族、元疑似神、三賢人、数え切れない英雄、豪傑、貴人、天才、夢見た王子、不遇な秀才、記憶を失いし勇者、嫌われし子供がいた。
彼等の力によって、神世に失われた中央大陸が、世界に戻るまで、世界に大陸は4つしかなかった……。
多くの英雄を排出したアレイ学園。始まりの学舎と呼ばれた。伝説の大賢者が造った学校がある。近年英雄王の子息が通い。彼まで英雄と呼ばれるようになると。まるで磁石のように……。英傑がアレイ学園に集まっていた。彼と切磋琢磨した。綺羅星の如く集まった少年少女達は、世界に新たな風を起こした。
まだ人々は、若き英雄が残した。多くの種が、アレイ学園で芽吹くことを知らない……。
━━王都カウレーン、東通り。格式高い大商会が店を連る早朝。多くの人足が問屋である商会の前に集まっていた。
商人の朝は早い。
黒髪。気の強そうな顔立ち、真一文字に唇を結び。商隊と供に出発する青年の背。使い込まれた巨大な大剣を背負い。フロスト騎士が身に纏う。白い外套を身に纏う。その下から使い込まれた革鎧、右腕に珍しい鉱石が付いた手甲が覗いていた。
フロスト騎士団の仕事は多岐に渡る。民の生活を守ることを主な仕事にしているからだ。例えば魔物が生息する地域に向かい。近くで暮らす村、集落で暮らす人々を守るため。モンスターの討伐、山賊、盗賊の捕縛。医者に代わり。癒しの魔法を用いた治療など。その他仕事の一つが、今日出発する商隊の護衛まで含まれていた。
俗に大商会は、国内の物流販売も兼ねていて。個人、キャラバン問わず商会の屋号を。一人前の商人に金銭で貸し与える代わり。キャラバンを率いる危険な村を回る商人は。フロスト騎士団に護衛を頼む事が出来た。
本来護衛任務の場合は、フロスト騎士数名と見習い合わせても、5~10人の小隊が任務につく、だが実際のところはどうだ?、タイチ・フレンダなるどう見ても。10代の若者が小隊長だと言うではないか……、好意的に見てもまだ20になるかどうか……。
なにより気になるのが、場違いに見える貧相な装いの見習い二人である。明らかに護衛には少ない。高い寄付金を納めてる大商会所属の商人は、不安そうな顔を三人に向けていた。その内の1人。
空気を全く読まないタチバナ・シンヤ、超お気楽で、マイペースな性格のコウサキ・マヤは、不審な眼差しの商人達など当然気にする筈もない。お気楽な世間話すらしていた。
「そう言えばさ~、この間見たんだけど。宮廷魔導師筆頭のほらましな方」
「ああ~シアン・イナバ様な」
「そうそう次席のマイト・ラネス様が、大喧嘩してたのよ~。中央公園で」
「ああ~聞いた聞いたぜ。お前見てたのか?」
「うん、ほらフタバ君てばマイトさんと友人じゃない」
「もしかして原因って……」
「あははは……、実は暇してた私のために。王都の案内してくれてたんだけどね~、ほらマイト様っては、何気にモテるじゃない?」
「たく……仕方ないな~、後で一緒に謝りに言ってやるよ」「わ~いありがとうシンヤ!、何気にシアンさん怖いのよね~、でもさマイト様。私の前に女の子とデートしてた見たいでさ~」
「もしかして?」
「そっ、マイト様つけてたんだって」
「マジかよ!、女の嫉妬ぱねえな」
驚いた顔をしていた。そこはマヤも同感である。でも人間のこうした話は実に面白く。いつまでも話してられた。おばさん達が井戸の側で、ずっと話し込む気持ちがよく分かる。
さて二人が噂してたのは、わりと有名な話である。タイチも知る話で。仕事中だからと二人にいちいち注意はしない。言うだけ無駄なのだ……。
問題はそこではない。マヤの人間には見られない青白い肌、赤い瞳。髪色は黒と珍しくないだけに。肌と瞳の色を覗けば、普通の人間にしか見えなかった。
……しかし二人は、東大陸の遥か東にある。諸島国から。アレイク王国に移り住んだ。変わり者の魔族である。民には公式に知らされていないが、二年前に起きたある事件がきっかけで……、諸島六ヶ国は、鎖国を解いた。
その時から、アレイク王国の二人の若者は、勇者と呼ばれるようになった。その片割れタイチ・フレンダは、若くしてフロスト騎士小隊長の任を与えられ。さらに司祭の資格を持った。未来の司教候補と呼ばれていた。……しかし本人は寡黙で、自分に厳しい性格もあり、あまりその時のこと語らないので、詳しく知らされてない。その為商人達の不安は、タイチの若さと、自分を偽らない寡黙な様子から来てるものだった。
若者は普通。少しでも強く見せようとするし。腕に覚えのある者は、粗野な一面を見せる。
無論タイチは、商人達の不安をわかっていた。今さら自分を変える必要を感じず。わざわざ態度を偽るつもりすらなかった。ただ見据えるは、師であり、兄のように慕う。1人の青年の背。一歩でも高見を見据え。近付きたいと切に願う。夢見る優しい少年だった。
街を囲む高い城壁。早朝の時間。にも関わらず、多くの人出があった。その多くが鑑札を見せる商人達か、見習い、荷運びの人員である。すんなり商人と商隊の人員は通して貰える。アレイ教の戦力組織であるが、国の軍部所属でないフロスト騎士団の者は所属、氏名を都から離れるさい。書く義務が生じた。
「これはタイチ殿ご苦労様ですな。少し前恋人のリナさんが、サノビアさんを連れて、フローゼに向かわれましたよ」
こっそり教えてくれた衛兵は、タイチの顔見知りである。
「そうか……、ありがとうございます」素直に頭を下げるタイチに。衛兵はとんでもないと。にこやかに笑い。シンヤ、マヤを伴い。三人を待っていた商隊の元に合流していた。周りを見ればタイチ同様に。フロスト騎士や傭兵が、護衛として追従するのが実に多い。
━━この数年。東大陸は、モンスター、魔獣の増加に伴い。副次的な被害が出ていた。最たる事件が、各地に物資を運ぶ物流の要。商人達であった。次いで集落の家畜、村の田畑の順である。タイチ達が護衛する商隊は、城塞都市ベゼルに向かう比較的安全なルートを使うので、本来護衛は要らないが……、それでも不安な商人が、フロスト騎士団に護衛を付けるよう申し込みしたのだ。そこは……アレイ教団にとっても悩みどころである。
そもそも営利団体ではない教団の運営には、多額の金銭を必要としていた。無論国から孤児院、町、村の自衛の金は出されていたが、その多くが信者からの寄付に頼っているが、無論それだけで、各施設の運営に足りる筈がない。そこで毎年大商会に頼むと、多額の寄付が寄せられる。商会としては流通の要である商人達の安全を買う魚心があればこそだ。教団としてもそこは理解していた。本来軍部が担う護衛の仕事だが。おいそれと頼める筈もない。そこで……民である商人の頼みを。はね除けることが出来ない皺寄せが。フロスト騎士団にという訳である。
━━7日後……。
城塞都市ベゼルに無事到着した商隊とは、門の前で別れた。タイチ達は。一度護衛任務終了の報告をしに。街の中央にあるフロスト騎士団本部。一階の受付で、仕事の報告を済ませていた。
「お仕事ご苦労様でしたタイチ殿。大変申し訳ありませんが、直ちに司教様にお会いください」現在ベゼルは、政務で忙しい騎士団長に代わり、司教によって運営されている。教団トップは言わずと知れたララ大司教様、片腕たるフロスト騎士団長シデン様。その下に。大きな町の教団施設を運営する五人の司教。大司祭、二人の枢機卿が、いわゆるアレイ教団幹部と呼ばれるトップ達である。
「承知した」端的に答えたタイチは、見習いの二人に。本部隣フロスト騎士団が運営する食堂で、先に昼食を取ってるように伝えた。自身は三階にある。司教のいる執務室に向かった。
簡素な広い部屋。アンティークな机、小さな本棚に申し訳程度の古い書物。高価な品はなく。落ち着いた空気を醸し出していた。まるで枯れ枝のような老人は、染みだらけの手の左手を動かしていた。ちょうど解読部分が書き上がるのを見ていたタイミングで、無骨そうなノックがされ。視線を古い文献から上げて、
「どうぞお入りなさい」
しっかりした声で。入室を許可していた。
「失礼します」ムッツリした表情。気の強い顔立ち。芯のしっかりした眼差しを、老人と目を合わせるや静かに低頭する。思わずバルデラは、感心した声を口内で噛み締め。眼差しを柔らかくしながら労を労う。
「急な仕事の上。こうして未来ある若者を見るのは、実に素晴らしいことだよタイチ君。君を見た瞬間若き日のリブラ殿を思い出したよ」
朗らかに微笑み。司教様からそう評され。些か戸惑いを浮かべたタイチに。
「私はね昔、エレーナ様の補佐をしていてね。今や……。あの頃を知ってるのは、ララ大司教様。私とブラレール枢機卿だけだからね」
意味ありげな眼差しを向ける。真っ直ぐ視線を受け止めた青年の表情に、ほんの些細な変化が訪れた。実に穏やかな笑みが浮かべていたのだ。思わずバルデラは息をするのも忘れて、タイチを食い入るように見ていたが、ハッとして照れくさそうに。クシャリ笑うと。実に味のある良い顔をしていた。
「昔話をすると。年寄りは長くなる。そうならないため先に仕事の話をしましようかね」一つ咳払いなどしてから。バルデラは話し出した。
━━ベゼルから北西に向かうと。魔獣が生息する森があった。森の途中からゴツゴツした岩山が広がっていて。国境まで続いていた。その先がドヴィア国の所領である。
━━その昔。岩山から、国境の砦まで、遥か昔まで。深い森が広がっていた。
「実は最近。岩喰らい(ロックイータ)の群れが住み着いてしまってな。フロスト騎士団としては、旅人、近隣の村、何より流通の要商人を守るため。これを退治しなくてはならない。そこで分隊を派遣することが決また」
そこで言葉を切って。眉間に深い皺を寄せていた。分隊とは軍隊の派遣出来る最小単位である。小隊5~10人を集めた人員(25~50の兵士)を意味していた。
「本来なら君たちだけに頼む仕事では無い……、困ったことに近年モンスターが増加していてね。派遣したくとも。ベゼルとて人員不足済まない……」
苦笑気味に。苦しい胸の内を吐露していた。
「承知しました」
別段文句もなく。タイチは素直に承知していた。本来分隊(50あまりの兵力)を必要とする。頑強な体を誇る岩喰らいの群れに。わずか三人で……、普通なら絶望的なことである。
タイチが食堂に向かうと、見習いの二人マヤとシンヤは、テーブルから溢れるほどの大量のオカズを注文していたようで。さすがに多少呆れた。仕方なく空いてる席に座り二人が手を着けてない料理から。自分用にワンプレート取り分け。先に食事を済ませた。
タイチが食事終えても食事を続ける二人。さすがに待つのも面倒になって、仕事の話をしていた。シンヤはモシャモシャ焼き飯を食べながらゴックン。
「因みにタイチさん。岩喰らいって強かったりします?」
問題はそこだった。魔族にとって自分を高められる相手なら。例え命の危険を脅かす存在だろうと。戦いたがる。魔族とは一種の戦闘狂の気質が強い。種族である。
そこが大事だとマヤまでキラキラした眼差しで、タイチを伺っていた。
「うん、かなり厄介だろうな。詳しく知らないが、ことに耐久力、強靭な生命力は、この間倒した人食いみみずに匹敵するし。表皮は生息する地域の鉱石によって変わるが。ほとんど岩と変わらない。通常の打撃、武器による攻撃は効きにくい、それに……あの辺り、ドヴィアの金山があった。だからゴールデン岩喰らいがいる可能性がある」
名前こそ黄金を意味してるが、見た目がキラキラしてる訳ではない。胎内で金や宝石を有してる可能性があって……、岩喰らいを倒した場合。鉱石の回収を必ず行うのだ。
「普通の岩喰らいよりも強力な亜種と考えれば、分かりやすいだろう」
「なるほどね~。じゃ武器による攻撃よりも魔法かな?」
「そうだな。それが一番確実だ。だけど僕はフロスト騎士。攻撃魔法は得意ではない。そこで……」
「私達の符術ですね♪」
「ああ~それも有効だ。しかしフロスト騎士の戦いかたが別にある」
タイチに心酔する二人には、それを見てもらうつもりである。未来の諸島国と我が国の国交のために。
現在魔法は、大きく分けて3つに分類されている。『攻撃魔法』『付属魔法』『神聖魔法』である。そのなかでも神聖魔法は、神々の祝福を得て、初めて可能になる奇跡である。その為アレイ教団全体を見ても。神聖魔法の使い手は少ない。しかし……近年。付属魔法は目覚ましい発展を為した。神聖魔法ほど劇的な効果こそないが、解毒、ヒールなど回復系に属する。付属魔法が増えたため。フロスト騎士見習いの多くは。付属魔法を学園で学ぶことが増えていた。また利便性から神聖魔法よりも多用されることがある。
しかしきちんと修行した。神聖魔法の使い手は、一流の魔法使いに匹敵する程。強大な攻撃魔法の使い手となるのだが……。アレイ教団の中で攻撃神聖魔法の使い手は、片手で数える程度。その1人は間違いなくタイチであった。
「お前たちに見せるよ。本当の癒しの奇跡をな」
謎かけのような呟き、思わずマヤは小首を傾げていた。
その日は一泊して、翌朝三人は、問題の岩山に向かった。
城塞都市ベセルから。問題の岩喰らいが生息地域までは、馬車を使って3日。途中から三人は徒歩で、半日森の中を歩いて行くと。荒れ地に出た。
そこから気を付けて歩かないと。足元は崩れやすくなっていた。かなり危険である。しかし森の近くに住まう村人にとって、この辺りの森や岩山は高価な薬材の宝庫であり、危険を伴うが、生活のため取りに来ると聞くと。二人もなるほどと納得の顔である。
例年この辺りの地域は、モンスターが住着くことが多く、毎年第1師団による討伐隊が送り込まれていた。しかし例年にない各地のモンスターの増加。第1師団だけでは討伐隊の編成も、困難になってるのが現状である。
「うわっと」
「マヤ危ない!」
足元の岩が崩れて、崖下に落ちる直前、シンヤが咄嗟に腕を掴み引っ張り上げた。
「ふう~ありがとう、助かったわ」
タレ目をほっと広げ、がっしりした体躯のシンヤに礼を述べた。
「この辺りは足元が崩れやすい。二人とも気を抜くな」
「「は~い」」素直に頷いていた。
二人を見ながら、様々なこと思い出していた。一口に魔族と言っても。色々な奴がいた。トップは懐かしの三魔王達、国毎に違うが、シンヤ、マヤの二人は軍部に属していて魔拳、魔刀と呼ばれる。軍隊で言うところの一般兵士の位置付けである。魔族の軍は主に得意とする武器によって、部隊が編成されている。普通の人間ならば、手柄や年数によって昇進していくのが一般的であるが、魔族の軍は違う、純粋な実力社会である。自分の地位は、自分の力で手にいれなくてはならない。どんなに正論を吐こうと。力無き者の言葉は、ただの戯れ言と切り捨てられる。
魔族である二人が、大陸に渡り。人間の世界に住んでまで。タイチに傾倒しているのか、
━━そのきっかけは三年前に遡る。
タイチの2つ上には。幼なじみで、友人の悪餓鬼トリオがいた。それがコウ・アルディナス、マイト・ラネス、レンタ・マノイである。タイチにとって三人はライバルであり、大切な親友でもあるが、最初は大切な女の子を泣かせた大嫌いな敵だと思っていた。今のように大切な親友達と、そう思えるようになったのは……、タイチの恋人であるリナの親戚だった。少年との出会いからだった━━。
今年タイチは、アレイ学園『特待生』三年に進級していた。来年自分たちが、最上級生徒になると思うと不思議な感慨を覚えた。
「よおタイチ悪いな」
朝のランキング戦が終わったら話があると、コウから呼び出されていた。珍しいこともあるなと首を傾げていた。
「だいぶ下級生の早朝訓練生増えたな」「ああ~新入生も慣れてきたよな」
「そうだな」
二人は、懐かしそうに先輩達の顔を思い出していた。
「お前夏休み暇か?」
唐突に切り出していた。思わず首を傾げながら、いたずらっ子がまんま大人になった風貌。それでいて粗野にならず。笑うと屈託ない顔立ちになるから、相手に安心感を与えるコウを。まじまじ見ていた。本人は気が付かないようだが、側にいるだけで心休まる不思議な魅力があった。
「ん~、特に。予定はない」
ひとまず学生の間。フロスト騎士団の仕事もないので、予定はないと。ポツリ呟いた。すると傍らにいたマイトが、
「なあ~良かったら。諸島国にいかないか?」
である。アレイク王国から出たことないタイチにとって、予想外な誘いであった。しかし三人とこうしてられるのも後僅か……、
「……リナに、聞いてからでいいかな?」詳しい話を聞かない内に聞いていた。これは三人も顔を見合せて、思わず苦笑する。
「タイチは昔からぶれないな~」
とレンタが呟いていた。
「仕方ないよそこは」
マイトが肩をすくめ。コウまで頷いていた。
あえて即答しなかった理由。タイチにとって、大切な存在が二人いた。1人は義兄の娘で目に入れても痛くない可愛くて仕方ない妹ジル。今は年老いた母もいるので、最大の懸念は必要ない、もう1人が恋人で、将来を誓う相手。リナの許しを得ない限りは、うんとは言えなかった。
「まあ~お前は、そう言う奴だよな」
レンタは皮肉気に呟き。肩をすくめながら。
「リナが良いならお前は、行けるな?」
コウにしては珍しく。真剣な顔をしていた。だから素直に頷いた。
「詳しい話は、リナからオーケーもらってからでいいな?」本当は色々聞きたかった。でもコウがそう言うならばと、タイチも納得していた。
━━その日。久しぶりに。リナの家がある。新東通りに出来た。真新しい商家を訪れていた。
「いらっしゃっ……」
日に照らされると、明るい赤色に見える黒髪、笑うと左だけえくぼる可愛らし顔。ほっそりした手足、見事なプロポーションの少女は、ふわりとした前掛けをしていた。お客様かと思って営業スマイルを、タイチに向けたところで、気が付いた。すると見るからに笑顔が三割増しになっていた。
「タイチ♪、いらっしゃっい。ちょっとだから。あがって待ってて」
「うん」
もうすぐお昼である。言われるまま店の奥に入ってた。リナは学園に入る前から。小さなお店を始めていた。タイチと一緒にアレイ学園に入学する頃には、ちょっとした商会にまで成長させるという。離れ業をしてみせ。今や若き天才商人と呼ばれてる少女であった。今年アレイ学園を卒業したリナは、瞬く間に事業を拡大していて。国営事業を担うフレア=カレン・ダレス財務官の相談役していたりする。
リナに促され。勝手知ったる他人の家だが、
「久しぶりだ……」家には、住まう住人による独特の匂いがある。商会はまだ新しい建物だ。でも懐かしい残り香を感じて、つい笑みが浮かんでいた。それから奥に向かうと。常連御用達の可愛らしい部屋の中に入る。すると商会からお花畑に迷い込んだような錯覚を覚えた。
実際は違う、部屋はちょっとした広さのあるラウンジであった。以前見たときはこれ程劇的な変化はなかったが……。
この部屋には、ロストアイテムを元に。今の宮廷筆頭魔導師シアン・イナバ嬢によって、似た機能の魔法アイテムが作られた。この部屋丸ごと。別の風景を写しこむ技術はそれが使われていた。これこそアレイク王国が発表した。全く新しい技術。ホログラフィーと呼ばれる物。市場価格はかなり高額であるが……、それをリナは買ったのだ。しばらく興味深く部屋を見て回ってると。
「タイチ殿よく来たな。あんなにはしゃいだリナ様を。久しぶりに見たよ」
いつの間に入って来た。美しい真っ白い翼の女性が、お茶を手に入って来た。
「ありがとうサノビアさん」
確かに子供の頃ほど気軽に。リナとは会えなくなっていた。それはお互いの夢を叶えるために必要なこと。自分が成さなければならない大切な事が増えたからだ。一つ頷き、戦乙女と呼ばれる。翼人の女性は柔らかく微笑んでいた。
タイチはさほど待たされず。リナが、キラキラした笑顔で現れると。タイチの隣に座り。いきなり抱き着いてきた。
「りっりりりリナ」
熟れたトマトみたく真っ赤かになって、アワアワし出す愛する少年に。ぴったり寄り添って、悪戯ぽくクスクス笑っていた。タイチはちょっと奥手で、紳士な青年である、リナのほうがこれくらい積極的にしないと。手も握ってくれないから。わざわざタイチから来てくれたチャンスこそ。リナにとって、またとないスキンシップ出来る時間である。
「そ~れ~で~♪、えへへへ☆、どうしたのタイチ」
甘えるような鼻に掛かる声。しっとりした眼差しで、タイチの心を満たすように見詰め。優しい口調で問う、あまりにも魅力的に成長した。愛する少女にどぎまぎさせられながら。モゴモゴどうにか説明していた。
「ふう~ん諸島国に。なるほどね~。うんうん!、じゃさリナも行くから。コウ達に言って、了承もらってくれたら許すよ~」「………、ええー、りっりりりリナも……、だっ大丈夫なの?」
若くて少女の身であるが、仮にも商会を切り盛りする商会長である。心配していると。あっさり頷いていた。
「大丈夫だよ。お母さんもいるし、どうとでもなるわ」
あっけらかんと大胆不敵に言ってのけた。こうなるとリナは頑固な所がある。頑として譲らない性格なの知っていた。仕方がない。明日コウに言うか……、半分諦めていた。
……翌日。
まもなく夏休みになるから。四年連続学年ランキング優勝を飾ったタイチは、コウ達と待ち合わせしてる。中央公園カフェ・ブルー本店で、昨日の返事をしていた。
「……ん~ん。まあ~仕方ないだろうな……」コウが苦笑混じりに呟いていた。
「まあ~リナなら大丈夫だろ。あいつ『特待生』断った癖に。何気に強いからな。いざって時も大丈夫だろうし」レンタがしみじみ言えば、何気にタイチも頷いていた。
数日後……、留学生のフタバ、キヌエは、夏休みを持って。アレイク王国を後にする。本当は『院』に上がってもっと勉強したかった。でも祖国の王と約束した日が、間もなく訪れる……。
━━二人には、夢があった。尊敬した先生だけには本当のこと相談していた。それから友人のコウ、マイト、レンタ。信頼出来る三人にだけには、伝えていた事実があった。
悪竜ダークサイス……、3つ首の暗黒竜を。どうにか倒したいと。二人の願いを聞いていた。今や貴公子と呼ばれるマイト、気楽な号令をかけたコウ、打算的な商人であるレンタは、実にあっさりと手伝いを申し入れてくれた。二人の覚悟を思っての事だ。思わず涙ぐむキヌエ。
「何か、解らないけど頑張るよ♪」
天真爛漫に微笑む後輩の少女に。二人は不安そうな顔をして見合っていた。
━━諸島国六ヵ国は、数年前まで、鎖国をしていた。リドラニア公国のブライアン様が、機会と造船の国ジエモンを通じて、和の国、呉の国の王から信頼を得て鎖国を解いた。そのお陰でフタバ、キヌエや、後輩の六人が留学生として、アレイク王国で。学ぶことができた……。二人にとって、キラキラと輝く宝石の如く。楽しい日々━━。
しかしその楽しい日々の裏で、三人の魔王様達が、祖国の危機を防いでくれている……。最近二人は祖国のこと考えれるようになっていた。
竜と呼ばれる種が生まれたのは、神話の時代。大賢者オール・セラの著者。『竜と神々』によると竜とは神々によって創られた生物であり。最初の種を管理する目的で作られた。しかし竜には様々な欠点が多い。その一つが生殖能力である。神竜と呼ばれる数体の竜には、残念ながら生殖能力が欠場していた。しかし今の世では、竜はあらゆる生物に自分の因子を植え付け、子を作れる竜も存在する。また竜にも精霊と同じく属性と言うものが存在していた。悪竜ダークサイスが最初に観測されたのが、
今から120年前の南大陸と言われていた。
━━当時。世界最大の国、華の国ダナイ、今は失われた国を。生まれて間もない悪竜ダークサイスは、破壊の限りを尽くした。その猛威は南大陸どころか、西大陸、北大陸を襲い。遠く諸島国にまで、魔の手を伸ばしたと言われていた。
諸島国と呼ばれる国々には、大小多くの島が点在し。真南に死の島と呼ばれる島を除けば、人が住める広さがある島が7つもある。
━━しかし……実際。人が住み。国を形成できたのが、現在の諸島国六ヵ国だけである。最後の7番目の島は、死の島のさらに先にあるため。上陸することすら難しい難所、向かうには死の島を経由するしか方法はない。何故か秘境と呼ばれる島をまるで囲むように。海底火山の影響か、岩礁地帯が囲んでいた。さらに不規則な海流の影響で、回り込んで、岩礁地帯の合間を抜けて上陸することが、実質不可能だからだ。
リドラニア公国から月に二度。和の国に向けて交易船が出るようになって、そろそろ一年が経とうとしていた。
……残念ながら。交易以外で諸島国に渡ることは、未だに不可能であった。
「やあ~リナ、久しぶりだね」
「ブラにいお久しぶり♪」一行は船でリドラニア公国に到着していた。するといきなり豪華な馬車に出迎えられて、みんなで面食らっていた。どうにかして諸島国に渡れないか、船を探すつもりであった。
「あっあのブライアン様……」
「やあ~フタバ、キヌエ久しぶりだね、それから君たちが、シンクが言っていた勇者様御一行様だね」
シニカルな笑みを浮かべ、口火を開いた。
「驚いたようだね」
「そっそれは、色々な意味で驚きますよ」
マイトが生真面目に答えていた。しかし五人にとって、妙に懐かしい感覚である。
「とりあえず君たちに説明するなら。シンクはこうなる可能性が高いと考えていたよ。だから最低限の手伝いを、僕に頼んでいてね。君たち最大の悩みである。装備と渡航の方は手伝うよ」
ブライアン様の説明に。この場にいた7人は、恩師の顔を思い出して。小さく感謝を抱いた。
「そんな訳で、リドラニア正騎士に与える。竜のブレスダメージを軽減効果バッチリの外套と。それぞれにあった武器を用意しようね」
それを聞いて、コウ達の顔に笑みが広がった。
「そうそうリナには僕から、シンクレアの鱗から作ったナイフを。御守り変わりにあげるから、肌身離さず持っていなさい」
ブライアンが合図すると。部屋に運ばれた装備は、それぞれ図ったようなサイズの外套。得意とする武器まで用意されていた、まるで吸い込まれるように武器の前に移動していた。美しい片刃の刀、刃の部分には波のような紋様があった。
「……うわ、今、この武器手にしたらぞくっとしたぜ。さぞかし名のある名工の作品だよなきっと」「そいつの柄には、加工出来るようにってシンクの頼みだったけど、フタバ意味わかるかい?」
にこやかに微笑みながら。技術者として興味あるのか、キラキラした目で聞いてきた。
「あっ……多分分かります。先生紋様技術のこと覚えたんだ」
キヌエの手にある小太刀。それにも同じ加工可能だと説明された。
一行の中でも商人であるレンタは、武器の目利きも確かである。ブライアン様から武器の素材について質問していた。あまりにも専門的過ぎてフタバは感嘆の声を漏らしていた。同じく用意された外套を装備して、真新しい武器を手に馴染ませたところで。にやけるキヌエ、コウとタイチは何度も武器を抜いては、キラキラした笑みを重ねていた。
そんな中……、リナがブライアン様からもらった。ペーパーナイフを抜いて、戸惑いを浮かべた。思わずマイトも首を傾げた。どうみても武器としてはまるで使えない。眉を潜めていると。
「そいつは、竜の魔法が掛けられているマジックアイテムだよ。リナは商人だから前線に立つのは止めた方がいい。その代わり補助魔法を得意にしてるそうだね?。だからあらゆる補助魔法を個人にではなく。複数に掛けられる魔法がが掛けられた。世界に一つだけのアイテムだよ。それから鞘には、杖と同等の補助効果があるから。攻撃魔法も問題なく使えて、普段はペーパーナイフとして持ってれば、まさに御守りだよね♪」
きちんと説明されれば納得である。
「そうだリナ、子供達と会って行けよ。朝からリナが来ると聞いて、大騒ぎだったんだぞ~」
思い出したのか、しみじみ所帯染みた吐息を吐いていた。
その日。7人はブライアン様の子供達にせがまれて、一日中遊び。すっかり疲れて果て、朝までぐっすり眠ってしまった。
━━翌朝。大型輸送機械竜バハムートに乗せてもらい、ブライアン様の移動島まで送ってもらった。そこからリドラニア公国の交易船に乗って、和の国に向かった。
気持ちが良いからりとした天気。海風を一杯に受けた船は、夏の美しいキラキラした光を浴びて、輝く水面を割いて、港町にゆったり入港していた。見るからに異国の巨大な船舶は、リドラニア公国の交易船である。
武家屋敷が並ぶ通り。和の国で剣術道場を営むワナト家は。代々王家の剣術指南役を仰せつかる名家であった。
「お母さん!。私出迎えに行ってきます」
「気をつけていきなさい……、あらあらルミカってば、慌てちゃって」
呆れた口調のオリミは、おっとりした優しい面差しに、ふんわり笑みを浮かべていた。彼女こそ和の国きっての剣豪。当代の王家剣術指南役である。見た目の風貌とは違い。苛烈な剣術を使うことで、近隣諸国の魔王からすら恐れられた存在である。見事に晴れた上がった快晴の空、眩しそうに目を細めていた。からりとしてるせいか。地面に目を落として、ハッとした。珍しく太陽に。日輪が美しく浮き出ていたからだ。
「あらあらまあ~。もしかして吉兆を知らせる。日輪様のお知らせかしら?」
昔から和の国、呉の国、弐の国では、仏教と呼ばれる多数神が崇められてきた。それぞれの宗派に占いのような口伝が残されていた。オリミが口にしたのも。その一つのようだ
━━高鳴る胸。早まる鼓動。最初はゆっくり歩いていた。元来和人はせっかちな性格と。物見高い気質のせいか、何時の間にかルミカは小走りになっていた。
ルミカが物心ついた頃。弟フタバが生まれた。最初は初めての兄弟、いろんなこと想像しては、きっと弟は私になついて、可愛いのだと思っていた。しかしフタバはしょっちゅう風邪をひいて、高い熱を出しては、母から側に行くことを禁じられた。とても身体の弱い子供だった━━。
そうなるといつも母は……、幼い弟のことばかり世話をして……、幼い心にルミカはずるいとフタバが嫌いだった、ルミカだって母に甘えた年頃で。でもフタバばかり面倒見てるから。いつも不満に思っていた。
そんなある日のこと。ルミカは魔族の王ジャックさんに誘拐された。でも子供達にとってよくあることで、数日魔族の王達と遊ぶと。お小遣いやお菓子をくれて、親元に返してくれるので、親は安心して子供がいないからと。ゆっくり羽を伸ばす時間を得ていた。子供達にとっても、最初は怖いが、優しく悪戯好きな魔族の王達を。瞬く間に好きになっていた。ルミカもそうだった……。
しかしまだ甘えたい年頃。落ち込むルミカを労り。抱きしめてくれたのは、ジャックさんの奥さん、シターニア様だった━━。
「どうしたルミカ」
「なっなんでもないです」
まさかこんなところ見られるなんて、とても恥ずかしかった。先ほどまで気付かずメソメソ泣いていた。思わずそっぽ向いていた。一瞬怒られる。そう思って身を固めていると。そっと隣に座るシターニア様は、優しくルミカを抱き寄せていた。
「ルミカ……母も。お前を大切に思っている。毎日、毎日お前が泣いてないか、好き嫌いしていないか、そんな心配ばかりしているのだ」
まるで心を見透かされたようで。気恥ずかしさから。ルミカは反発する。
「そっそんなはずない!、だって母さんフタバばかり……」
再び、目に涙が溢れていた。シターニア様は固く強ばり目を瞑ったルミカを。花の香りがする膝に頭を乗せてくれて、幼子をあやすようにポンポン、背を撫でてくれた。何も言わずただ私の愚痴を聞いてくれた。本当は……誰かに聞いて欲しかったのだ。
「━━ルミカ……。お前の気持ちは母も、私も、夫も、他の魔王どももわかっている」
「うっ………あっ」ぼろぼろ泣き出して、大声を上げて泣いていた。その間ルミカの背をいつまでも撫でてくれた日をルミカは忘れない、それからフタバに対して、母の気持ちも少しでも理解しようと世話をした。フタバが言葉を覚え。少しずつ丈夫になって、ルミカの後ろをついて来るようになると……。弟の一生懸命な姿を。いつの間にかいとおしく感じるようになっていた。
(あの子が帰ってくる。)
久しぶりに元気な顔をみたい、ただその一心で、港まで走りきっていた。
「姉ちゃん!」
船はすでに到着していた。乗客なんてほとんどいないから……、
「フタバお帰りなさい!」すっかり男らしく成長した弟は、今やルミカの背を追い抜いていた。嬉しい反面。寂しい気持ちを抱いた。
「ルミカさん、お久しぶりです」
艶やかな異国の洋服を着こなした少女。切れ長の目と鼻筋は、見覚えがあった。
「ああ~!お久しぶりねキヌエちゃん、ん……」
少し離れて、異国の服を着た5人の少年少女に目が移った。こちらを伺っている様子に首を傾げた。
話を聞いたルミカは、港近くにある。行き付けの甘味処『あまご』の座敷を借りて、フタバは留学先。アレイ学園で、友人になった5人を紹介していた。
「まあ~!、そんな遠くから和の国まで遊びに。あのフタバが友人を連れてくるなんてね~」感慨深い吐息を吐いていた。何時もと違う姉のはしゃぎぷりに。少し気持ちを焦らせたフタバは。思わず言葉を濁す。
「うん、そそうなんだよ」
怪しく誤魔化していた。違和感を覚えたルミカ、だが少し弟も変わったのね程度に考えていた。姉は母に似た顔立ち。気が強く。はっきり物を言うせいか、男勝りなところがあった。フタバも母が留守がちな時は、世話をしてもらってきたから……、もう1人の母のイメージが刷り込まれていて。姉には頭が上がらないところがあった。
「じゃ~、みんなはまだ宿も決まって無いわよね?」
「あっ、一応リドラニアの別邸で、今夜宿泊出来るから大丈夫ですよ」にこやかに説明したのは、元悪餓鬼三人組の1人マイト・ラネスである。女性受けする。美少年の風貌は、遠く諸島国においても絶大な効果を発していた。思わず魅力的な美少年の笑みを間近で見たルミカは、途端に顔を赤らめ。急に髪とか気にし出した。それを見た六人は、またかと苦笑を浮かべる。
「あっ、きっ、きみお名前は♪」
「始めまして、マイトと申します。お姉さん♪」
恐らく計算しつくした。キラキラ輝く笑みに。ズキュン胸を押さえ真っ赤になったルミカ。フタバが複雑そうな顔をしていた。
「姉さん。明日さ俺達ジャックさんに挑戦してくるよ」
「へえ~、ジャックさんに挑戦ね……、なっ何ですって、ジャックさんに挑戦ですって!」
急に我に返ったルミカの声は、裏返っていて。すっとんきょうな声を上げていた。
諸島国の若者は、成人の儀式に。三魔王から。試練を受けることを許されていた。どのような試練を受けるかは、本人次第になる。しかし一度魔王の前で宣言した誓いは、それを成すまで、二度と祖国の地に足を踏み入れること叶わない。厳しい物である。
「フッ、フタバ……、あんたまっまさか、本気じゃ無いわよね?」
血の気を失ったルミカが、弟の胸ぐらを掴んで。ぐらぐらと譲っていた。
「姉ちゃん聞いてよ。みんなその為に来てくれたんだ。俺達が、悪竜ダークサイスを討伐する!」
決然と。宣言していた。
その日……、錯乱した姉に引きずられたフタバと。母が待つ道場にお邪魔していた。
「お帰りなさいフタバ♪」
おっとりした顔立ち。目元がルミカにそっくりの美しい女性が。笑みを称えながら、みんなを出迎えていた。おや首を傾げた。不機嫌そうな娘ルミカの顔を見て、何かあったと察していた。
険悪な表情の姉と口下手な弟に変わって、キヌエが、フタバの思いを代弁した。
「さすが私の息子です!」
「おっお母さん」
困惑した顔で、母を振り返る。しかしルミカの思惑と違い、武家の当主は帰って来たばかりの息子。ルミカには信じられない主張を。肯定した。
「そっ、そんな……」
信じられない。まるで母にまで裏切られた。ルミカさんはそんな顔をしていた。しかし武人のフタバ、武家の当主である母は、息子の覚悟を理解していた。それは武家に生まれながら。武道とは疎遠なルミカにとって、理解出来ない事柄。
「本気なのフタバ?、嘘よね、嘘よだね……」
「ゴメン姉ちゃん。俺達、明日火の国に行くよ」
「………!」
いきなりルミカは立ち上がり、お茶請けのあられをわし掴みして、フタバに投げつける。
「なっ、姉ちゃん何すんだよ!」
「ばかばかばかばかばかばかばかばかばか!、ばかフタバ、あんたなんか知らない」
目に一杯涙を浮かべて、罵ると。そのまま部屋を飛び出していた。
「……姉ちゃん……」
驚き、戸惑った顔をしていた。
「フタバ今すぐ追いかけた方がいいよ~。きちんと話して、納得させなきゃ、きっと後悔するわよ」ここまで無言だったリナが、珍しく強く背を押していた。
「うん!、わかったリナ、俺話してくる。ありがとうな」
それまで、無言でフタバの友人達を観察していたオリミは、以外そうな目をリナに向けていた。別段気にかけていなかった少女から。凛とした強さを感じたからだ。それはこの場にいた。武人で、幼なじみであるキヌエ以上の腕前を持った友人達。あまりに強い光故。隠れていた。だから今の今まで気が付かなかった。彼女には普通の武人にはない。惹き付ける何かがあった……。どうやらこの場に居るものは少女の力を知っているようだ。
(あのフタバが、成長するわけだわね)
恐らく。今のあの子の腕前は、オリミ以上になっているのん察していた。息子の成長に。誇らしい気持ちを抱いた。
━━その夜……。フタバが籠城する。姉のルミカ部屋前で、どう説得したか、みんなは知らない、でも喧嘩別れしなくて良かった。みんな安堵していた。
━━翌朝。諸島国を繋ぐ船着き場まで、お姉さんが見送りに来てくれた。未だに鎖国を解いていない。火の国に渡ること決めたフタバの意向である。どちらにしても三人の魔王に許しを得なければ、死の島に渡れない。そこでフタバの要望で、ある約束を果たすため。火の国に向かうことになった。
「フタバ忘れ物ない?」
「ないよ」
「胃腸薬は持ったわね?」
「大丈夫、二回確かめたから」
「母さんが夜なべして、父さんの腹巻きあんた用に繕ったの忘れて無いわよね?」
「大丈夫だって、ほらな」
わざわざ着物をはだけ、下に巻いてる腹巻きを見せる。
「じゃ、これは私からの餞別よ」
御守りをフタバの手に握らせる。
「うん、ありがとう姉ちゃん」
「!」
ルミカはフタバを抱き締め。泣きそうになるのをぐっと堪えた。
「しっかり見てもらいなよ、ジャックさん達に。あんたの成長した姿を!」
「……うん。土産話。期待しとけよ姉ちゃん!」
からりとした。空のような笑顔で元気に手を振り上げ、ルミカの大切な弟は、船に乗り込む。
今や男らしい顔をしたフタバの側には、幼なじみでライバルのキヌエ。そして……留学先で出会った友人達。ルミカは船が見えなくなるまで、手を振っていた。
諸島国の玄関口。
和の国、火の国、呉の国とは近海の海でつながっている。火の国を経由しなければ石の国、弍の国に向かう船が出ていない、それを考えれば最初にフタバと交流が深く。三魔王の中でも子供好きなジャック・オーラタン。かの魔王の元に向かうことは悪いことではない。
懸念があるとすれば、フタバを特別お気に入りだったことだ。キヌエとは拐かされた時。知り合ったという。
「なあコウ……俺さ、ジャックさんと約束があるんだ。きっと認めさせて、悪竜ダークサイス討伐の言質取るから。俺のこと信じてくれるか?」
「ああ~信じてるぜ、じゃなきシア達に。内緒にした意味無いだろ?」
「そうだね……きっとクリミアなんか。『黙ってるなんて酷いです~』とか文句言いそう」
「だな、マリアナなんて、『そんな楽しそうな旅行!、私達に内緒なんで、魔法当てますからね』とか言って、スゲー文句言うんだぜ」
フタバとキヌエには、アレイ学園で知り合った沢山の友達がいた。皆に内緒にしてきたからこそ。
(多分許してくれないだろうな……)少しだけ落ち込んだ。
「悪いなコウ……」
「まあ~気にするな、最悪マイトにとりなおして貰うからさ~」
にやり悪戯ぽく笑うから。少し呆れた顔で、とりあえず突っ込んでおく。
「マイトも最近女運悪いから。気を付けないと刺されるぜ」
「ああ~あれだろ噂じゃ、女優の……」
「コウ、その相手はぼくじゃないよ」
とりあえず海を眺めながら。二人の話に釘を刺しておく。そして三人は揃って、顔を赤くしてる。ミルナの思い人レンタを意地悪く見ていた。
「クッ、なっななななんのことだ」あの悪口からでしか返事が出来ないレンタが、苦しい返答である。訳知り顔のリナ、キヌエに、タイチが物憂げな顔を向ける。
「私も又聞きだから詳しくは知らないけど。ミルナさんって女優さんがいてね。彼女私の友達なんだけと。町で、酔っぱらいに絡まれた時レンタくんに。助けられたんだって」
「あれそうなの?、私クリミアから聞いたら。ミルナさんが好きな人にフラれた時。優しく抱き締め、慰めてくれたから。それがきっかけで付き合い始めたって聞いたわよ?」
何故。皆あの日のことや出会いのこと知ってるんだ?。やや愕然としていた。周りの視線感じて、急激に恥ずかしくなって、手まで真っ赤になったレンタは、意味もなく俯いていていた。
「そう言えばリナこの間お店に。ミルナさんいたよな?」
ピクリと。分かりやすい反応をしたレンタ。普段何事にも斜に構え。商人ですからって顔をしてるだけに。こうもからかいやすいキャラクターだったと知ったコウ達は時々。こうしてからかい楽しむのだ。
エピローグ
「でも不思議なのは、ミルナさんの方が、ぞっこんってことだよな~」
先ほどから話に出てくる女性、本名プラナ・プレイ・ミルナとは。アレイク王国で、世界議会開催の年に。名前が知れ始めた人気女優である。フタバ、キヌエはその当時。劇場のお手伝いをした関係で、仲良くさせてもらっていた。
接点がまるでない二人が、どうやって知り合ったか、実は誰も知らない。でも人気女優と学生の恋は、今や注目の的である。
そんなレンタは『院』に行かず。来年の卒業後に。家業を継いで商人になると言っていた。コウは第1師団下級士官扱いで内定をもらっているし。三人の中でマイトだけが『院』に残るそうだ、やはり夢の宮廷魔導師を目指すのだろう。当のレンタは、恋人ミルナさんに猛アタックを受けていて、本人も満更でも無さそうだ。しかしまだ半人前の自分にはと、斜に構えていた。
アレイク王国に芽吹いた多くの種は、種子となり諸島国に向かいました。無事悪竜ダークサイス討伐を三魔王から。許しを得れるのか……、また同じ物語か、本編の『少尉ですか何か?』『苦労人ですか何か?』で、背徳の魔王でした。