八章 『新入生トーナメント』4
「さっきの試合、見させていただきました。あなたの炎は随分器用に動くんですのね。私には後ろから来る相手を見ずに的確に炎を動かすことは無理ですもの」
灰色のフィールド上で向かい合うと、アリスは含みを持った笑みを浮かべて鬼嶋に言った。それを聞いた鬼嶋は、相手は自分の能力を理解していると気づき、ニヤッと笑う。
「おう、ちょっと炎の扱いには自信があるんだ。俺もフィルフォードさんの戦いも見たぜ。正面からの火力勝負。男らしくて俺は大好きだぜ」
「あら、それはうれしいですわね。名前はアリスと呼んでくださいな」
「なら俺も竜斗と呼んでくれ!それじゃあそろそろ」
「ええ、そうですわね。観客たちも待ちきれないようですし」
鬼嶋がギュッと手を握りしめると、弱くなり始めていた体の炎が再び力強く揺らぎ始める。
『Bコートもいよいよ決勝戦となりました!優勝候補であるフィルフォード・S・アリス VS 炎一筋 炎魔法だけで勝ち進んで鬼嶋 竜斗!! どちらが最終戦に駒を進めるのか!!それでは!!!スターーーーーート!』
「では『氷柱』」
「のわっ!!!」
開始の合図と共にアリスは、鬼嶋の足元から氷柱を出現させて空高くに打ち上げた。
「纏うは不死の炎。我が身尽きようと燃え尽きることなかれ!『滅身獄炎』」
高く飛んだ鬼嶋は手を合わせて詠唱し、自分の下に魔法陣を作った。上がるのをやめた体は、重量によって自然と魔法陣を抜ける。
「お返しだぁぁぁぁぁ」
背中から炎を吹き出して重量に加えて加速。
「『炎鬼の爆拳』!!!」
右手に炎を集めた鬼嶋は、さながら隕石のようにフィールドに落ちていく。
「火力勝負。受けてたちますわ!『氷柱』」
対してアリスは二本の氷柱をその鬼嶋に向けて伸ばす。
炎の拳と氷の柱の衝突。
炎はバリバリバリバリと氷柱を砕いていく。だがそれに劣らぬスピードで氷柱は伸び続ける。次第に砕ける音は少なく、小さくなっていき、
「くそっ!!」
鬼嶋は再び空へと打ち上げられた。
「次はどんな技をみせてくれるのでして?」
その声は届かずとも鬼嶋には伝わる。
「次はもっと凄いのを見せてやる!!」
空中で拳をガンっと重ねると、爆発したかのように炎が吹き出る。その炎は体に纏わり、鬼嶋を炎の化身に化けさせる。
「次は打ち砕く!!!『炎鬼の雷』」
そう唱えると鬼嶋は目を閉じて、炎を消して自然落下に入る。
(炎を消した?諦めたのでしょうか。いえ、あの性格で諦めるはずがありませんわ。)
アリスは身体に力を入れて、意識を尖らせて空を見上げる。
瞬間、空で何かが発光したのを見た。
「!?!?『氷盾(シールド・ オブ・ アイス)』」
咄嗟に両手を交差させ、地面から氷を伸ばして自身の前に氷の障壁を作る。
しかし、それも一瞬、その氷が弾ける。
「くそっ」
氷砕いた張本人と目が合う。それから、爆風と爆音がアリスを襲った。
「きゃあっ!?」
フィールドから吹き飛ばされそうになったアリスは、後ろに氷の壁を作って体を支える。
『凍てつけ、その身動かせぬほどに、絶対零度』
そこからすぐさま体勢を立て直し、詠唱付きの魔法を放つ。鬼嶋は詠唱するのを聞いて咄嗟に後ろに跳ぶ。だがしかし、絶対零度は範囲攻撃魔法であり、加えての二重詠唱。威力を増した魔法はフィールドのほとんどを効果対象としていた。
「んなっ!?」
再び足が地面に触れた途端、あっという間に首より下が氷に包まれる。
「威力はまだまだ弱いけれど、高難易度の拘束魔法よ。諦めてくださいな」
「いんや、まだまだだぁ!!」
鬼嶋が再び轟々と燃え始める。だが、体を覆う氷に変化はない。
「うぉぉぉぉ!!」
さらに炎は強くなる。だんだんと色は黄色味を増していき、
「グッグルォッァァッ!!」
鬼嶋が人間が出す声とは違う声を出し始めた時、炎は青白く変わった。そこで、氷がバキバキバキッと音を立て始める。
「まさか!」
「グルルゥラァァッアァァ!!」
そして…………鬼嶋の炎は消えた。
「え?」
あまりの突然すぎる出来事にアリスはキョトンと目を丸くする。
「オーバーヒートだ……もう動けねぇ……」
さっきまでの威勢はなくなり、力ない声で降参を告げる。
『鬼嶋 竜斗行動不能! Bコート決勝戦 勝者はフィルフォード・S・アリス〜〜〜!!!』
アナウンスを皮切りに、白熱した戦いに息をのんで静かだった観客席がドカンッと歓声が溢れる。アリスはしばらくして我に返り、自分の勝利を認識する。
「竜斗、熱い試合をありがとうですの」
「こちらこそ、それより……」
鬼嶋は青ざめた顔を上げる。
「氷をとかしてくれないか……」
氷vs炎っていいよね




