二章『今日も今日とて最強です』2
ごくり、と桜は唾を飲む。建物が跡形も無くなるほどの砲撃を受けても無傷だった少年。
確かに、そんな人間を生かしておくのは怖いと思ってしまった自分がいた。
それは政府の上層部の人間達と同じ感想であり、すでに儚く散った希望でもある。
「それから、俺は自分を守るために魔法を学び、自分の望む魔法を使えるようになった。俺の能力上、強い魔法じゃなくて良かったからすぐに身につけることができた。それから4ヶ月後、再び国から通達が来た。次は基地への招待状だ」
おそらく、二回目の『魔法兵器爆破事件』のことだろう。一回目からたった4ヶ月で二回目とは、殺すつもりですよと言っているに他ならない。
「俺は力を試せるとスキップで基地へと向かった。そして、基地に入ってからいきなり爆撃をくらって、そこから俺vs軍の戦いが始まったってわけだ。
まあ、結果は今ここにいるように、俺の勝ち。全部の爆撃、砲撃、魔法を受けきった俺の完全勝利だな。
ムカついたからとりあえず戦車を全部ひっくり返してやったがそれくらいしかしてないんだから、俺って優しいよなぁ」
確かに抹殺を目的とした行為をされて、それだけの仕返ししかしなかったのは優しいかもしれないが、そもそも生き残っている時点で普通の人間ではない。
「国は諦めたのか?」
「国といかなる場合もどの国の戦力として戦闘に参加してはならないって契約を結んで和解した。向こうも随分金をかけてたみたいだし、あれ以上は無理だろうな」
暁はキッチンの戸棚を開けて、食パンを取り出す。それから食パンの上に、バター、シナモンシュガー、切ったバナナを乗せる。
「お前、朝ごはんは食べてきたのか?」
「少しだが、一応」
「なら作ってやるから食ってけよ」
もう一枚新しい食パンを出して同じものを用意する。
「『ファイヤ』」
下級魔法の名を唱えると暁の両手から炎が出る。その炎によってバターが溶け、シナモンと混ざり合い、いい匂いがこちらまで漂ってくる。
「ほれ」
出された皿にはバターとシナモンが染み込みバナナが柔らかくなった、いかにも美味しそうな食パンが置かれている。
「いいのか?」
「もちろんだ。俺は制服に着替えてくるから先に食べていてくれ。足りなかったら俺のも食べていいから」
「お前の中で私はそんなに食い意地を張るイメージなのか!?」
「ははは」
「否定しろ〜!!」
桜の言葉には返事をせず、暁はリビングから出て行く。
リビングには1人、桜だけが残される。
「昨日の喫茶店でケーキを食べたのが悪かったのか……」
そんなこと言って項垂れながら、桜は甘い匂いにつられてパンのある机に腰掛ける。
そして、躊躇なくパンに手を伸ばしかぶりつく。
「うまぁ〜」
バターの甘さとシナモンの風味がマッチしていて、パンはサクサク、バナナはとろりととろける。
基本的に家では和食しか出ない桜からすると滅多にパンを食べることがない。
だからこそ、新鮮でより美味しく感じる。
この後、桜が迷うことなく二枚目も食べたのは言うまでもない。