八章『新入生トーナメント』1
お待たせして、すいません
〜聖フィルリード学園 Bコート〜
『試合終了!Bグラウンド準決勝!勝者、アリス〜』
Bグラウンドに実況者の声が響き渡る。グラウンドといっても形はコロシアム型で、円形に観客席が並び、中央で生徒達は戦っている。
「それにしても」
観客席に座る桜がアリスの試合が終わったのを見て、口を開く。会場には、実況者による試合の見直しとポイントの流れている。
「思ったより早く進みましたね」
「そうかしら?」
時刻は12時過ぎ。桜のいたAグラウンドは、すでに決勝戦を桜が勝利という結果を迎えていた。Bグラウンドは現在片方の準決勝が終わったところだ。
学年全員(1人を除く)によるトーナメント戦をしているにしては、かなり早い。
「まさか、真ん中にある台が割れるとは思いませんでした」
桜が言うのは、Bグラウンドの中央にある大きな正方形で灰色のフィールド。それが一回戦目の時に4つに割れ、4戦同時に行われたことである。
Aグラウンドでも4つの戦闘範囲が設けられていたが、地面なので直接マークされていた。準決勝からは1つに戻され、今に1つ目の準決勝が終わったところだ。
Bグラウンドは、混戦が多いらしくAより時間がかかっている。といっても桜が来たのはアリスの試合が始まる前だったので、あまり差はない。
「あれは魔法でくっ付けたり、切り離したり出来るからね。ちなみにうち産よ」
「確かに月見先輩の会社なら作れそうですね」
真横に座る月見が得意げな顔を浮かべる。その隣に座る三ツ茅先輩はというと、月見先輩の荷物やら食べ物やら全てを持たされて座っている。
随分と尻に敷かれているようだ。言われたら──いや、むしろ言われる前に月見先輩のために行動していた。
「アリスさん、すごい強かったね」
三ツ茅先輩が、月見先輩に食べ物と飲み物を渡しながら言う。
「暁と戦っていたのを見ていた時から強いとは思っていたけれど、あの子魔力量が馬鹿多いわね。あんなボンボン大技撃たれちゃたまったもんじゃないわ」
「けど、まだまだ余力がありそうだったよ。何かまだ使ってない技があるのかな」
「そういえば、私、アリスの固有能力見たことないかもしれません」
桜はアリスが魔法を使っていた場面を思い返す。グラウンドでの暁との戦いに加え、この試合を含めた全ての試合で、固有能力らしき力を使っていた様子はなかった。
「じゃあ、それかもしれないね」
「固有能力ね……桜の固有能力はなんなのかしら?」
「私は『空間把握』っていう能力で、一定範囲の物とか魔法を感知することができるものです。月見先輩は『宙遊躍乱』ですよね?」
「その通りよ。空中でも動ける便利な能力なの。それよりうちの蓮の固有能力は凄いわよ?是非、聞いてあげて」
「別に凄くはないけど……」
嬉々とした顔で言う月見先輩に対し、三ツ茅先輩は恥ずかしそうに頬をかく。
「『危機察知』って言う能力でね。自分か近親者に危機が迫ると直感的に分かるんだ」
「近親者というと、家族とかですか?」
「僕は孤児だから家族はいなくてね。だから、その近親者っていうのは……」
「私なのよ」
三津茅先輩の言葉を遮って、月見先輩が目を輝かせて言う。凄いかどうかは別にして、これを自慢したかったということだけはよく分かった。
「ラブラブなんですね」
「もちろんよ」
「遊奈、声が大きいよ……恥ずかしいなぁ」
「随分と賑やかですのね」
後ろからアリスの声が聞こえてくる。
「アリス、お疲れ様」
桜は、空いている自分の隣へとアリスを手招く。
「お疲れ、アリスちゃん!さっきの試合は余裕だったね〜」
「そんなことはありませんわ。相手の方もよく鍛錬されていましたの」
とは言うものの試合の内容は、一方的なものだった。対戦相手である男子は、防御魔法を得意としていて、前の試合までは、守りつつ隙を突く戦法で勝利していた。
それに対してアリスがとった戦い方は、ただひたすらな上級魔法の連発。
男子の方は、一度の反撃のチャンスも貰えず、防御魔法を破られ敗北となった。
「5分とかからなかったがな」
「暁の時のように地形変化するような魔法は使わなかったですけど、それでも20発近い上級魔法に耐えたのですわ。この年でそれだけ出来れば上出来でなくて?」
防御魔法はあまり人気ではない。発動中は他の魔法が使えず、保っているにはかなりの集中力を要する。
そしてなにより、目立たない。
基本はサポートとしてパーティ戦などで使うことが多いのだが、今回のように個人戦で使われることはほとんどないのだ。
「確かに、普通の人ならそれだけの攻撃に耐えるのは難しいわね。
それにしても防御魔法で戦うなんて珍しい。うちの学年にはいないし、今度戦ってもらおうかしら……」
そう言った月見は、ブツブツと自分ならどう戦うかを模索し始めた。
「ほら、三人とも。そろそろ上井草さんの試合が始まるみたいだよ」
それに対して、話に混ざっていなかった三津茅が、会場の中央に立つ二人に注意を促す。
もう1つの準決勝。勝ち上がってきたのは、上井草 飛鳥と鬼嶋 竜斗という炎系魔法を得意とする男子生徒だ。
「鬼嶋くんと飛鳥か……飛鳥としては苦手な相手かもな」
鬼嶋は桜たちと同じクラスで、明るく、活発なイメージが強い。真っ赤な目に、真っ赤な髪。髪にまでその元気さが伝わっているのか、重量に負けじと逆立っている。制服も赤を選択するほどの徹底ぶりは──もはや、暑苦しいレベルだ。
「彼の炎は威力はもちろん。範囲もなかなか広いからね」
飛鳥の『瞬間移動』は、自由自在に移動できるので、死角に移動してからの攻撃がここまでの試合では多い印象だった。それに対して、全体を覆うように放てる魔法は死角がないので、飛鳥には攻めにくくなる。
「火傷覚悟で突撃をするか、何か策があるのか」
「見物ですわね」
桜とアリスが見つめる中、2つ目の準決勝の開始の合図がBグラウンドに響いた。
男キャラ少ないですよね……
もっと出していきたい




